13、鬱シナリオの冒頭
「あ、……あのっ!?友達になってくださいっ!」
「え……?」
「佐々木さん、めっちゃ可愛いですっ!」
俺は教室でこの場面を目撃した時に、強い焦りを感じた。
これ、永遠ちゃんがどん底に叩き落とされるエピソードになるやつじゃねーか!?
違う、こんなやり方じゃ、永遠ちゃんは不幸にしかならない!
やっぱり、この世界は『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズだと言わざるを得ない。
絵美に話かけて友達になった永遠ちゃん。
永遠ちゃんは中学時代に家庭問題を抱えていて、友達だと信頼していた絵美に悩みを相談をする。
しかし、当然ながら絵美は秀頼の奴隷。
絵美から永遠ちゃんのありとあらゆる情報を徹底的に暴かれて、全部秀頼にリークされる。
主人公タケルは、永遠ちゃんが危険な目に遭っていたのに、変化の兆しすら察することができずに永遠ちゃんルートに突入するまで秀頼と絵美と永遠ちゃんの間で何が起きていたのか知らない無能っぷりである。
タケルの恨みとは全く関係ない永遠ちゃんではあるが『面白いから』とかいうふざけた理由で、永遠ちゃんの家族3人にギフトを使用する。
永遠ちゃんへは、【父親に頬を2回叩かれた時点で父親をナイフで殺害すること】。
父親へは、【永遠へ没収した鍵を秀頼に渡すこと。門限に遅れて帰った永遠に2回頬を叩くこと】
母親へは、【永遠が門限で遅れた日はずっと居間で待機をすること。永遠が父親を殺害後、永遠へ自分が犯行を行ったと責任を被り、首を吊って自殺すること】
秀頼が宮村家族でギフトのピタゴラスイッチを作成し、永遠ちゃんを縛る鳥籠を破壊する鬱シナリオが開始される。
あまりにも救いのない展開が続き、ファンの間でも、秀頼・絵美のクズシナリオとしてヘイトを貯める展開が続く。
そして、【自分が父親を殺害した過去】と【秀頼と絵美の悪事】を忘却させられる。
突然母親が父親と心中して、天涯孤独になり心の壊れた優等生キャラクターへと変貌する。
原作初期の立ち絵には目にハイライトのない死んだ目のした痛々しいヒロインとして紹介されている。
その姿を知っているからこそ、まだ素敵な笑顔を見せてくれる現在はまだ不幸になる前だと推察できる。
なお、永遠ちゃんは自身のルートとハーレムルート以外、ずっと目の死んだキャラクターである。
だからこそ、キラキラな目の永遠ちゃんの笑顔を守りたいという紳士ユーザーが後を経たない人気キャラクターなのだ。
ギャップ萌えであり、とにかく破壊力が凄まじいのだ。
と、それは今関係ない話である。
それより問題は絵美だ。
原作では『うわぁ、嬉しいなぁ!佐々木さんなんて呼ばず名前で呼んでください!』とか、なんかすっげーリア充みたいな詰め方をするんだ。
やめてくれ、絵美。
きちんと返してくれ!
「うわぁ、嬉しいなぁ!」
絵美がそう言って永遠ちゃんに微笑みを向ける。
やっぱり、俺と津軽の干渉だけでは、原作シナリオを回避させるなんて無理なのだろうか……?
「……嬉しいのだけど、この手を取っていいのかなって」
「え……?」
え……?
絵美の反応が原作と違う……?
分岐しているのか?
原作にはなかったルートへと変わっていっているのだろうか……?
「いや、宮村さんのこと嫌いなわけではないの……。ただ、この手を取ったら酷く後悔するんじゃないかという恐怖があるの……。デジャブっていうのかな。わたし、宮村さんを傷つけないか心配で……」
「……なんでだろう?私も同じ感覚がある。どうしちゃったんだろう私……。この場面を知っている気がする……」
原作の影響が何かきているのか……?
絵美は数年前、理沙ルートの自分の末路を言い当てたかのような時があった。
もしかしたら、それがまた来ているのかもしれない。
助けたい。
絵美も永遠ちゃんも。
クズでゲスな悪役親友の毒牙に掛けないで、全員で狂った原作のルートを回避させる。
「大丈夫だ!」
「秀頼君……」
「大丈夫……。させない。絵美に誰かを傷付かせるなんてさせない!宮村さんも不幸になんかさせない。大丈夫だ。絵美、安心して宮村さんの手を取って欲しい」
「うんっ!!わかった!」
絵美が吹っ切れた顔を向ける。
「友達になろう、宮村さん!」
「佐々木さん……、明智さん……。うん!よろしくお願いします!」
大丈夫、宮村さんの鳥籠問題だって必ずどこかに解決策があるはずだ。
とりあえずどこまでが原作の永遠ちゃんと同じなのかを確認する必要がある。
原作の内容を思い出す。
確か中学生になった時に引っ越してきたとかそんな設定だったはずだ。
「宮村さんの、出身ってどこ小学校だっけ?」
「わ、私結構遠いところからこの春に引っ越してきて……。多分名前を聞いてもわからないと思いますが……」
大丈夫だ、全然原作と変わっていない。
中学校で1人でいるのが嫌で変わりたくて、絵美に声を掛けたという場面だ。
まだまだ冒頭だ。
いくらでも展開の修正を効かせられるはずだ。
「そっか。大変なんだね……。引っ越してすぐに友達がいない気持ちわかるなー」
「佐々木さんもそんな経験があるんですか?」
「うん。私も小学校に上がる前にこの町に引っ越して来たから」
そういえばそんなこともあったな……。
俺がまだ前世を思い出す前、--伯父に暴力を受けていた頃は自分の家の隣に誰が住んでいるかとか気にしたこともなかった。
あんまり前世を思い出す前の自分がどんな生活をしていたのか?という部分が今ではほとんど記憶はない。
「でも、秀頼君の周りはみんな良い人ばかりなのですぐに宮村さんも馴染めると思います」
「そ、そうかな……。人と話すのも苦手なんですけど」
「わたしも苦手です」
絵美と永遠ちゃんがお互いにクスクス笑いあっている。
……永遠ちゃんに俺の知り合いとか紹介する流れなのかこれ……?
あの変人共を永遠ちゃんに紹介する……?
そんなお目汚しをさせていいのか不安になる。




