56、宮村永遠の推理
「永遠の家でお泊まりは始めてだね!」
「私はそれよりも意外な4人が集まったことに注目しますよ」
絵美、理沙、遥香の3人は永遠の家に招かれていた。
いわゆるパジャマパーティーというやつである。
8畳の永遠の部屋の真ん中に4人が固まっていた。
「流石永遠ですね。経済とか商品の売り方の本がたくさんある……」
「えへへ。将来起業して秀頼さんと仕事する夢追ってますから」
「……明智さんに話しているんですか?」
「大学生になる辺りくらいに切り出す予定です」
「まだ2年弱ありますよ?」
「18歳で男性は結婚可能だから、もうちょっとですね」
3人の意見に、目が笑っていないハイライトのない眼で夢を語る永遠。
西軍相手で1番敵にまわしてはいけない相手かもしれないと3人は戦慄した。
咲夜と喫茶店を一緒にするだの、国のトップの婿になるだの明智秀頼の将来はどこに向かっているのか。
もはや誰にもわからない。
因みに秀頼の将来の夢について、野郎の飲み会にて山本大悟が聞いたところ達裄の元で何かをやり遂げるか、『年間休日が120日程度の会社でお茶汲み係を務めたい』とスペックの無駄遣いな返答がきたのであった(タケルも秀頼と同じ仕事をしたいことを告げていた)。
危険を察知した理沙は、自分から違う話題にすり替えるようにわざとらしくスマホを見た。
「もう、兄さんったら……。私が家出したと勘違いしたみたいで7件の着信がありました……」
「十文字さんは理沙が大好きですね」
「ボクが家出しても弟は探さない自信ありますよ」
「理沙ちゃんと十文字君のやり取りは昔からお約束ですね」
全員からの兄妹の反応がブラコンと認識されているのか、恥ずかしさと相まって理沙がポッと赤くなる。
「理沙、可愛い!」と永遠に指摘されて、体育座りになって顔を埋めくのであった。
「あらら。籠っちゃいましたね」と、遥香が微笑ましくなり笑っていた。
「十文字さんに大事にされてますねー」
「明智さん以外との恋愛禁止そう」
「アイス買うのも許可制してそう」
「遥香さんと絵美さんの中での私たちはどんな評価なんですか!?」
遥香と絵美に迫真の突っ込みをする理沙。
2人して「あははははは」とツボにはまったように顔が綻んだ。
永遠は遠慮がちにクスクスと口元を歪めていた。
「十文字さんも素敵な男性だと思いますよ」
「気が利きますし、友達想いです」
「秀頼さんが居なかったら、もしかしたら十文字さんと付き合ってた未来とかあったかもしれませんね」
「永遠さん、遥香さん……」
自分の兄が永遠や遥香と付き合ったらと思うと、それはそれで複雑な気持ちが胸で渦を巻く理沙であった……。
『なんか、嫌だな』と失礼ながら、拒んでいた。
「絵美はどうですか?秀頼さんが居なかったら十文字さんと付き合ったりとか」
「え?絶対ないよ?」
「あ、ないんだ……」
理沙、永遠、遥香と違いヒロイン枠ですらない絵美は、タケルに対してのフラグや運命的なものが一切なかった。
むしろ、絵美にも自覚はないが怒りや憎悪的な感情がうっすら残る相手である。
「それに……」
絵美が照れながら、右側の頬を人差し指でかく仕草をする。
「わたしはずっと秀頼君しか大好きにならないし」
「そういうのズルっー!」
「あう……」
絵美の栗色のツインテールをハンドルのように弄りだす永遠。
「ズルです!ズルです!」と言いながら髪をくるくると弄りだす。
「じゃあ、絵美さんに罰ゲームです」
「な、なんで私だけぇ……」
「昔の明智さんの姿をボクは知りたいんです。だから何か絵美さんの思い出話とか聞きたいです」
「それは面白そう!明智君が兄さんと知り合う前の彼のエピソード聞いてみたい!」
遥香の思いつきに、食い付く理沙。
永遠も、そんな面白そうな話題に反応しない筈がなく「絵美、教えてっー!」とノリノリにツインテールを上下に揺らす。
「わ、わかったから髪から手を離して……」と言いながら絵美は目を回していた。
永遠が髪弄りを終えると、永遠の部屋にあった姿見の鏡の前に立ちヘアゴムを外す絵美。
それから手で髪を揃える。
「わっ!ますます絵美さんが詠美さんに似てます……」
「わたしが似てるんじゃなくて、詠美ちゃんがわたしに似てるんです!まったく、全然オシャレしない詠美ちゃんに似てるなんて不本意です……」
ぶつぶつと文句を言いながら、先ほど座っていた位置に戻る絵美は、みんなに伝えるように語りだす。
「とは言っても、わたしと秀頼君の過去とか面白くもなんともないですよ?」
「それは私と永遠さんと遥香さんが審査します!」
「なんで私だけ審査されるんだろ?」
素朴な疑問を抱きつつ、絵美はなんとなく頭に浮かんだエピソードを語りはじめた。
◆
「秀頼君!ドラマに出てたミアちゃん格好良かった!」
「あぁ。昨日やってた美人弁護士のドラマ……。ミアじゃなくて三奈ちゃんね。瑞樹ちゃんの露骨な水着シーンで素晴らしい腋が見れた神回だったね!」
「は?」
「だから水着」
「は?」
「三奈ちゃん格好良かった!結婚するならあんな子が良いな絵美!」
「は?」
「怖いって絵美ちゃん……(´・ω・`)」
秀頼がつい前世の男友達に会話するノリで絵美に水着を語るも理解してもらえなかった。
しょぼーんと秀頼の方が悲しい顔になる。
「わたしは秀頼君と結婚するの!だから、ミアちゃんダメ」
「なるほど。あと、三奈ちゃんだよ」
当の秀頼は後20年経っても同じことを言ってくれたら良いなぁと嬉しさのようなものが込み上げて目元を抑えていた。
ただ、子供の絵美は一緒に住むくらいしか理解していないのだろうと思い、子作りに必要な行為などのことに関しては口を閉ざすのであった。
「わたしもミアちゃんみたいにべんごしぃ?になりたい」
「なるほど」
「だから秀頼君はあの怖い人役やって」
「凶悪殺人犯で18人の子供を殺害した『子供が世界から消えちまえ』野郎役が俺か」
おままごとに巻き込まれ、秀頼が凶悪殺人犯役を演じようとしながら「あれ?原作の俺?」と複雑な顔をしていた。
「わたしはべんごしです」
「ちょっと待って」
「どうしたの?」
やっぱりこの役やりたくないと思い留まった秀頼は絵美の改心の弁護士役に待ったをかけた。
「弁護士って騙ると捕まるんだぞ。犯罪だぞ、犯罪!絵美は犯罪者だ!」
「え?犯罪者って何!?」
「犯罪者は悪いことして警察に捕まっちゃう人!」
「え?わたし捕まる!?」
「弁護士じゃないのに弁護士って名乗ったからめっちゃ捕まる。ピーポーピーポーなパトカーに捕まる」
「ピーポーピーポーにつかまる!?た、助けて秀頼君!?」
「俺はテレビ観てるから助けられないかも」
「ひでよりくぅぅぅぅん!やだぁ、やだぁ!助けてぇぇぇ!」
「そ、そんなマジ泣きすんなよ……」
大粒の涙を流した絵美は、彼に頭を撫でられながらハンカチで涙を拭われていた。
おばさんに叱られるような足音が耳に届いた彼は、(豊臣光秀の意地悪さはしばらく封印しよ……)と後悔しながら、部屋の扉が開いてしまう音がして観念した。
◆
「絵美可愛い!」
「ピーポーピーポー来ますね!」
「バカにしてぇ!」
永遠と遥香にからかわれながら、次は理沙が絵美の頭を撫でていた。
「明智さんは子供の時から博識ですね」
ギフトの特訓を思い出した遥香は、秀頼が年不相応な知識を持っていた秀頼に対しらしいなと微笑ましくなった。
「明智君は、昔から大人びてましたから」
「んー……」
「どうしましたか?」
絵美の体験談と、遥香と理沙の言葉を聞いて変に客観的になった永遠は興味深そうな声を出す。
そこで、変な回答が導いてしまい永遠は「あり得ないか……」と自分の答えを否定した。
「何があり得ないの?」
「もしかしたら秀頼さん、前世の記憶とかあったりするのかなーって。いや、思いつきですよ?」
永遠が手を振りながら慌てて否定する。
そんなドラマみたいな出来事が身近にあるわけがない。
「でも、明智さんなら前世とか覚えていても不思議はないですね」
「絶対前世も友達多かったですよね」
「そして、秀頼君は前世でも変にマニアックだったり、ギャルゲーとかやりまくっていたんでしょうね」
「あはははは……。そんなこと言われたら私も秀頼さんならあり得そうとか思っちゃったよ。やたら、剣道強いですしね!」
4人は意外にも秀頼の近い真実に気付きつつあった。
(そういえばなんで織田は秀頼さんに決闘を申し込むほどに恨みがあったのだろう?接点という接点が皆無であるのに……)
永遠は、3人よりももっと深い疑惑に思い至っていた。
半年前の決闘後、宮村永遠は独断で織田について洗いざらい調べた。
深森家御用達の探偵まで導入させて。
嫌いな男について徹底的に調べるということが、こんなに嫌悪感の激しいことなのかと人生で始めて知ったのだ。
ただでさえ、敵の多い人物であり、恨みを持っている人はたくさんいた。
秀頼よりも恨んでいそうな動機のある人だって学園内だけで4人は発見された。
それなのに、どうして秀頼に決闘を挑んだのか謎だらけであった。
何があれば、決闘を挑むほど秀頼に恨みがあるのか。
永遠には理解できなかった。
その中で、唯一織田と秀頼の関係が結ぶのではないかと推理した動機があった。
(織田のギフト?それとも、秀頼さんのギフト?ギフト絡みの怨恨……?)
何か自分が秀頼について知らないことがあるというだけで、彼女は歯がゆかった。
(もう、秀頼さんを決闘には巻き込みたくない……)
そんな永遠の祈りは、彼が既に2度目の決闘を終えたことにより果たされなかったことになる。
「それより理沙さん、持ってきましたか?」
「じゃん!小学校の時の卒アルです!」
「私、3万で買います!」
「売りませんよ……」
難しいことをごちゃごちゃ考えていた永遠であったが、理沙が取り出した卒アルにより一気に意識がそちらへと持っていかれた。
秀頼の秘密も、もしかしたらすぐそこまで近付いているのかもしれない。
そして、誰も──円は前世持ちということには気が付かないのであった。
そんな、ちょっとあり得ない妄想を語り合ったパジャマパーティーである。
「秀頼さんの文集読みましょう!」
「『人生とは卒業の連続である』」
「あ、秀頼君の黒歴史!」
「そつなんですか!?ボク、初見なので楽しみです!」
卒アルに釘付けになりながら、きゃあきゃあと黄色い声を上げながら盛り上がっていた。
タケルが秀頼と同じ仕事に就きたい気持ちは変わっていません。
第5章 鳥籠の少女
25、明智秀頼の進路
いつの間にかブレイン役が板に付いた永遠である。




