6、宮村永遠の説明
「地域活動に貢献し、全員で取り組まねばならない」
「ゆ、悠久……!」
1年生が入部した文芸部。
去年は特に活動という活動はしていなかった部に、顧問であり学園長をしている近城悠久は直接部室に赴き、全員の前で宣言をした。
「お前……、教師みたいなこと言うんだな……!」
「教師だけど!現役教師!」
キンキンとヒスを起こす悠久に『めんどくせぇ……』と思いながら、目を閉じながら彼女の話を聞き流す。
「お前から突っかかって知らぬ顔してるのムカつく!」と、変に俺はロックオンをされていた。
「悠久と明智の漫才なんかどうでも良いから地域活動ってなんだよ?スッと言えよ」
「そ、そんな怒らないでヨルちゃん!?」
ヨルに急かされ、悠久は「コホン」とわざとらしく一泊置く。
「あなた達には来週、保育園のお手伝いをしてもらうことになりました!拍手!拍手っ!はくしゅっ!!!」
独裁者悠久は拍手を促しまくり、最初に折れた永遠ちゃんば弱々しいパチパチと拍手を起こす。
それから美月、三島と伝染していき全員の拍手が起こる。
しかし、悲しいかな。
人数のわりに静かな拍手になった。
確かに地域活動の貢献は生徒手帳に記載された文面であった。
「そもそもなんで文芸部にそんな活動が?」と、美月が挙手をしながら質問をすると悠久が「よくぞ聞いてくれた!」と今日一目を光らせながら解説をする。
「部活動は青春を謳歌するのも大事だけど、近所の人たちに素晴らしい活動をしているアピールも大事なの。色んな部活がボランティア協力しているのもギフトアカデミーの生徒の格を上げるの!」
「クハッ!要するに良い事してギフトアカデミーの内申を上げたい大人の都合ということだな」
「教師は何もせず、ウチらに仕事を任せて教師の評価が上がると。実に汚い。地域活動の貢献(笑)」
「可愛くない!」
「もうやだこの部活!君たちのような勘のいいガキは嫌いだっ!」
概念さん、咲夜、千姫とフルボッコのピタゴラスイッチを喰らって、悠久の心がへし折れる音がした。
……なんか舐められた教師で可哀想である。
「この学校の生徒でわたくしを舐め腐っている生徒はこの部だけなんだよ……」
「わたしは別に先生を舐めたりしてないんだけど……」
「文芸部ってだけでの風評被害が凄いですわ……」
絵美と美鈴は不本意といった態度であった。
俺、概念さん、ヨルとかが主な原因である。
「地域貢献活動は留年に響くから絶対やらないといけないの!ボランティア部なら駅前で募金活動、エアコン部ならお年寄りの家にエアコン設置、運動部ならゴミ拾いとか郵便や新聞配達。とにかく、2年諸君は去年もなんか地域貢献したでしょ!?」
そういえば去年の9月頃、鹿野に連れられてティッシュ配りをした記憶が朧気ながら蘇ってきた。
「そんなわけで1日保育園児の面倒を見てあげるのが今年の我々の地域貢献活動になります。そういうの得意そうなのいっぱいいるしね!」
「タケルとか子供の面倒みるの得意そう」
「ただのイメージじゃん」
「そんなわけで、子供に喜んでもらえる出し物とか遊びとか考えて。ミーティングスタート」
珍しく部室に悠久が居座り、全員で話し合いになる。
星子ら1年も混ぜた初の部活イベントである。
「クハッ。では進行が部長であるウチがする。何か出来るなら挙手でも推薦でもなんでも良いぞ!」
「なら!」
「お?綾瀬翔子!元気がある子は好きだぞ」
真っ先に手を上げたアヤ氏。
概念さんに指定されると、くいっとメガネを動かしながら発言する。
「絵が得意な人を借りたい」
「ほう。それはまたどうして?」
「子供と言えば紙芝居。だから紙芝居の作成を提案する。ならば紙芝居の脚本を俺……、私が作成します。だから絵を誰かに任せたいです」
一瞬『俺っち』って言い出す瞬間に俺だけが気付いていただろう。
別に俺っ娘女子目指しても良いのにね。
「なら私がかっわいいイラスト書いてあげるわ!」
「浅井先輩ですね。よろしくお願いいたします」
「可愛い後輩の頼みならなんでも!」
真っ先に名乗り出たのは千姫であった。
可愛いことならなんでも出来る地味に完璧超人である。
ただし、俺かタケルの提案だったら千姫は名乗り出なかった気がする……。
彼女は去年からずっと俺を避け続けているし。
「因みに綾瀬さんはどんな内容の紙芝居を?」
「よく聞いてくれました三島先輩!」
「は、はい」と、三島がやる気満々なオタクの熱気に圧倒されていた。
「ごんぎつねをオマージュにした考えさせられるシナリオを書きあげます!既に脳内で物語が出来上がっているので文章起こしするだけですから!」
「ごんぎつねってどんな内容だっけヨル?」
「ほら……、あれ……。……永遠にパス」
咲夜、ヨルは、ごんぎつねを知らないのか忘れたのか頭にどんな話か浮かばないらしい。
前世では、ごんぎつねの学芸会コピペが存在するくらいに有名な物語なのに。
「ごんぎつねは、青年に食べ物などを貢いでいたキツネを撃ち殺す物語です」
「凄いざっくり!」
何も間違ってないのがごんぎつねの凄いところである。
青年も青年で、キツネを恨んでいるのも仕方ない事情がある。
要するにやるせない物語なのだ。
「とりあえず任せてください!」と胸を叩くアヤ氏。
彼女のオタク魂に火が付いたらしい。
それからもミーティングは続く。
「あ!せーちゃんならあれ得意じゃん」
「も、もうやめてよのーちゃん!」
「あれとはなんですか?」
1年は1年で仲良くなっているらしく、五月雨茜は和の提案に乗っかってくる。
すると、和は満面の笑みを浮かべた。
「せーちゃんは歌が得意なんだよ!特にスターチャイルド!」
「スタチャ!スタチャ可愛いから好き!」
「やらないよ」
星子は真顔で和の案を却下した。
ガチトーンの低い声での拒絶だが、和は「えー?」と不満を漏らしていた。
正体バレに繋がりそうなことはやるはずもない。
残念ながら星子のスタチャショーは実現しなかった。
「あ!秀頼君も出し物あるじゃん!」
「例のアレだね」
「秀頼様も何かあるんですか!?」
絵美と円は俺を持ち上げるように推薦してくる。
こういうスポットが当たった試しがないが、子供を喜ばす出し物といったらアレしかないだろう。
「え?秀頼がなんか盛り上がるなんかあるの?」
「悠久!明智のアレはすげぇぞ!」
「本当に?」
半信半疑の悠久は、ヨルの持ち上げにより、ちょっぴり信じた顔になる。
タケルから「今してやれば良いじゃん」と急かされる。
仕方ない。
まだ誰にも見せたことがないアレを披露することになるらしい。
仕方なく居座から立ち上がった。
「明智君のアレ、久し振り!」と、なんかやたらこの場が盛り上がってしまっていた。
おかしいな、誰にも披露したことのない芸がみんなにバレているなんて。
まさかまた悠久から誰かに伝わってしまったのかという疑惑が発生する。
ま、いっか。
芸ぐらいならいくらでも見せられる。
「では、あの国民的アニメの主人公の声真似します」
「…………はい?」
「秀頼君、何言ってんの!?」
「お前、手品じゃ……」
「あー、あー……『まったく……。バカなことやってねぇで働け!』」
「すげぇぜ、秀頼!」
「明智氏、パねぇっす!」
「いや、似てるけど!そんなの保育園児に聞かせられないわよ!」
「え?」
家でコソコソとマスターを驚かせてやろうと練習していたドラゴンボールの主人公の声真似は悠久からは不評であった。
「せめて『かめはめー』みたいな何か必殺技とかの声ないの!?」と催促されるが、「これが限界です」とレパートリーの少なさという壁にぶつかった。
「残念だったな秀頼」
「うん……」
俺は優しいタケルから慰められていた。
新入生の乙葉も心配そうな顔でこっちを見ていて、いたたまれなくなった。
「秀頼君、手品はしないの!?」
「そう!手品待ちだったの!」
「手品待ちだったの!?」
「あたしも明智のてじなーにょが見たかったよ」
「てじなーにゃだっての」
どおりで声真似が受けなかったわけである。
実際声真似で盛り上がったのはタケルと、TS転生者のアヤ氏の2人だけなのであった。
「ま、なんとかなりそうで良かった!期待してるわ文芸部諸君!」
悠久の締めの言葉でミーティングが終了する。
こうして、保育園児と文芸部の戦争が始まるのであった。




