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18、赤坂乙葉は気付く

『我はその日、師匠と走り込みの修行がある( ・д・)/--=≡(((卍 シュッ!!』

『すまんな、関』


2連続で届いたラインのメッセージを前にガクンと項垂れたのは1人の青年だった。

墨色の髪を伸ばして、意外と筋肉質な彼は決して顔は悪くなかった。

しかし、中学の時から付き合いのある上松ゆりかを振り向かせるということに関してはことごとく失敗していた。


「ぐぅぅぅ……。なにが師匠だ!俺だってガチれば上松並みに強い自信があるんだ!その師匠って奴が本当に俺や上松より強いってんかよ!いや、待て。師匠を俺がやっつければ上松は俺を師匠って呼んで慕ってくれるようになるのでは!?」


第5ギフトアカデミーの男子寮の自室で、名案が閃いたとばかりに関はピコンと神が降りたような結論を下す。

しかし、「いや、待て」と言いながらスマホの光っている画面を消した。


「いきなり仕掛けたら俺はただの荒くれ者だ。虐めがしたいわけではないんだ。……はっ!?その師匠とやらを探しだして決闘を申し込むか!?あ、でもギフトアカデミーの生徒ですらない可能性もあるのか。却下だな」


あくまで決闘が許されるのは、ギフトアカデミーの生徒同士。

赤の他人をギフトアカデミーの土俵には入れることすら難しいのだ。


「仕方ない。親友のタケルに連絡だ」


まるで導かれるように関が出会った親友の十文字タケルに恋愛相談を持ち込む。

相手も暇なのか、短時間に3回のメッセージのラリーが終わった時だ。

タケルから彼が目を引く文章が送られてきた。


『こないだ、倦怠期で別れそうになっていた山本に的確なアドバイスをして無事に別れずに住んだ恋愛もプロが俺の知り合いにいるぜ?紹介するか?』


そんな関の目を引くメッセージが送られてきたのであった。







─────






「あ!おはようございます秀頼さん!」

「乙葉ちゃん。おはよう」


通学を終えて、朝に呼ばれていた悠久からのありがたーい説教から解放されて、職員室から帰ろうとした時に花柄のヘアピンが似合う赤坂乙葉の姿を見付けた。

『嘘と真実を見抜く』ギフトを持っているが、かなりギフトが成長していて本編中になると『会話から簡単なことも頭に入る』くらいには成長しているらしい。

今頭に思い浮かべていることも、彼女には筒抜けなのかどうか。

非常に判断に困るところだ。


「どう?学校には慣れたかな?」

「はい!ある程度は信頼と信用出来そうな人と、嘘ばっかりで取り繕って論外な人に振り分け出来ていますから」

「ははは……。そりゃ、凄いな……」

「安心してください。星子ちゃんは頭が暴走しやすい時はありますが、私も心を開いていますから」

「そ、そうなんだ」


妹の頭が暴走している時があるのを知ってしまい、なにがあったのか非常に気になる。

それにしてもやっぱり、彼女の距離感はどこか一歩引いたような達観したもののようだ。


「…………ずっと、あなたに聞きたいことがありました。初対面で私のギフトを知っていたりしたのは何故ですか……?危険ってなんですか?あなたには、何が見えているんですか?」

「答え辛いなぁ。……えっと、学校にはギフト所持者に対して嫌がらせをするという連中がいるからさ。あんまり言い触らしたりはしない方が良いよって」

「言い触らしたりしません。私、ギフトの能力を家族にすら言ってないんだから」

「なら安心だね」


五月雨茜に乙葉ちゃんが殺害されるからと直接言えるならどれだけ楽か……。


「えっ!?」

「ど、どうしたの!?」

「あぁ、いや……。な、なんでもありません……」

「乙葉ちゃん?顔が真っ青だよ?だ、大丈夫?」

「大丈夫ですよ。……はい。大丈夫です」


それから彼女は話を切り上げるようにして、教師の方向へ走り出した。

突然の乙葉ちゃんの豹変に自分がやらかしたことに察した。


「ヤバい……。やらかした……。俺は何を考えた……?」


(ありゃあ仕方ないでしょ主さんよ。考えるなんて無意識にやっちまうもんなんだから。五月雨茜に殺害されるって情報を渡したんだよ)


中の人の指摘に息を飲む。

今世紀最大の俺のミスだ。

乙葉ちゃんが立ち去っていく背中を黙って見送りながら、申し訳ないことをした罪悪感に包まれていた。


「はぁ……。やっちまったもんは仕方ないか……」


右手で額を抑えながら自分の教室に向かう。

俺はこれから何をすれば良い?

フラフラになりながら足を進めていく。

それからゆっくりと歩きながら教室に入る。

絵美とアリアがにこやかに会話をしたりしている平和な光景が教室に広がっている。

俺だけが、平和から取り残された心境になり崩れ落ちそうだ。


「待ってぜ、秀頼」

「た、タケル!?どうした?」


教室に踏み出すとタケルがニヤニヤしながら、俺の首に腕をまわしてくる。


「ちょっと今日付き合ってくれねぇ?」

「今日?別に良いが」

「サンキュー。ならそう返事をしておくよ」


タケルも普段通りの態度だ。

主人公の彼には乙葉のことについて教えた方が良いのか。

その狭間に立たされている。


「どうした?今日は元気ないな?」

「なぁ、タケル?もしさ……、なんか自分の考えで誰かを傷付けたみたいなことがあったらお前はどうする?」

「は?よくわかんねぇけど、やっちまったもんはしょうがないでしょ。クヨクヨすんなよ。お前ならなんとか出来るしょ」

「あっさりだなお前……」

「秀頼の場合はクヨクヨするより冷静になった方が良い考えが浮かぶんだから悩むだけ無駄でしょ」

「タケル……」


なんか俺が欲しかった言葉を真っ先に言ってくれた。

そんな気がする。

そっか。

なら、乙葉を驚かせたぶん彼女の力になってやらないとな。

本当に無能な癖に、俺に対してだけは特効薬になるんだから。

まぁ、どうにかなるっしょ。

タケルの言葉で救われた気がした。

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