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42、本物の色:邪魔

(最近のお姉ちゃんは楽しそうだね)


休日の午前中。

クローゼットの服を眺めながら、『何を着ていこう?』と迷っていると、ふとミドリから声をかけられる。


(今日も秀頼兄ちゃんとデートするんでしょ?)

「で、デートなのかなぁ……」


で、デートとかそんな堅苦しいものじゃなくて……。

遊ぼうと誘われているだけだ。

こういう日がここ数回繰り広げられていた。

彼と別れの時間が来る度に『早く次会いたいな……』という惜しい気持ちが膨らみつつある。

最近はボッチなままだが、虐めとかもなくなり比較的に穏やかな日々を送っていた。


「ねぇ、ミドリはどっちの服が良いと思う?私は暗い色のこっちの方寄りの意見なんだけど」

(お姉ちゃん……。最近、身体(コックピット)にミドリを入れてくれなくなったよね)

「え?」

(前は、お昼には必ず身体(コックピット)を貸してくれるって2人で決めてたのに……。ねぇ、どうして?どうしてミドリを外に出してくれないの?)

「べ、別に外に出したくないわけじゃないけど……」

(…………ミドリのこと、邪魔なんでしょ?いい加減、気付くよ?)


私が穏やかな日々を送っている側で、ミドリは不満を表していた。

こんなこと、ギフトが覚醒してからはじめてのことだった。

私にしか見えないミドリは、身体を震わせて、唇を噛み締めていた。

その姿は、生前の『翠』が駄々を捏ねる姿とまるっきり同じであった。









お姉ちゃんは、秀頼兄ちゃんと相談している時に私のこと邪魔に思ってきてるよね?

わかるよ?

だって、お姉ちゃんのこと、誰よりも知っているから!


『そっか。虐められるのであれば根本的な原因を探る必要があるな』

『根本的な原因?』

『言葉遣いが悪いとか、態度が横暴とか。嫌われる人間にはきちんと理由があるんだよね。虐める奴も悪いけど、変えられるところは変えていける方が良いと思うよ』

『な、なるほど』

『顔がムカつくとか、家が貧乏とか、人間は直せるわけがない意味不明なところで虐める奴もいるけど島咲さんはそこではないよね。何か理由があるよね?』

『…………』


お姉ちゃんは秀頼兄ちゃんの相談を聞きながら黙っていたけど考えていたよね?

『気持ち悪い』って言われてきた原因がミドリだって!

ねぇ?ミドリは邪魔?

勝手にお姉ちゃんのギフトが覚醒して、自分の都合でミドリを呼び出しておいて!

虐めの原因がミドリだとわかると、要らなくなるの!?


「ち、違う!違う!違う!わ、私にとってミドリは必要!ミドリは大事な妹……」


じゃあ、ミドリが秀頼兄ちゃんとデートする!

身体(コックピット)貸して?

良いよね?

ミドリ、1週間ずっと外に出られていないんだよ?


「………………」


あぁ、そう。

貸したくないのね。


ずるいよ、お姉ちゃんばっかり……。

ミドリだって、秀頼兄ちゃんとお話したいのに……。









ギクシャクしたまま、私は家を出た。

ミドリは気まずいのか、部屋から出ることはなくそのまま引きこもっていた。


「…………」


──なんで私の人生なのに、ミドリに遠慮しなくちゃいけないの?

思えば不満はずっとずっとあったように思える。

翠が死んでから、私の人生がちょっとずつ狂っていったように思える。

人がまばらにしかいない電車に揺られながら景色を眺めて、自分の人生と比べていく。

思えばミドリは翠本人じゃない。

だって私は翠が箱に入れられたのも、箱を燃やされたのも、墓に入れられたのも全部見た。

ギフトが覚醒してから、虐められるようになった。

嫌われはじめた。

そうだ、ミドリが居なければ私は普通にクラスに馴染めていた。


「…………やめて」


私、ミドリが好き。

ミドリが好きなのに、嫌いになっている自分がいて嫌悪感が強くなった。

ミドリは翠なの?

それともミドリは碧なの?

──『本物の色』を見失っていた。

電車の乗客に涙をみられないように、窓から目を離さなかった。


目的地の駅に着いたら、一目散にトイレに駆け込み、鏡の前に立つ。

赤いウサギのような目になっていて、しばらくその鏡の前に立つ。

しばらくどうでも良いことなどを頭に浮かべながら、目の赤さが引くのを待って待ち合わせ場所に着いた。


「おはよう。今日の服は大人っぽくて素敵だね」

「あ、ありがとうございます」


明智さんに声を掛けると彼は蠱惑的に微笑んだ。

この目が本当に素敵だ。


「それでさ、島咲さんに言いにくいんだけどさ」

「は、はい?」

「ちょっと忘れ物しちゃったんだよねー。一緒に家に来てくれないかな」

「わ、わかりました!」


申し訳なさそうに明智さんが頭を下げる。

でも、こっちは全然気にしていないし、むしろ家も見てみたかった。

明智さんの最寄り駅が待ち合わせ場所だったために、すぐに引き返せるのも不幸中の幸いであった。

最近の学校での出来事なんかを雑談しながら、見慣れない道を歩く。

知らない道を歩く好奇心が掻き立てられて、ちょっとワクワクしていた。


「あ、そこの家なんだ」と明智さんから声をかけられる。

この辺に住んでいるのかと、意味もなく辺りを見回していると不思議なものを見付ける。


「あれ?明智さんの家の大人さん、表札ないけど空き家なの?」

「あぁ。前は『佐々木』って家族が住んでたんだけど、《《家族全員行方不明》》なんだって」

「え?」

「怖いよなぁ……」


身近に行方不明なんてあるのか……。

それを考えると、明智さんも怖かっただろうなと同情をしてしまう。


「さぁ、着いたよ入って入って」と、明智さんが家に入れてくれた。

2人が入るとガチャと施錠をした。

防犯意識に気を使っていることに関心していると、「部屋に行こうか」と階段を登っていく。

私も黙って彼に着いていく。

部屋に案内されて、ぐるっと視線を1周する。

難しい本がいっぱいだ。

ギフトの扱い方、ギフトの秘密、ギフトの歴史などギフトに対する熱意を感じる本棚が目を惹く。

あとはテレビやゲームなど、年相応なものもあるようだ。


「ところで忘れ物って何を忘れたんですか?」

「あぁ。試したいことがあって」

「?」


質問に対する答えが変だ。

様子が変な明智さんに驚いていた時だ。

──命令が下る。






「【ベッドに寝ろ】」

「っ!?」


逆らえない命令で、支配された。

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