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36、本物の色:絵本

【原作SIDE】





ギフト狩りが世に浸透し、ギフト肯定派とギフト否定派が二分していた世の中。

とある絵本が発売された。


本のタイトルは『本物の色』。


小学校の図書館に置かれているような子供向けの薄い本である。

実際に、この本はひっそりと全国の図書館に置かれていた。

『本物の色』と書かれた大きい表紙のサイズには、髪が青い女の子と緑の女の子が笑顔ではしゃいでいる可愛らしい2人組が描かれていたのだ。

その表紙を捲ると、物語が始まる。







─────






とある姉妹(しまい)がいました。

片方はしっかり者のかみのけが青い女の子。

もう片方は、甘えん坊なかみのけが緑の女の子。


年が2つはなれていましたが、姉妹はなかよしでした。

いつも2人で遊んで、べんきょうして、たまにケンカがおこる。

ごくごくふつうな、幸せな姉妹でした。


また、甘えん坊な妹はべんきょうが苦手であり、姉によく家庭教師(かていきょうし)のように教えてもらいながらえんぴつを動かし、宿題などもこなしていました。


そんな、なかよし姉妹を微笑(ほほえ)ましくながめているのが父と母の幸せでした。

しかし、幸せは長くは続きません。


その日は大雨で、視界(しかい)が悪い夕方でした。

信号が青になり、緑の妹は横断歩道を渡っていました。

しかし、信号無視をしてきた車に妹はひかれてしまいぐちゃぐちゃにされました。


自慢であった緑の美しい髪が、赤く血に染まっていました。

うでは変な方向に折られて、身体はタイヤの下敷きになり、顔面からコンクリートに叩きつけられました。


きゅうきゅうしゃに乗せられた時には、妹は即死してしまいました。


明るくて太陽のような家族は、1日で暗くて笑顔のない雨雲のような家族になりました。

特に青いお姉ちゃんの顔からは明るさが消えて、つねにさびしい表情を浮かべています。

姉妹で同じ部屋を使っていた姉は、とても部屋が広く感じて妹を思い出しては泣いていて前に進むことはできませんでした。


いつしか、姉は学校でイジメられることになります。

なんでイジメられるのか、姉はわかっていませんでした。

クラスメートの子は口をそろえて『キモイ』と言い、白い目で見てくるのです。


イジメが始まったころから、ふかかいなことが起こりはじめます。


何も置いてなかったはずの妹の机の上にえんぴつやノートが置かれていることがありました。

姉は気持ち悪くなり、机の上をかたづけました。


しかし次の日の朝に姉が起きると、妹の机の上にクマのぬいぐるみが置かれているというおかしなことが続きます。

青い姉は父と母に『妹の机にものを置くのをやめてほしい』とうったえますが、『何も知らない』とかえすのです。


母は心配(しんぱい)した顔をして、『もう妹はいないんだよ』と当たり前のことを言うのです。

父はつらい顔をして、『べんきょうは1人でしなさい』としかります。

おかしな話です。

妹がなくなってからは、すべて1人になったのに。


次の日、次の日。

次の日、次の日、次の日、次の日、次の日、次の日、次の日、次の日。


妹の机のイタズラはおさまるどころか、毎日エスカレートしていきます。

妹の幽霊がいると姉が両親に説明しても、『いない』と返されました。

なんとなく、2人は原因(げんいん)を知っているみたいでした。


姉は頭を抑えながら、『今日こそは妹の机にイタズラする奴を殺してやる』と包丁を握ります。


包丁を抱えながら、姉は眠りにつきます。


その日は太陽のような幸せな夢を見ました。

妹が『こんな問題わかんないよー!』と足をバタバタさせていて、『仕方ないなぁ』と姉は嬉しそうに微笑む。

ずっと、この夢を見ていたいと姉は願っていました。

ただ、彼女は1つ勘違(かんちが)いをしていました。


毎日幸せな夢を見ていたのです。

ただ、少女にはその夢の自覚はなかったのです。


──だから、愚かな姉は包丁を妹の心臓に突き刺しました。

鮮血が飛び散ります。

散った血は頬にかすって『じゅわ……』と音がなる。

この瞬間だけは、血はお湯より暑かった。

血は糸のように垂れて、床に散らばっていく。


あるはずのない、妹には身体の実物がありました。

それもそのはず。

何故なら、妹の正体は姉だったのですから。


イマジナリーフレンド。

多重人格。

毎日見ていた幸せな夢はこの2つが融合し、現実になっていたのです。


青い姉は毎日、夜になると勉強が出来ない妹を演じていました。

青い姉は毎日、夜になると頼れる姉を演じていました。

いや、演じている自覚がないのであれば彼女は一体なんだったのでしょう?


彼女は青だったのか?

緑だったのか?

どちらが『本物の色』だったのでしょうね。


部屋は赤く染まりました。

青でも緑でも、結局は鮮血の赤に回帰するんですね。





もし、この世界に神様がいればこんな風に嗤うんだろうね。






──クハッ!






本物の色

作者:カノケン






─────






正体不明の絵本作家であるカノケンは病んでいる。

そんな噂が立っているが、真偽は不明。


彼、もしくは彼女の代表作である絵本は子供たちの間では人気のないものばかりでした。

『鳥籠の少女』、『病弱の代償』、『月と鈴』など救われないバッドエンドの物語ばかりを描く物語は保護者の間では『図書館に置かないで欲しい』とクレームの対象になっていった。


そんなカノケンの絵本を学校に置くなという騒動が始まった頃、ある噂が出回ることになる。


絵本のモチーフになっている物語の主人公は全員、史上最低なギフト所持者である明智秀頼によって人生を滅茶苦茶にされた人たちばかりなのではないか?


そんな根も葉もない噂がネット上で話題になり、テレビでも報道されはじめる。


当然ながら本の出版社には絵本作家であるカノケンの情報が欲しいとマスコミが大騒ぎになった。

そんなマスコミの騒ぎを出版社側は『精神病患者のために表舞台には立たせられない』と声明を出す。

カノケンは病んでいると、公式で発表されたのだった。


小学校の図書館には置くなと言われていた絵本は、いつの間にか小学生の道徳の教科書に掲載されるくらいに有名な物語になった。


カノケンはまったくメディアに顔を出さない人であり、明智秀頼と関係がある人物なのかどうか?という真実すら明かされていない。


どんな意図があって絵本の物語がバッドエンドになるのか、誰にもわからないのであった。


ただ1つだけ、カノケンのことが明かされている情報がある。

突然、カノケンのSNSが立ち上がりネット上では本物か偽物かという大議論が巻き起こる。

そのSNSにツイートが1つだけが投下されているのだ。







『本物の色はただただ辛い。後悔だけが残っている。私は彼と友人になれていなかった』







後年、絵本作家カノケンはギフト狩りに殺害されている。









カノケンにとって、太陽という表現は輝いている象徴。

第17章 本物の色

番外編、鹿野健太

参照。



肉体派の美術部員の物語でした。

第13章 因縁

18、疲労困憊の末に

参照。

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