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1、綾瀬翔子

──ギャルゲーの出番のないモブキャラクターに転生してしまいました。








「おいおい、そりゃあねぇぜ……」


中学校から帰る時、野球部が打ち上げたホームランになった軟球が吸い込まれるように俺っちの頭に大激突。

打ちどころが良かったのか怪我という怪我はなかった。

しかし、ある意味打ちどころが悪く他人だった頃の自分の記憶もふと蘇った。

そして、自分ではない自分の記憶を思い出すと同時に絶望した。


「俺っちの息子が…………消えた!?」


その変わりとはなんだが、やや膨らんだ胸があった。

ひんぬーでもないが、きょぬーでもない微妙な大きさだ。


「もしかして入れ替わってる!?」


そうか。

俺っちもついに知らない女の子の身体と入れ替わってしまったようだ。

キャンパスが手元に無かったので、カバンからルーズリーフを取り出しボールペンで『お前は誰だ?』とか書いてみる。

ホームランを打ち上げてしまった野球部員が謝りにきたのだが、俺っちの行動にポカーンとしていたようだ。

とりあえずメガネが壊れなくて良かったと思いながら地面からメガネを拾った。



──2日後。

俺っちは入れ替わりをしているわけではなく、転生してしまったらしいのに遅ればせながら気付く。

よくよく考えれば、自分が綾瀬翔子という名前なのを知っていたし、自宅もきちんと覚えていた。

どうやら前世はオタク男子ながら、生まれ変わった今はスイーツ(笑)系女子に転生してしまっていた。


「うえっ。イケメンきっしょ……。俺っち、記憶思い出せて良かったー」


ギャニーズ事務所所属のアイドルグループのポスターやら、CDなどが部屋に溢れていた。

気持ち悪くて鳥肌が立つ。

オタク系男子舐めんな。

イケメン、スイーツ(笑)、フェミニストの3つが嫌いな俺っちは、綾瀬翔子という女の部屋は魔の魔窟であった。

二次元美少女アイドルのヒロインポスターが欲しいね。

燃やしてやりたい衝動に刈られたが、『全部売ればそこそこの金になるんじゃないか?』と気付いてしまったのだ。

ポスターを剥がしながら俺っちが楽しめる趣味がないのか探してまわるが、ギャルゲーの1つもない。

「こないだまで真北君推しだったのに、俺っちが前世を思い出したばかりに……。アバヨ、草食系男子」とか惜しみの言葉を投げながらメルカリで出品していった。

そんなオタクのフットワークの軽い活動をしていると母親から「翔子?雰囲気変わった?」と驚かれた。

「俺っちは元々こんなもんだ」と返すと、「元に戻って……」と泣かれた。

元に戻った結果がこれなのに酷い親である。


しかし、母親からしてみれば突然翔子が死んで中身がオタクのおっさんになったなんて知ったら卒倒ものだろう。

「冗談だよ、母さん。いつも通りの私だよ」と言いながら、親の前ではなるべく翔子のままでいようと決意した。

オタクは親を泣かせないものだ。


「しかし、転生したからにはなんかのゲームか、アニメの世界に行ったと思うんよ。オタクの勘だけど」


部屋のテレビを見ながら、前世と同じ番組やオリジナルの番組などをしている。

何か世界観に繋がる情報がないのか探していると、ニュースの1コーナーが始まった。


『では、ギフトを使いこなす天才キッズたちのコーナーです。本日は、ホッカイドーに住む『やまかわごんぞう』君、8歳が登場です。ごんぞう君はどんなギフトを使えるのかな?』

『僕は拍手をするとカスタネットの音が鳴るギフトです!ほら、ほら!パンパン!なまら凄いでしょ!』

『まぁぁ!素敵な音色ですね!ごんぞう君のギフト素晴らしいです!エクセレントッ!ASMR向けギフト最高っ!どうですか、スタジオの皆さん!?』

『お姉さん、パンパン!パンパン!』

『うっひょおぉぉぉぉ!あぁぁ、しゅてき……。デュヘヘヘヘ』

『パンパン!パンパン!』


全国放送で8歳児のギフトで情けなくアヘ顔を晒すぽっちゃりな女子アナの放送事故の光景がまるで頭に入らない。

何故なら『ギフト』という単語が耳に入った瞬間に、鈍器で殴られたような衝撃が走ったのだから。

その単語だけで思い出した!


──この世界は俺っちがシナリオライターを担当した『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズだ!


うわぁ……。

よりにもよって、自分が書いた物語の登場人物になるなんて予想が付かないって。


「というか、『拍手するとカスタネットの音色になる』ギフトとかそんなショボイギフト知らないんだけど……。『アンチギフト』とか『月だけの世界』とかそういう派手なギフトを見たい!」


こういうのって普通、主人公とかに転生するもんじゃないのか?

なんで綾瀬翔子というモブ転生してしまったのか……。


「あ、ヤバい……。明智秀頼とかギフト狩りとかエニアとか悪役盛りまくったせいで収集付かないじゃん……。世界が滅ぶぅぅぅぅぅ!?」


ならば、自分のケツは自分で拭かなければならない。

綾瀬翔子だった頃の記憶を思い出してみると、彼女はギフト非所持者である。

自分で勉強して第5ギフトアカデミーに入学しなくてはならないようだ。

ノーパソを開き、ギフトアカデミーの公式サイトを開くと近城悠久という学園長の名前と写真も公開されている。

彼女は未来の世界でタケルやヨルの親代わりになる超重要人物である。

なんなら、攻略ヒロインよりよっぽど世界滅亡を防ぐためにも守るべき人物である。


やはりここは俺っちの創造したゲームの世界で間違いないようだった。

こうして、一般女子生徒に紛れながら受験勉強を必死にすることになる。

大笠女学院という学校を受験する気であったが、残念ながら前世を思い出したことにより志望高校を変更することになる。

ただ、運良く頭が良いと言える成績だったのでギフトアカデミーにも合格出来たようだった。






─────






「うっはぁ!来た来た来た!ギフトアカデミー来たぁ!『悲しみの連鎖を断ち切り』の聖地巡礼来たぁぁ!生アリア様とか見てぇ!」


アリア、美月、茜。

各シリーズに1人は、自分の趣味に従うように設定したキャラクター。

清楚と腹黒のハイブリッド。

真面目系ポンコツ。

オッドアイ属性。

そりゃあ、見たいっしょ!


俺っちのテンションは爆上がりであった。

しかし、クラス表を見て愕然とする。

茜や乙葉らと同じクラスだ。

なんと、既に本編が始まり1年が経過していたという計算になる。


つまり、佐々木絵美は死亡。

三島遥香は逮捕。

などなど不幸は防げなかったようだ。

自分のやらかしとはいえ気分が悪い。

なんなら宮村永遠に至っては中学時代に親を殺害させて、明智秀頼に無理矢理襲われて記憶が消されてしまっている。

我ながら尖り過ぎた悪行だ……。

ノリノリでいつもやってしまう登場人物に厳しすぎる世界をもう少し控えめにしようと反省している。

前世でのツイッターでは『リアル本能寺』とかいう狂人に『宮村永遠は処女ですよね?』の話題で30通くらいDMでやり取りしあったトラウマが蘇る。

ファンのユーザーを無下にすることも出来ず『秘密』とか送った記憶があるぞ……。

でもなぁ、リアル本能寺とDMやリプ合戦していた時は楽しかった……。

彼の『セカンドに永遠ちゃんの出番少ない!ファイナルで増やして!』とか意見もさりげなく取り入れたりもした。

後にも先にも滅茶苦茶俺っちに絡んでくれたユーザーはそいつだけだった。

いつからか俺っちの作品に飽きてしまったのか、一切リアル本能寺がSSを書かなくなったり、反応がもらえなくなって悲しくなったものである。

宮村永遠愛BOTもいつの間にか切れてしまっていたし、ファンとしての彼が離れていく様子が妙に生々しかった。

なんかまるでリアル本能寺というアカウントが死んでしまったかのようであったか。

なんて、楽しかった頃を回想する。


絵美に至ってはヒロインにする予定が、詠美をヒロインに変更したことによりゴミのように殺害してしまった人物である。

女の子が涙目になって命乞いするシーンとか、そのまま躊躇いなく殺されたりするシーンは大好物であり、ヒロインではないがある意味絵美も桜祭の性癖から生まれたキャラクターの1人ではある。

お、俺っちが罪に問われるのかな?

メガネを挙動不審に動かしながら、ガクガクと震えていた。


胃が痛くなりながら、ギフトアカデミーの入学式に出席する。

赤坂乙葉、五月雨茜と同じクラスという運命を引き当てる。

リアルオッドアイ素敵!と茜推しな俺っちはニヤニヤしてしまう。

そんな入学式を終えると、急いで2年フロアへ走る。

アリア様も転校してきたということで本格的にセカンドシーズンの始まりだ。

早く動いているシーンが見たい気持ちと、救いようのない悪人をどうにかしたい葛藤が混ざりあった中、ついにヒロインたちを発見した。

1人だけではない。

複数人のヒロインだと、一目で気付く。


胸に託されたペンダントをぶら下げるヤンチャな赤髪のポニーテール娘。

ショートカットな水色髪な不憫なボクっ娘。

金髪ロングの真面目お姉さん娘。

紫の天才美人な完璧娘。

接点無さすぎとスタッフでネタにされたファーストヒロインの複数人が首を揃えて集まる光景は、綾瀬翔子の人生で1番感動した。

特に原作とは真逆で、目が輝いている永遠ちゃんが特に美人過ぎて脳内で花火がドガドガと気前良く上がった。


『はわわわわわわ!エイエンちゃんだぁぁ!美月に遥香にヨルと理沙以外のヒロイン全員揃ってるぅぅ!円もいるし、神過ぎ!』


ヒロイン大好き親友娘まで……。

全員俺っちの娘なんだぜあれ……。

女もののピンクのハンカチを目に当てて感動の涙を拭う。

しかし、明らかに何かがおかしい。


『…………でも、あれは絵美と美鈴?美月ルートに入ってないのかな?あれ?そういえばなんで遥香は逮捕されてないの?遥香ルートの世界なの?でも、絵美は生きてるし……。…………何ルートこれ!?』


鳥籠の少女である宮村永遠が目のハイライトがキレイに存在するために、タケルは永遠ルートを攻略したと予想していたが、明らかに様子が変だ。

原作をやりこんだ人から見たら矛盾だらけの光景。

1年時には必ず死亡しているはずの絵美が元気に笑っている。

美鈴に至っては解除する方法がないと俺っちが設定した紋章が消失している。

遥香も『エナジードレイン』で家族を殺害したために警察に捕まる展開にしたのに、なぜか何事もなく廊下に立っている。

自分の作品が、自分の知らない作品になっとる……。

呆然としていると、その中心にタケルがいると思っていた場所に悪魔が立っていた。


短めの茶髪に、日焼けしたやや黒い肌。

何をしていても威圧的に映るつり目。

軽薄そうな口元。

──明智秀頼!


『あいつはクズでゲスな明智秀頼!?あいつ生きてるやん!タケルは何やってんだよ!』


それどころかあいつ、原作ヒロインに知らない女子生徒まで何人もはべらかしやがって……。

こ、この明智秀頼──!

原作以上に暴走してヒロインすら毒気に掛けやがった……。

『アンチギフト』持ちのヨルすら、手中に収めた……。

『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズを触れたことがある人にとって絶望的な光景である。

俺っちがこの世界の創造者なのを知られてしまったら、エロ同人みたいに鬼畜な所業の被害者にさせられるかもしれない……。

恐ろしい……。

グロテスクなキノコを食べさせられる可能性に全身から鳥肌が立つ。


だが、そこで希望がやって来た。


『あ、アレはアリア様だ!きゃー、生アリア!』


ギャニーズファン時代の綾瀬翔子が浮き出てテンションが上がる。

紋章が無くなった美鈴となんか喋っているみたいだ。


『あああああ、2人共可愛いよぉぉぉ!』


嫉妬の悪役である美鈴が紋章が無くなるだけであんなに化けるのは予想を飛び越え過ぎっ!

もう、いくつ心臓があっても足りない……。


大体の情報は把握した。

俺っちのヒロイン全員を毒気にかけた明智秀頼。

あいつだけは生かしてはおけない。

親指を噛みながらこの場から離れていく。

あいつの白々しい善人顔に殺意が止まらなかった。


俺っちの世界は俺っちが守るんじゃあぁぁぁぁ!

綾瀬翔子の本編リンクはこちらから。

第16章 セカンドプロローグ

8、細川星子は緊張する

10、宮村永遠の癒し

11、深森美鈴は握られる

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― 新着の感想 ―
[一言] まさかの桜祭参戦。 恐らく秀頼君には腹パンされることでしょう。
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