16、悲しみの連鎖は転換する
突然、ページが飛んだような展開ですが間違っていないので注意。
「はっはははは……。ははははは!ははははは!これが笑わずにいられるかってんだよぉ!なぁ、秀頼」
「…………タケル」
「俺は今、乙葉を殺した奴に復讐をしてやりたくて堪らない……。なぁ、俺はどうすれば良い?」
「…………お前が思うがままに任せる」
結局、こうなるのか……。
今まではどうにかこうにかヒロインたちの不幸を回避してきた。
佐々木絵美は明智秀頼の奴隷にせず。
宮村永遠の両親殺害を回避して。
三島遥香のギフト暴走を回避して。
美月と美鈴の拗れた姉妹仲を修復して。
なんとかここまで来れた。
それなのに、──赤坂乙葉の殺害だけは食い止められなかった。
まるで、それが定められた運命というルートを辿るようにギフト狩りの餌食にされたのだ。
そして、乙葉ちゃんがギフトが効かなく唯一の心の拠り所になっていたタケルへ電話で遺言を残したらしい。
『ギフト狩りに……、負けないで……』
たった5秒の遺言をタケルに遺し、彼女は冷たい屍になった。
「なぁ……。ギフト狩りってなんだ?いや、そのまんまの意味か……。ギフト所持者を殺したくて殺したくて堪んねぇって連中が学校にうじゃうじゃ居るんだよな」
「……そうだよ。そういう悪い連中が学校に野放しにされている」
「秀頼……、お前知ってたのか……?」
「知ってる」
そうか。
この俺が転生した世界は乙葉ルートへ分岐していたんだな……。
だから、タケル……。
お前は今まで理沙や永遠ちゃんやヨルに靡かなかったんだな……。
「というか俺なんかより……」
「あん?」
「居るんだろ、ヨル?」
屋上の出入口の裏を顎でしゃくり指し示す。
タケルが驚愕しながらその方向へ視線を送ると、影からすっと現れる。
タケルの異変を感じた彼女が俺たちを尾行しているのは最初から気付いていた。
ヨルが姿を現すと「あー……。ごめん」と右手の人差し指で頬を掻きながら謝罪の言葉を口にする。
「タケルにはいつか話さないといけないと思ってたんだけど、こんな形になるなんてな……。明智、お前も性格悪いな……」
「…………」
俺は何も答えず、反応せず、目を閉じる。
何も口出ししないという意図を汲み取ったヨルはタケルに向き合った。
「ギフト狩り。それはタケル、お前の一生の敵だ。近い将来、ギフト所持者はほぼ全員がそいつらに駆逐される。理沙も、星子も、碧も……。タケル、お前の両親もギフト所持者ではないが殺害されるだろう。近い将来には、必ず……」
「わかるのか?そんなの?」
「あたしは未来からやって来たお前の娘だぜ?いや。血は繋がってないけど、さ……。嘘みてぇな話だと思ったら信じなくて良い」
「…………信じるよ」
タケルがポカーンとした目を浮かべるも、5秒後くらいには頷いてみせた。
未来から来ただのの信憑性が皆無な話をされて、こんなにすぐに受け入れるとはヨルも予想だにしないことであった。
「秀頼が否定しないんだ。そういうことなんだろ?」
「…………あぁ」
「親友がそう言うなら、躊躇いなく信じられる。俺はヨルを信じる」
「タケル……」
ヨルがぎゅっとタケルに抱き着く。
この姿は主人公とヒロインの時間を越えた再会のイベントCGだ。
でも、……全然嬉しくない。
タケルに嫉妬をしているわけではなく、やはり赤坂乙葉が死亡したというやるせなさがすべてを支配している。
あの小さい身体の、陽だまりのような笑顔は二度と見られない。
赤坂乙葉の死亡により、本日はもう休校だ。
一応明日からは通常通りの授業が再開されるらしいが、俺はもう心の底からこの世界を楽しむことが出来ないかもしれない。
彼女の死は、みんなに爪痕を残し、虚しい空虚さだけが胸の中で泥のようにこびりついた。
「乙葉が殺された……。だから……、俺もやり返したい……。それがたとえ間違っていたとしても、この手でやり返したい……」
「あたしは、それがタケルの決定なら止めない。恩人のお前がそう望むのならあたしが力になる」
「秀頼、お前はどうする?」
「…………」
俺にそんな決定権を求めないでくれ……。
俺は……、俺はっ……!
「…………赤坂乙葉を殺害した犯人の始末だけは手伝うよ」
多分俺も、彼女の内の誰かが殺害されたら黙っていられないから。
だからどんな手を使ってでも、五月雨茜に鉄槌を下す。
俺の彼女を誰か1人でも巻き込もうとするなら、ギフト狩りそのものをぶっ潰してやる。
「あたしたち3人は共犯であり、仲間だ」
「あぁ」
「絶対に裏切りはなしだ」
それが破滅の道だとしても、進むしかない。
◆
「…………居た。五月雨だ」
乙葉を殺害する役割になるギフト狩り・五月雨茜は挙動不審に校庭を歩いている。
普段のクールで人懐っこい空気など微塵もない。
彼女は本当に乙葉と親友だった。
ただ、一点。
乙葉よりも、ギフト狩りの役目を優先させたんだ。
「…………ッ!」
タケルなんか、今にでも五月雨を殺しそうなくらいの怒りに捕らわれている。
それを俺が防波堤になりつつ、ヨルが作戦通りに動く。
「行く」
ペンダントの形をコンバットナイフに変形させ、素早く五月雨茜の元に走っていく。
まばたきをしている間に五月雨茜を拘束し、ナイフを首に突き付ける。
「きゃあ!」と、知らない女子の後輩がヨルのナイフにびびったのか小さい悲鳴を上げる。
その近くを歩いていた生徒たちからざわざわした喧騒が広がっていく。
だが、この状況は俺の得意分野である。
「【ここにいる全員、この出来事を見なかったことにしろ。記憶を無くせ】」
神の力を使うことすら躊躇わない。
そして、タケルもヨルも『アンチギフト』。
彼らは記憶を改竄されないまま、五月雨茜を無理矢理歩かせていた。
「お、お前のギフト凄すぎないか……?」
「お前のギフトには敵わないよ」
タケルが本当に記憶が消去されたのか気になっている様子だ。
『人に命令できる』ギフトと嘘っぽい内容の能力に、疑念があるらしい。
「俺は普通の人間にはどんな命令にも従わせることができる。何回も説明をしただろう。たとえば……【カバンの中身をぶちまけろ】」
「はい」
先ほど小さい悲鳴を上げていた女子生徒に『命令支配』を使うと、手に持っていたカバンのチャックを上げて、躊躇いなく下に向ける。
筆入れや教科書、ノート、イラストで裸の男性2人が表紙になっている本が地面に姿を現す。
「うわわっ!?秀頼、これアカンこれアカン」
「うぶかよ」
タケルが顔を赤くして、早歩きでヨルが歩いていく方向へと俺に背中を押しながら歩きだした。
「ふぅ……。女子ってBのエル好きなんだな……」
「人それぞれだよ」
「遊んでいるんじゃねーよバカっ!」
ナイフを茜に突き付けているヨルの鋭い突っ込みが耳に届く。
その間にスーツを着たサラリーマンが来てしまい、また再び同じ命令のギフトを使用する。
目撃者はギフトで徹底的に記憶を書き換えていく。
隠蔽を行うということにおいては、信頼が出来すぎる能力だと改めてそのヤバさが染み渡る。
尚、街中の監視カメラの位置はヨルが把握していて、当然監視カメラのない道を歩かされていた。
「よ、ヨル先輩……。こんなことしてギフト管理局や警察が黙っちゃいませんよ。ナイフを下ろして自分を早く解放してください」
「ふてぶてしいな五月雨。赤坂乙葉の殺人の実行者のギフト狩り風情が!」
「なっ……!?」
「あたしたち3人はもうお前を可愛い後輩とは思っちゃいない。排除するべきギフト狩りの1人としか思っちゃいない」
「ひっ……!?」
五月雨茜は自分の秘密を語るヨルに怯え、自分が今不利なんて言葉ではまとめられないほどに追い詰められたことに気付いたらしい。
美しかった彼女の朱と蒼のオッドアイは、今や恐怖で濁ってしまっていた……。
「言っておくが、あたしたちは今から証拠を何1つ残すことなくお前を拷問する」
「くっ……」
「なんでヨル、あんなにノリノリなんだ?発案者は俺とはいえ、ちょっと引くんだが……」
「ヨルの趣味は拷問だからテンション高いんだろ」
「お前ら野郎共は何を他人事みたいな面してんだよ!?あたし含めた3人当事者なんだからな!?」
シリアスな状態にならなければいけないのはわかっているが、どうしても締まらない3人であった。
 




