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20、上松ゆりかの魅力

とりあえず、関の想い人の名前はNGというタケルの意見を尊重した会議が始まる。


「とりあえず、名前以外の情報だけでもくれよ。容姿とか」

「よく聞いてくれた十文字!文化系より、どっちかといえば体育会系だ」

「エロいな……」

「エロいな……」

「エロいぞ」


タケルと俺の率直な意見はエロから始まった。

体育会系女子は大体肉付きがエロいという固定概念がある。

決して固定概念(エニア)ではない。


「それに肉付きはしっかりしているのだが、とてもスレンダーなんだ。何時間でもその肉体を眺められる」

「おぉ!?良いじゃん、良いじゃん」

「イメージ広がるな」

「それで清楚に黒い長髪が美しいんだ。俺はもう初対面でズッキューン☆と心を撃たれたね。後にも先にも俺をそんな気持ちにさせたのはその娘と深キョンくらいさ」

「良いねぇ、関の臨場感が伝わってくるよ」

「イメージ広がるな」


上松ゆりか系だろうか?

イメージが広がってくる。

ゆりかと似ているとなると、そりゃあもう100点満点よ。


「出会いはいつだよ!?」

「3、4年くらいになるのかな。ギフ……クラブ活動で同じになってね。一目惚れってやつよ」

「クラブ活動!一目惚れ!何も起こらないはずがなく……」

「何も起きてはないよ」

「そうか、残念だな。すまん」


テンションが振り出しになったタケルは、素になって謝罪をした。

しかし、クラブ活動が同じで何も起こらないのは残念である。


「今でもクラブ活動で一緒になるんじゃないのか?」

「残念ながら1年前に彼女が脱退しちゃってさ。『真の強さの骨頂を極めに行く』と真面目な口調で言われてさ」

「『真の強さの骨頂を極めに行く』と真顔で言えるのは残念じゃないか?」

「というかポンコツだろ」

「ポンコツじゃない!俺の悪口は良いが、彼女の悪口は止めてもらおう。真面目な奴なんだ!」

「わかったわかった」


実にゆりかが似合うポンコツセリフである。

だが、関は真面目というからにはゆりかとは真逆の人なんだろう。


「俺は猛アピールしているんだが、どうにも感触がない。どうだ明智!?俺は彼女からどう思われている!?」

「さぁ?まだまだ情報不足。答えは出せんよ」

「くっ、正論だ!」


エスプレッソを口に含みながら関の情報を整理してみる。

純粋に相手にされていない光景しか目に入らない。

言っちゃ悪いが、多分彼女は彼氏持ちなんじゃねぇかな……。

と、モテモテボーイ(タケル談)な俺の客観的な意見である。


「じゃあ、彼女について質問。男の影はあるか?」

「あぁ、彼女は恐らくギフトアカデミーで5本の指に入る美人。男の影は残念ながら覚えがある」


やっぱり男の影ありか。

関が先か、件の男が先か。

どちらが先に出会ったのかは知らないが、関はNTR被害者だと予想を立てることが出来てしまう。

お気の毒だ……。


「後はなんか男から戦いを習っているらしい」

「!」

「!」


俺とタケルがピンとした顔になり目を合わせてお互い頷いた。

表情を見ただけで相棒の考えていることが手に取るように察してしまった。


「そりゃあなー……、タケル……」

「あぁ。戦いを習うなんて可愛いもんじゃねぇぞ」

「え?どういうことだ、十文字?明智?遠慮せずに俺に真実をくれ!頼む!」

「夜のベッドで女にされてるな……」

「あぁ。なんか男を喜ばすテクとか習ってるよそれ……」

「ななななっ!?なんだってぇぇぇぇぇ!?」


男から純粋に戦いを学ぶ相手などゆりかとかヨルのような例外のみ。

脳筋以外の女は男に習うというと、大抵はそういうことだ(童貞の妄想)。


「いや、待て!?話が飛躍し過ぎてないか!?俺は師匠だかなんたらと慕っている人と修行をしていると。そう聞いていたぞ」

「なぁ、関」

「な、なんだ十文字?」

「基本的に男女が違う人2人で師匠、弟子と言いあっている奴は基本的に相思相愛なんだよ。俺の身近にもそういう奴がいる。なぁ、秀頼?」

「あぁ。師匠と慕う奴は嫌いな奴はあり得ない。好きをカンストした奴じゃないと師匠とはならないんだよ」

「やめてくれぇぇぇぇ!」


俺にもゆりかという師匠として慕ってくれる美人な娘がいるから理解できる。

最初こそ『絵美を襲いやがって死ね!』という嫌いをカンストした人物であったが、師匠と呼ばれている内に愛嬌が沸いてきたものである。


「諦めるんだな。関に可能性が見えねぇよ」

「そんなぁ!明智先生ですらダメか!?」

「ダメというか……。決めるのは俺じゃなくて彼女だからね……」


あくまで恋愛相談は乗るけど、恋愛成就に持っていくのは不可能である。


「それか、彼女を喜ばせるようなことをしてみれば良いじゃん」

「お!?それ良いじゃん!ちょっとラインしてみるわ」

「ガンバー」


俺の何気ない一言から即行動に移す関はスマホを取り出してポチポチと操作していた。

それから30秒も経たずにすぐに折り返しのメッセージが来たようだ。


「『今喜ぶこと・師匠に会いたい』だってよ!クッソォォ!なんだよぉぉぉ!」

「脈なし」

「脈なし」


俺とタケルはコーヒーを啜りながら結論を出した。

関がテーブルにガンガンと叩いていて、「物には当たるなよ」と隣に座るタケルに止められていた。


「マスター!こっちの2人が虐めるんすけどぉ!?」

「次の恋愛を見付けるのもまた人生だよ……」

「さも経験者かのように……!?」


マスターは表情を見せずに遠くに視線をやるような仕草をしていた。

なんかもう悲哀が凄い。


「多分マスターは美月と美鈴の母親に片思いしてたな」

「え?なんの話だ?」

「何々!?深森とマスターってなんか関係あんの!?」

「コラッ!そこっ!特定しようとすんなっ!」


タケルと関も興味津々とばかりに俺の考察に耳を傾けた。

マスターは慌てたような雰囲気を出した。

口からの出任せだったのだが、棚からぼた餅。

どうやらピンポイントで地雷を踏み抜いたらしい。


「というか違うっての!美咲ちゃんとはそういうのはないから!」

「いつもの他人事マスターとは思えない念の入り用だ……」

「本人には黙っておくから!」

「違うっての!もうやだこいつら!」


3人で攻められてマスターも冷静さを失っている。

もうあとちょっとでボロが出しそうになっていた時だった。

カランコロンと来客を鳴らすベルが店内に響く。


「あ、いらっしゃいませ!」

「ちっ、逃げられたな……」


タケルの冷たい視線を気付かない振りをしながら来客の対応をするマスター。

しかし、彼が応対していたお客さんは俺にとって特別な人物でもあった。


「こんにちは、マスター。コーヒーを飲みに来ました。あら?秀頼さんに十文字さん?」


紫の鮮やかな髪。

鮮やかな輝きを放つ瞳。

ふわっとした白いスカートが舞って天使かと勘違いしてしまう美しい光景。

こちらに振り返った彼女は、まさに振り返り美人がピッタリの一言だ。


「エイエンちゃん!偶然だね!」

「もしかしたら会えるかもと期待していたんですけど本当に会えるなんて!一緒しましょう!」

「うん」


永遠ちゃんだ!

永遠ちゃんだぁ!

永遠ちゃん永遠ちゃん永遠ちゃん永遠ちゃん永遠ちゃん永遠ちゃん永遠ちゃん永遠ちゃん永遠ちゃん永遠ちゃん永遠ちゃん永遠ちゃん永遠ちゃんだ!

俺の頭は永遠ちゃんでいっぱいになった。

前世の推しヒロインが目の前にいる幸せは何年経っても色褪せそうにない。


「とりあえず俺の隣空いてるからどうぞ!混ざって混ざって」

「はい。ありがとうございます」


窓際に座っていた俺の隣に宮村永遠が座り、マスターにブレンズコーヒーを注文していた。

マスターの弱みを握るチャンスであったが、永遠ちゃんが来た以上はそんなことは塵と化した。

もう一切、マスターについての興味は失せた。


「男同士で仲良しですね。そちらの方は?」

「はい、十文字タケルです」

「知ってますよ!?そちらの十文字さんのお隣さんは?」

「は、は、は、は、はいっ!せきっ、関翔っす!よろしくお願いしやす!」

「ガチガチに緊張し過ぎ」

「だ、だってよぉ十文字ぃぃぃ……」


女に対する免疫が低いのか、宮村永遠登場の瞬間から関はガチガチに凍っていて、タケルにすがっていた。

それに恋愛相談は野郎だけよりも、やっぱり一般的な女子の意見も聞きたいものだ。

そういう意味では、山本とかが来るより遥かに盛り上がる展開になったものである。


「エイエンちゃんは恋話好き?」

「実はこう見えて……、勉強より恋話の方が大好きです!」

「最高かよ……」


俺の求める答えをハードル飛びのようにビューンと駆け抜ける君が大好きだ……。

原作の永遠ちゃんなら迷わず勉強と言っていただろうに……。

この答えに満足したことで気分も高揚し、エスプレッソのお代わりをマスターに要求してしまった。

マスターからは『お前から注文されても売り上げ0なんだよ』という、嫌な顔をされながらコーヒーカップの容器を交換されたのであった。

お代わりには厳しいマスターである。

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