34、砕かれた正義『不快』
関翔という男は、やたら俺に対抗心を燃やす童貞くさい奴だ。
ビジュアル、立ち方、言動。
全部が潔癖さや精練さの欠片も見当たらない。
「なんだよ?散々ギフト所持者を襲ってきたギフト狩り風情がお仲間の死に憤慨でーす!ってか」
「別に俺はその裏切り者なんかどうでも良い。元々彼女とらウマが合わなかったからな」
「あらあら。可哀想な麻衣ちゃんだねぇ」
岬麻衣の死体を見ても動揺もせず、平然としている。
ギフト狩りは、仲間同士の絆とか協力体制とかそういう群れる体質が厄介なところと認識していただけに尚更憐れみに思える。
「…………」
なんだろうね?
麻衣を殺害したのは俺なのに、俺の方が彼女の死を哀しんでいる矛盾は。
彼女の身の上話を大真面目に聞いた俺は、もし次の人生があれば全てを受け入れてくれるような親友とか出来てくれればと祈るばかりである。
「ただ岬のことは粗暴なだけの女と思っていたがあんなに男に黄色い声が出せる奴とは思わなかったぞ」
「俺の方が付き合い短いはずなのに、お前には全然懐かなかったんだな。まぁ、お前みたいな奴に懐かれるのもゾッとするがな」
「煽るじゃないか。俺がゲスなギフト狩りであるなら、君はクズでゲスな男じゃないか」
「やけに引っかかるなお前」
「明智が嫌いだからだよ」
関がぎりっと強く噛み締めながら、威嚇をするように睨み付ける。
その顔は典型的なギフト狩り──不幸をばら蒔くようにうす汚い。
「お前、このギフトに見覚えはないか?」
「あぁ!?」
関がそう言うと氷柱のような氷の刃が彼の手に出現する。
麻衣の情報によると、関のギフトは『ギフトをコピーする能力』だったはずだ。
つまり、この氷の刃は彼本来のギフトではない。
そして、その持ち主は確かに1年前に絵美と一緒に出くわしていた。
名前は確か……。
「上松ゆりかのギフトか。クハッ、懐かしいなそいつ。俺が飽きるまでレ●●して、キノコで尊厳を奪った奴じゃねぇか。あぁ、あと殺したんだっけか」
「お前っ!やっぱりお前が上松を……!」
「あ、お前あの変態くノ一女が好きだったのか?わりぃな、あいつの命も処●も心もなにも奪ったのが俺だよ。死の間際まで俺のことしか考えずに死んだだろうな。関なんて男なんて忘れたまま、な……。これはある意味、俺とゆりかが相思相愛だったってことじゃないか。殺したのは確かに俺だが、行為中は確かに俺はゆりかが大好きだったよ」
「っっっ!お前は!お前だけは生かしておけない!純粋なギフト狩りの敵だっ!」
「あー、童貞の嫉妬は見苦しいねぇ……。処●の嫉妬は可愛くても、童貞の嫉妬はキモいだけなんだぜ」
関が本格的に俺を狩る対象に選んだのか、氷の刃を出現させる。
「上松の無念を晴らす!ここでお前は殺す!ギフト狩りの名において、お前らのようなクズをこの世から消し去るっ!」
「でも残念。俺は最強のギフトを持っているんだよ。【自分で自分を撃て】」
「なっ!?」
氷の刃が関の頭を狙うように回転する。
あぁ、結局こいつも雑魚なんだよ。
他人のギフトしか使えない卑怯者め。
お前が世界で1番、卑劣で下等なギフト使いだ。
「さぁ!自分で自分を貫けっ!」
「…………なんてな。残念だが俺にギフトは通じない。ほら」
「なっ……?」
氷の刃が関の意思で消失する。
意味がわからない。
そんな、まるで『アンチギフト』みたいな──。
「まさか、てめぇ!?」
「瀧口先生風に言うなら|σωστή απάντηση《そういうこと》。お前の相棒のギフトってやつ」
「あんのっ……クッソ無能がぁぁぁぁぁぁ!」
「そして、俺はお前のギフトも手に入れた。詳細は知らんが、そのお前のギフトの使い方から推理すると相手に命令できるのか。【自分で自分を撃て】」
「ぐっ……、この野郎……!?」
拳銃が手から離れない。
力を入れたくなくても強制的に指が引き金を引こうという意思が働く。
俺の身体の胸に吸い込まれるように拳銃を握った右手が動く。
ふざけんな。
ふざけんな。
ふざけんな。
ふざけんな。
ふざけんな。
ふざけんな。
ふざけんな。
ふざけんな。
ふざけんな。
俺がどう足掻こうとこの指は引き金を引かせると命令されていて、成す術がない。
あんのっ、無能がぁぁぁぁぁぁ!
「そういえば上松は全裸で川に身を投げたんだったな。お前がそう命じたんだな。どうだ?今からその上松と同じギフトに逆らえない末路を迎えるのは?」
「クソがぁぁぁ!死ねぇぇぇぇ!」
「死ぬのはお前だ」
バァンと引き金が鳴る。
自分の身体が血がドバッと広がっていくのがわかった。
「…………」
あぁ、チクショウ……。
ヘマやらかしたな……。
視界が水に濡れたようにどんどんと雲っていく。
焦点が合わなくなってきていた。
「前座は終わった。次は友達を殺しに行く」
むかつく関の声が耳に届いた……。
◆
「五月雨茜か……」
最近ちょっとずつ絡むようになった後輩。
俺には後輩と呼べる後輩が少なかったから、五月雨がお気に入りでもあった。
ルビーとサファイアみたいな眼は人によっては不気味に思えるかもしれないけど、美しかった。
そんな五月雨が乙葉と遊んでくれるのは嬉しかったし、乙葉が喜んでくれて嬉しかった。
躊躇いはある。
……けど、どんな理由があったって乙葉を殺して良い理由にはなれない。
秀頼と別れて、俺は真っ直ぐに1年フロアへ向かう。
「居たぞ!十文字だっ!」
「ギフトのクズ野郎だ!俺たちギフト狩りがお前を狩ってやる」
「ふふふっ。3対1ね、可哀想な十文字少年ね」
坊主男、イキリヤンキー男、ロンゲ女の3人の先輩が俺を包囲する。
学校の教師が2人、3年に3人、2年に2人、1年に1人がギフト狩りの内訳と秀頼には聞いている。
3年のギフト狩り先輩が自ら出向いてくれてこちらも探す手間が省けるってものだ。
「一気にいくぞ!圧死しろ!『グラビティギフト』!」
「弾けろ!『指弾』37連発!」
「泣きわめきなさいな。『感情操作』!」
「…………」
大人げなく3人が遠慮なしにギフトを大放出させる。
ボゴッと嫌な音を立てて、床が崩れ始める。
「やったか!」
重力使いが嬉しそうな声を出したのが、苛つくほどに不快で吐き気がした。
「……お前邪魔」
「ひっ!?」
足場が崩れ際に跳躍し、1番厄介そうな重力使いの男に接近する。
利き手である右手に秀頼から授かったゴツいナイフを持ちながら首をかっ斬る。
赤い一線が首に描かれる。
「がっ……!?」と、息を吐き出しながら坊主の先輩が地面に倒れていく。
「良樹!?」
「俺を殺すならギフトの弾丸じゃなくて、実弾で殺すんだな」
「ひぎっ……!?」
頭に押し当てながら引き金を引く。
秀頼から『初心者の命中の精度なんかたかが知れているんだから、押し当てて撃っとけ』というアドバイス通りにヤンキー先輩の脳ミソを直に狙い絶命させる。
「な、なにこれ……!?う、鬱になりなさい!か、『感情操作』!」
「…………」
「ど、どうして!?今のあなたは鬱になり動きたくない!立っていたくすらないでしょ!?なのに、なんで立っていられるの!?」
「先輩のギフトが弱いからじゃないですか?ナイフと拳銃、どっちで死にたいですか?」
「う、嘘……!?『感情操作』『感情操作』『感情操作』『感情操作』『感情操作』『感情操作』『感情操作』『感情操作』『感情操作』『感情操作』『感情操作』『感情操作』『感情操作』『感情操作』『感情操作』『感情操作』」
「100回やったところで、俺の感情は怒りしかありませんよ」
「うっ……!?」
こちらが感情を操作したわけでもないのに涙を流し泣き出したロンゲの女先輩の口の中にトカレフをぶっ刺す。
「ひぃぃぃっ!?」と怯えた声を漏らす。
乙葉は怯える暇もなく殺されたのだろうか?
だとしたら、俺はなんて優しいのだろうか。
「ご、ごへんなさいあけるふぅん……。もひゆるひてふれたなら……、わたひといいおとしよう?ね?だ、だはらゆるひて……」
「ちょっと何言ってんのかわかんない」
躊躇いなく引き金を引く。
女の顎が爆ぜて、血と硝煙の忌まわしいにおいが2つ混ざる。
人を殺すのがゴキブリを殺すよりも100倍以上に不快なことだと理解してしまった。
それでも、歩みは止められない。
「良いこと?興味ないね」
1年フロアはもうすぐ目の前だった。
1年5組の教室が見えてきた時だった。
「おはようございます十文字先輩。ギフト狩りの五月雨茜です」
とことことこと教室から小さな足音を立てながら、ターゲットの方から近付いてきた。
向こうも、俺が恨みを持っていること気が付いているらしく、頭を下げる。
「戦う前に申し訳ありません。同士の先輩方にお祈りさせてください」
坊主、ヤンキー、ロンゲと順番に五月雨は目を瞑り、手を合わせていく。
こんなに良い子がギフト狩りなんかしているんだからな……。
乙葉の敵相手というのも忘れてしまい魅入ってしまっていた。
「ありがとうございます。十文字先輩」
やりたい事を済ませると、覚悟を持った目で俺を見上げてきたのであった。
敵打ちはもうすぐそこだ。
タケルがうっかり関にギフトを渡してしまうシーンはこちら。
第16章 セカンドプロローグ
4、上松ゆりかのジト目
参照。
秀頼はこういうのを防ぐために、タケルを守りました。
クズゲス本編の関は『アンチギフト』は使えません。




