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33、砕かれた正義『殺戮』

「ん?猟銃か?珍しいな。なんか私の田舎を思い出すぞ」


タケルが発砲した音は、ホームルームをしていた彼のクラスの教室まで響いていた。

担任である星野が銃声の珍しさにホームルームを中断していた。

「話が逸れたな。今日は先生の都合で2時間目と5時間目の授業内容が変更することに」と説明に戻った時だった。

ガラッと1人の生徒が立ち上がる。

長い金髪に、毎日被っている仮面が段々とクラスに馴染んできた仮面の騎士であった。


「どうした?仮面?突然立ち上がって?」

「…………猟銃じゃない」

「……え?」


星野が普段だんまりな仮面の騎士が突然声を出したことと、彼女の言葉。

2つ同時の驚きに戸惑ってしまっていた。


「これは拳銃の銃声だ。逃げろ、テロの可能性があるぞ」

「ちょ、ちょっと仮面!?」

「アリア様。すぐさま、学校を離脱します」

「あ、アイリ!?あなた一体……?」

「背負ってでも、避難します」

「うわわわっ!?アイリ!?下ろして!?下ろしてぇ!」


仮面はクラスメートの目の前で、バタバタ暴れるアリアを片手でひょいと持ち上げ、すぐに片腕で彼女をロックする。

あまりの姉の強い力に、アリアが拘束を外そうとしても外れなかった。


「少しくらい重くても我慢します!」

「重くないわ!平均よ!というか、体重だってあんたより軽いんだからね!後で髪引っ張ってやるんだから!」

「はいはい、わかったわかった。皆さんも逃げた方が懸命です。では」

「あっ!?おい、仮面!?アリア!?」


仮面の騎士は星野の制止も聞かず学校からの脱出を試みる。

彼女の素早い動きは、殺戮が起こる学校の中でも1番の避難者であった。

彼女らの動きがこの場での1番正しい反応であったが、今はそんなことわかるはずもない。

仮面の奇行にクラスがざわざわと騒ぎだす。


(テロだと……?なんだそれは?タケルを連れて逃げないと……。ん!?タケルが不在!?明智も居ない)


ヨルはタケルと秀頼が不在の教室に嫌な予感がしてきた。


(まさか……、赤坂乙葉の殺害……。未来でタケルが『あの時に犯人がわかっていたら殺してやりたいって何度も思った』って語っていた……。嫌な予感がする……)


ヨルは不穏な空気を感じ、ペンダントを握り締めながら教室を飛び出す。

「待ちなさいヨル!?まだ大人しく!」と担任の星野の言葉が投げ掛けられたが、ヨルは制止を振り切り、廊下を駆け出していった。






─────






タケルとは別行動になって、ギフト狩りを探すことになった。

あいつは肝心なところでスキル【無能】が発動するから一緒にいると何が起きるかわからない。

そんなわけで、俺は1人で学校の廊下を歩き出した。


「乙葉ちゃんを殺害した実行犯はおそらく五月雨茜だ。タケルちゃんには期待してるぜぇ?」


この場にはいない相棒に向けてアドバイスをする。

五月雨茜なんか俺はどうだって良い。

ただ、俺が迷惑しているギフト狩りは全員ぶっ潰す予定だったし攻撃する大義もあるし、この機会が丁度良い。


「おい、明智!その物騒な物はなんだ!?エアガンの持ち込みは禁止だぞ!?」

「【あ。うぜぇんで屋上からダイブして死んでください】」

「わかった。死んでくる」


体育教師の基礎熱血マッスルに躊躇いなく『命令支配』を使用する。

有り余っている足の筋力を駆使しながら死に向かって全速前進を続ける教師を流し目で見送る。

出会う奴1人1人を拳銃を発砲していくのはコスパが悪いしこれくらいが丁度良い。


「うおおお!死ぬぞー!」と基礎熱血の熱い声が廊下に響き渡っていた時だ。

──ジリリリリリと、うるさい警報が鳴る。


『ギフトアカデミーの皆さん。中村先生が校門付近で殺害されました。手を下した何者かが校舎に入り込んでいます。素早く脱出してください!お願いです、早くっ!』


学園長の近城悠久の切羽詰まった放送が学校中に鳴り響く。

おー、おー。

ベッドの上では『好きな人がいるからやめて……』と泣き虫な悠久お嬢様が、学校ではこんなに凛々しい声が出せるなんて知らなかったぜ。

学校中に泣き虫クソ雑魚悠久の姿を晒すのも面白そうとか考える。

面白い女だとクスクス笑っていると、職員室から知った顔が飛び出してきた。

彼女は既に、中村へ手を下したのが誰なのかわかっている様子だった。


「明智君っ!あんた!」

「あっ、おはようございます悠久お嬢様」

「あんた……、自分が何しているのかわかってるの!?」


悠久がベッドの上とは正反対に、凛々しく睨みながら非難をしてくる。

怖いとか一切思わせない可愛い睨みに涼しい顔で対応する。


「ギフト狩りを狩るゲームっすよお嬢様。あなただって、ギフト狩りに迷惑していたじゃないですか」

「だからって……。それに基礎熱血先生はギフト狩りじゃないでしょ」

「邪魔だったんで」

「は……?」

「悠久お嬢様も邪魔するなら同じ目に逢わせます。退いてください。ね?」


出来るだけ穏便に済ませたい思いと、悠久はこれからのギフト界隈でも後世まで残さなくてはならない重要人物だ。

ここで彼女を殺害してしまうと、ギフト狩りに協力する形になってしまう。

それだけはどうしても避けたい。

悠久の胸を狙い、脅しをかける。


「罪のない先生や生徒に手を出すならここは退かないわよ。──それが壮大な女というものよ!」

「そうですか。なら、壮大に死んでください」

『やめて、お兄ちゃぁぁぁぁぁん!』


発砲した瞬間、俺と悠久の間に何回か見たことのある女が割り込んできた。

悠久を狙った弾丸は、茶髪の女のお腹に命中して鮮血が辺り一帯に飛び散る。

一滴の血液が、俺の頬にびちゃと嫌な音をたてて汚す。


「は?なんだこの女?」


俺を『お兄ちゃん』と呼んだのか?

意味がわかんねぇ。

意味がわかんねぇ。

ただ…………。


「赤の他人で面識もないこの俺を『お兄ちゃん』とかきっしょいなぁ。自分のストーカー被害を自覚した気分だわ」


頬を左手の親指で拭いながら、恐怖の感情が沸いてくる。

こんなに女を気持ち悪いと思ったのは生まれてはじめてである。


「せ、星子ちゃん!?星子ちゃん!起きて!起きなさい!」

「…………」

「そんな……」


ただ、まぁ、当たりどころが良かったのか手も動かすことなく即死であった。

不愉快な気分にさせる女だと軽蔑したが、精々した。


「明智君……。何やってるのあなた……。彼女は、君の妹さんよ……」

「俺の妹……?」

「身内にまで手を出すなんて……」

「居ないよ、そんな奴。そもそも明智の血が混ざっているなら不愉快だ」

「なっ……?」


あぁ、身内って単語が耳に入るだけで体内に流れる血液が沸騰しそうになるくらいに怒りの感情が一気に高まっていく。

久し振りに叔父を思い出すと、また再びあの男を殺したい感覚が蘇る。

散々に暴力を振り、散々になぶり、散々にしゃぶらせ、散々になじり、散々に執着を合わせたあの不快な顔が浮かんできて、頭を抑える。

っと……。

ギフト狩りでもない奴に時間をかけてられねぇ。

後ろ髪をくしゃくしゃと撫でてから、死んでいる女に投げ掛けた。


「残念ながら俺はお前なんて妹は知らない。……ただ、生まれ変わる時があるならタケルみたいなシスコンな兄貴の妹として生まれてくるんだな。それが兄としての唯一の言葉だ」

「明智君……」

「妹って奴に免じて悠久は見逃す。それに急がないと死体が増えるだけだぜ」


俺が悠久に忠告した途端、『バギィィ!』という落下音がどこからか響いた。

『きゃあぁぁぁぁ!?』『基礎熱血先生!?』と悲鳴のような声があちこちから響き渡る。


「じゃあな、悠久」

「ま、待ちなさい明智君!?」


俺は走りながら階段を目指す。

悠久は女子生徒の遺体をそのまま放置出来る人間ではないだろうし、追いかけてくる心配はない。

タケルの復讐はどこまで終わったのかと心配していると、「秀頼ぃぃ!」と呼ぶ黄色い髪に青いメッシュをしている女子生徒を発見する。


「見付けた、秀頼!これからギフト狩りを滅ぼす計画を実行するんでしょ」

「あぁ。そうだ」


嬉しそうにはしゃぎながら、岬麻衣という女が駆け寄って来る。

彼女の裏切りにより、ギフト狩りのありとあらゆる情報が俺とタケルに渡ったのだから感謝しかない。


「これでギフト狩りという障害を取り除いて、アタシと秀頼は結ばれるんだね!」

「麻衣」

「なぁにぃ、秀頼?」

「お前もギフト狩りだったな」

「え?」


麻衣のこめかみに当てながら引き金を引くと『パァン』という銃声と共に、彼女の顔が破裂する。

確認するまでもなく、岬麻衣はあっけなく死んだ。

こいつのギフトは危なすぎて側に置いておく気にもならない。


「抱かれてもいない野郎(おとこ)の言葉なんか信じちゃダメだぜ」


麻衣の死体を見下ろしながら率直な意見を呟く。

それから「はぁ」と息を吐き出す。

大分頭に血が登り、アドレナリンがドバドバ出ているのを自覚して浸っていた時だった。


「やりたい放題だな明智」

「おぉー、ギフト狩りの関坊っちゃんじゃないですか」

「ふざけやがって!十文字をけしかけたのもお前の仕業だろ」

「ゲスなギフト狩り風情が。貴様もゴミクズのように吐いて捨ててやるぜ」


休む間もなく関翔と交戦する流れになっていく。

殺戮は終わらない。

悠久は達裄から星子が秀頼の妹なことを聞かされている。

達裄と秀頼に面識はありませんが、事情は星子が話していた。

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