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5、津軽円とウインドウショッピング

綾瀬翔子。

転生した人物の4人目。

俺が思っている以上にポンポンと前世の記憶持ちは現れるらしい。


「え!?あの後輩ちゃん、私たちの同類なの!?」

「あぁ。てか、驚き過ぎだって円。ははっ、ウケるー」


次の日、早速円には、そのアヤ氏のことについて報告していた。

場所は当然、いつも報告し合う河原にある階段である。

報告だけでなく、日向ぼっこにデートと割りと色々な目的をこなせるシチュエーションだったりする。


「なんでそんなに落ち着けるのよ!?てか、凄くない!?そんなに前世持ってる人いるの!?」

左利きの人(サウスポー)くらいの頻度で現れるな」

「んなわけあるか!あと、関係ないけど左利き

をわざわざ『サウスポー』と表現していて驚いたわ」

「なら横文字NGだね」

「わざと横文字にしたよね?」


即バレしたのであった。


「でも円が絵美やみんなを連れ出してくれて助かったよ」

「それはどうも」

「ありがとう。本当に円と2人っきりの時だけがこうやって素の自分でいられるよ」

「そ、そう……。あんたも苦労してるのね」


円が髪を指でくるくると弄りながら照れている。

普段クールな円がちょっと赤くなっているのは珍しく、見ているこっちもドキドキしてくる。


「そ、そうだ明智君!」

「ん?」

「た、たまにはさ!お互い前世っぽくしてみない?」

「前世っぽく?」

「前世プレイよ!」

「前世プレイ?」

「そう!お互いが前世を演じるの!」

「お互いが前世を演じる?」

「意味もなくリピートを繰り返さないで!」

「こらこら、横文字NGな円が横文字を使わないの。『リピートを繰り返す』じゃ『危険が危ない』と同じで重複しちゃってるよ」


パラレル西遊記じゃないんだから……。

使いなれない横文字を使ってミスしたようだ。


「つまり、俺が光秀に成りきり円は来栖さんに成りきると」

「そう!それが前世プレイ!」

「横文字使い慣れてない子が横文字使うと意味わかんないこと言い出すんだな……」

「常に意味わかんない発言ばかりの明智君よりマシよ」

「なんかこないだもそんなのやった気がするけど」

「今日は1日中君が豊臣君、私が来栖をやるわ。よーい、スタート」

「は、始まったのか!?」


円は円であって、来栖さんとは全然似ても似つかないビジュアルをしているので、脳が混乱する。

もう、豊臣光秀なんて名前もピンと来なくなっている自分がいる。


「じゃあ、デートしよっか豊臣君!とよとみくぅぅん!豊臣君だぁっ!さぁ、豊臣君も来栖って呼んで!」

「え?えぇ……。……く、来栖さん」

「わ、本当に呼んだ……」

「なんで引いたの!?」

「冗談!冗談だよ!デートしよっ!デート!制服デートだね!」


お互いがブレザーの制服を着込んでいる状態である。

前世で果たせなかったデートの続きが、今出来るというのは本当に幸せかもしれない。


「こうやって腕とか組んじゃって」

「う、うん」


来栖さん本人の体温よりも、多少高い気がする円の体温が広がる。

前世の自分を演じるということが如何に難しいのか、誰かと語り合いたいところである。


「制服デートってどんなことするの?」

「うーん。あんまり時間もないからウインドウショッピングとかかな!」

「よし、行こう」

「豊臣君、因みにウインドウショッピングの意味わかってる?」

「あぁ。ショッピングを格好良く言っただけ」

「違うよ!買い物しないでブラブラまわるのがウインドウショッピングだよ」

「流石来栖さん!横文字使いこなせる女だね!凄い凄い!」

「ただただバカにしてない?」

「ちょっと意地悪しただけ」

「性格悪いよぉ」

「うん。知ってる」


ウインドウショッピングの単語の知識も当然知っている。

絵美から『基本だから!』と中学時代に叩き込まれているから。

ただ、豊臣光秀になると素になるので普段より少しSになる。

秀頼になるとたくさんの女性に振り回された経験からか、達裄さんをはじめみんなからドMだと勘違いされている不本意な状態である。

他愛ない学校の話をしながら、円──もとい来栖さんが見付けた雑貨屋に近寄る。

店内は桃色な雰囲気であり、女の子専用と物語るような店を指すので、ちょっと躊躇ってしまう。


「く、来栖さん?こ、こんな男子立入禁止みたいなゾーンに入るの?」

「行こっ!豊臣君も明智君みたいにデート慣れしないとね!」

「あんまり他人の男子の名前呼ばないで欲しいな」

「いや、君じゃん」

「俺だけど」


明智秀頼なら行き慣れているような店でも、豊臣少年はウブなのでこういう女の子という店には恥ずかしいという気持ちが強いのだ。


「あぁぁぁぁ!?こんな陽キャゾーンに俺は目が焼けるぅぅぅ!?」

「焼けないから行こっ!」


無理矢理来栖さんに引っ張られて店内に入る。

入り口からテディベアのようなクマのぬいぐるみが出迎えた。

そして、店員さんにお客さん全員が女性ばかりであり本気で羞恥心が込み上げる。


「あ!このカピバラのぬいぐるみ、なんか豊臣君に似てない!?」

「どの辺が!?」

「なんかこう……、弱々しいつぶらな瞳とか」

「弱々しいつぶらな瞳」


来栖さんが取り出したカピバラのぬいぐるみの第一印象は『イジメないでください!』と訴えているような情けないイメージである。

これに似てるのか……。


「お?」


近くに姿見の大きい鏡があったので、そこまで移動して自分とカピバラの顔を並べる。

相変わらずの悪人顔と、情けないカピバラのぬいぐるみが並んだだけである。

ミスマッチだよ、こんなの。


「あははははは!似てる、似てる!この友達思いそうなカピバラそっくり!」

「なんだお前?友達思いなのか?」

「答えない答えない」


カピバラに問いかけても何も答えない。

それを見かねたように、来栖さんがこのぬいぐるみを取り上げてしまう。


「ウインドウショッピングなのに、いきなり欲しくなっちゃった。カピ秀君」

「カピバラと光秀を混ぜるな」

「なんか豊臣君に似てて素敵ね。買っちゃおう」

「ウインドウショッピングの意味……」


来栖さんは満足しながらカピバラぬいぐるみをレジにお会計しに行く。

こうして1500円のお金がカピバラに変換された。

彼女的には満足らしく、ぬいぐるみの入った紙袋を愛おしそうに握っていた。


「そんなに良かったの?」

「最高で買っちゃったわ、カピ秀君」

「それ名前なの?」

「うん!」


来栖さんのネーミングセンスにはあえて触れないけど、幸せそうなら俺も幸せになれる。

笑い方とかは本当に来栖さんと同じだからドキッとさせられる。


「また今度も前世プレイデートしたいな豊臣君!」

「そうだね。君がまた来栖さんになってくれるなら」

「ふふふっ、約束だよ豊臣君」


こうして、前世なりきりデートは大成功で幕を閉じた。

後日、絵美や理沙や和もカピ秀君は俺に似てると満場一致であり大好評だったようである。

う、嬉しくねぇ……。

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