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45、谷川咲夜と通話

『秀頼ぃぃぃ、聞いてくれよぉぉぉ』

「めっちゃ聞いてるよ。通話しているんだから咲夜の声しか聞こえないから」

『そっか』

「そんな悲惨そうな声出すなよ」


咲夜がスマホに連絡をしてきた。

どうやらよっぽどのことらしく、街中を歩きながら咲夜と話を続けた。

近くを走る車のエンジン音がするが、特に通話の影響はないようだ。


『だって……、だってマスターが突然車でどっか行った……。ウチを捨てて新しい女のところに行ったんだ……』

「そもそもあの人、再婚する気ないでしょ」

『昨日までのマスターは再婚する気は0だった!ただ、今日のマスターは再婚してるかもしれない!』

「いきなり再婚しないよ。どっから出会って初日で再婚する奴いるんだよ」

『そういうドラマを前に絵美と見たもん!』

「そんな頭がピンク女が勧めるドラマをノンフィクションに捉えんなよ……」


絵美は結構過激な恋愛ドラマが好きなのだ。

小学校に上がる前からおませさんなところがあったからな。

絵美の部屋の少女マンガも、ある意味では青年マンガ並みに大人(ディープ)な描写が多い。

清楚系ヒロインが保健室でいきなりヤルとか絶句したなぁ……。

なんて前世では少女マンガに縁がなかったので、転生してすぐの小1時代は絵美の方がムッツリ感が強いなと戦々恐々していたものだ。


『ぅぅ……。マスターがいきなり再婚したら、コミュ障なウチは秀頼の家に住むからな……』

「谷川家に馴染めよ。ウチの叔父の顔、多分咲夜無理だろ……」

『確かに秀頼叔父の顔怖すぎてチビるかと思った……。ギャングドラマの三下チンピラにしか見えなかった』

「本当に怖がってる?」

『ヤバかった……』


三下チンピラという、本当にそうとしか例えようがない明智秀頼と細川星子の叔父であった。


「とりあえずマスターは大丈夫だから」

『うん。わかった……。ところでウチ、マスター居ないと何も出来ないんだけどどうすれば良いかな?』

「じゃあ家が近い円の家に泊まり行ったら?」

『うん!そうする!ありがとうな、秀頼!津軽姉妹の家に行くよ!』

「おう」


冗談で言ったら本気にした咲夜が円の家に泊まることにしたらしい。

たまにそういうこともあるらしいし、急ではあるが円なら無下にしないであろう。

咲夜と通話を終えると、俺もちょうど待ち人たちの集合場所に到着した。


「やぁ、来たね秀頼君」

「というか、あんた娘を1人喫茶店に置いてよく来たな」

「咲夜は僕が夜に出かけようとすると必死に止めようとして乱闘が始まるからね。黙って車に乗って移動するのが正解なのよ」


10秒前まで電話をしていた女の父親が飄々とした態度で駐車場に立っていた。

マスターには再婚相手どころか、恋人もいないことを知っている。

今晩、マスターの予定は俺たちに取られていたのであった。


「よーし、来たな秀頼に、タケルに、マスターに、大悟」

「なんすかこのメンツ……?」


達裄さんが全員が集まったことを確認する。

どうやら俺が最後だったらしい。


「てか、山本が達裄さんと知り合いなんて知らなかったぜ」

「明智先生の決闘の時に、なんか強い人と知り合った。それが遠野さんだった」


ちょっと小さくなっているタケルと山本がこそこそしていた。

山本と達裄さんは、ほぼほぼ初対面という関係らしい。

マスターは全員が常連客なので、みんな親しい仲である。

「じゃあ、店に入ろう」と、達裄さんを先頭にして目的地の建物に入っていく。

すぐにやたら中性的な整った顔の店員さんが出迎えた。


「あ、予約している遠野で5人ね」

「これはどういう集まりなの達裄君?」

「まぁ、色々とな。3人は未成年」

「え!?本当にどんな仲!?」


店員さんとお互いにため口で喋っている達裄さん。

常連客なのかな?とあまり広くない居酒屋を見回しながら雰囲気が良いなと飾られた提灯(ちょうちん)などを見ながら和風で素敵な場所だと感想を抱く。

席に案内され、各々が飲み物の注文をする。

達裄さんとマスターがビール。

俺とタケルがコーラ、山本に烏龍茶が配られた。


「というわけで、『ドキッ!?野郎だらけの嬉し恥ずかし飲み会』を開始します。乾杯!」

「「「「かんぱーい!」」」」


達裄さんの音頭から飲み会が始まった。

マスターは咲夜にも内緒、タケルは理沙にも内緒、俺は絵美にも内緒という極秘飲み会が繰り広げたのであった。


「おーい、藍!とりあえずお任せで色々持ってきて」

「はいはい。ガンガン金使わせるよ」

「おっきいプロジェクト終わったから店に金まわすから旨いの持ってきて!とりあえず焼き鳥」

「オッケー。僕がこれからどんどん焼き鳥焼きまくるよ」


店員さんに慣れた感じに達裄さんが指示を出す。

全部奢りらしいので、高校生3人はたらふく食って良いからガンガン面白い話題を出せと命令されている。


「あのイケメン店員さんと知り合いっすか?」

「あぁ、高校の同級生。あと、あいつ女だから」

「えぇっ!?女の人だったんすか!?性別不明な気はしてたんすけど……」

「ただ、あいつ高校の時に男装していてバレないくらいには擬態が上手いだろ」

「はぁ……」

「真面目な顔してバイだから気を付けろー」

「は、はは……」


高校の同級生に男装しているなんて当たり前に言っているのだが、どうなってんの達裄世代?

しかも、絶対悠久の知り合いじゃんと黄金世代に驚かされる。

あと、バイはマジ?


「なーに。ウチのクラスには男から女に変わる奴いるしな」

「頼子ちゃん、また出ねぇかな!」

「いつまでも引っ張るなお前ら!?」


タケルと山本には多分一生俺のTS事件を弄られ続けられるんだろうな……と、真顔になった。

コーラをグビグビ飲みながら、そんな虚しい感情を炭酸と一緒に流していった。


「はい!ももにねぎま!」


店員さんが焼き鳥を10本乗せた皿を持ってくる。

それを見て、『おぉ!?』と野郎5人が歓喜の声を上げながら焼き鳥に視線を集めた。


「あっ、すいません!皮3本にぼんじり2本」

「俺、ハツ4本」

「こっちは皮5本につくね2本」

「若いなぁ。とりあえず僕は食べてから注文しよ」


マスターがビールを飲みながら遠い目をする。

各々が注文しながら、メニュー表の取り合いをしていた。


「マスターだってまだまだ若いっしょ。高校2年の娘いるとか信じらんねぇもん」

「達裄君にそう言ってもらえるのは嬉しいねぇ」

「去年に同窓会あったけどマスターより老け顔とか余裕でいるっすからね」

「あら、本当に嬉しいねぇ!まったく、秀頼君に人間の垂らし方教えてんじゃないのぉ?」

「あぁ。あいつ、俺が教えなくても人間落とすの上手いのよ」

「上手いよねぇ!」

「何言ってんすかあんたら……」


人間の垂らし方とか、そんな気色悪いマニュアルなどない。

俺よりよっぽど達裄さんや、マスターの方が知り合いが多い癖によく言う……。


「タケルはもうちょっと積極性あるとモテるかもな。秀頼から離れると案外モテるんじゃね?」

「いやいや、ダメっすよ!俺は今の状態が心地良いんすわ」

「大悟君は結構クラスで人気者じゃない?」

「どうだろ?明智がいるんで地味っすよ」

「またまた!」


タケルは達裄さんに、山本はマスターに捕まっていた。

酒が入っているからか、成人2人はいつも以上に話のペースがガンガンに早い。

おしゃべり大好き組がブレーキを外してしまっている。


「あっ!?達裄さん、グラス空ですよ。注ぎます」

「悪いねー、秀頼」

「マスターもついでにグラス出して」

「かー!気が効くなぁお前!俺、本当に咲夜と秀頼君が結婚して欲しい」

「おっさんが酒に酔ってデレるなよ、気持ち悪い」


普段咲夜大好きマスターが言いそうにない娘と結婚して欲しいとか、僕から俺に一人称が変わっていたりと雰囲気が滅茶苦茶変わってしまった……。


「なんか注文ありますか?」

「ポテト、塩キャベツ、春巻き」

「鳥ポン、枝豆」

「あっ、すいません店員さん!注文お願いします!」


2人の注文にプラスして、ビールを追加注文したりして店員さんに声をかける。

空いた皿なんかも端に寄せて、店員さんが持っていった。


「なんでお前、そんなこなれてんの?」

「そうか?」

「気遣い方が高校生じゃねーのよ」


焼き鳥を食べていると、タケルと山本が感心したような文句を絞り出す。

と言われても、前世では情けない両親の世話を俺がこんな風に処理していたという経験から来る動きだ。

前世の知識で無双するみたいにならないのが、自分にはないのが悔しいところである。


「あー……、結婚出来そうにないめぐりの婿に秀頼指定っすかな……」

「シスコンが妹を売らないでください」

「どんな突っ込みだよ」


達裄さんもマスターも酔うと大事な身内を結婚させようとしてくるジョークをかますのは一体なんなんだろうか?

1人しかいない店員さんだけが忙しそうに、料理を作りまわっている。

1団体しか相手に出来そうにないだろうな……と、店の広さから考えてしまうのであった。

Q.咲夜って叔父の顔知ってるの?


A.1回だけ会ったことがある。


こちらを参照。

第17章 本物の色

18、三島遥香は触る

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