30、十文字タケルの才能
部活動紹介の許可も降りて、アピールタイムに行われる紙芝居の内容も部員全員で頭を捻らせて意見を出しあった。
絵が得意という千姫に紙芝居を任せようとしたが、「イラスト1枚描くのに1週間かかるのに紙芝居なんか1日で作れるわけないじゃない」と拒否されるのであった。
どんな本格的なイラストにするつもりなのか……。
気になる……。
「紙芝居じゃなくて、フリップみたいにしましょう!ちょっとの違いくらい学園長先生なら許してくれますよ!」と大慌てな永遠ちゃんの意見から部活に入るベネフィットなどを出し合うのであった。
そんな残業も終え、次の日。
あっという間に部活動紹介の学校集会が始まった。
まずは昨年の夏の大会で1回戦で33─4の惨敗記録を残した野球部から部活動アピールをしていた。
『我々野球部は髪型を自由化しており、どんな髪型でも咎めない。集え1年生!』と3年の坊主の先輩が呼び掛けていた。
その呼び掛けをしながらキャッチボールを披露したり、円陣を見せたりなどパフォーマンスを見せて1年生を盛り上げていた。
「髪型自由って割りに全員坊主だな……」
「部活内では自由らしいんだが、顧問の先生が坊主にしないと部活の練習させないんだとよ」
「えぇ……」
タケルの解説を聞きながら、大人の汚い裏事情がチラチラ見えてしまった……。
そりゃあ、ロングにした野球部メンバーとかマンガには当たり前に登場するけど現実は非常である。
それを黙認している学園長の悠久も汚い大人だなと冷めた目で見てしまう。
次は山本が所属しているサッカー部の紹介であった。
多分、部活紹介は部活ヒエラルキーの高い順番なんだなと察した。
「俺たちサッカー部は33点取られる野球部より遥かにレベルが高い!それどころか、バスケ部やバレー部などの中でも最強チームの集まりだ!正直に言おう。野球部よりウチに入れ!」
「ふざけんなサッカー部!」
「強いからって調子乗るんじゃねぇ!」
「弱い奴は何言っても負け犬の遠吠えだ。最強を目指すならサッカー部!ギフトの有無も差別しない。純粋な力でレギュラーを勝ち取れ!」
意識が高すぎる部長スピーチに、山本はこんな体育会系な輪にいるんだと感心する。
普段は体育会系とは真逆なお調子者な山本のギャップに驚かされると、俺の中で山本の評価が上がっていく。
それからは、バスケ部、バレー部、陸上部、カバディ部、フットサル部……と、運動部とヒエラルキーの高い順番の紹介が続いていく。
「くっ……、こうやってたくさんの見込みある部員が運動バカに取られるのが悔しい……!クハッ、クハッ……」
「落ち着いて概念さん!脳ミソ筋肉な運動バカは文芸部には必要ないでしょ」
「むむ……。千姫の言うとおりだ……」
アピールが強くて、人数の多い部活に嫉妬する概念さんを千姫が宥めている。
「うぅ……。美鈴、緊張してきますわ。今までこういう場に立ったことありませんもの……」
「ウチもこういうのダメ……。注目されているところに立ってるのもダメ……」
紋章に苦しんでいて人前に立ったことがないであろう美鈴と、コミュ障な咲夜はガチガチに固まっている。
特に彼女らは何もしないだろうに人前にびびっている。
「大丈夫ですよ美鈴に咲夜。緊張を無くすおまじないを昨日秀頼君に教わりましたから」
「絵美!」
「そんな魔法のようなおまじないを秀頼は知っているのか。流石秀頼だな」
「秀頼様に惚れ直します」
左手に『人』って書いてハイタッチをコソコソ伝授している。
俺が恥ずかしいわ……。
「キスしているみたいですわね!秀頼様とキスしている美鈴を想像すると緊張が解けますわ!」
「ウチも緊張解けた気がする」
本当に緊張がなくなったらしい。
すげぇ効果だな。
絵美のドヤ顔を後ろから眺めていると、隣にいたタケルも「俺も緊張しているからやってくれ」と頼まれた。
仕方ないからタケルともハイタッチしていると、運動部のラストの卓球部の紹介が終わったようであった。
次に、非運動部である文化部の紹介に移る。
当然文芸部もこちらの区分である。
「師匠がダンク決めたら格好良かっただろうなー」
「てか多分、この部で運動出来る奴集めたらバスケ部レギュラー勝てる自信あるぜ」
ゆりかとヨルのそんなコソコソした雑談も聞こえてきた。
そんな中でも演劇部、映画撮影部、アナウンス部の紹介が終わりようやく文芸部の紹介が始まった。
「どーも、俺たち文芸部です」と、無駄に滑舌の良いタケルがマイクを持ちながら紹介を始める。
「文芸部は本が好きな人を大歓迎します。ウチの部活には素晴らしい人が揃っています。平家物語を全部暗記している者、美味しいコーヒーを淹れられる者、可愛いものに対して最強の目を持っている者……。」
男主人公であり、アニメ版を務めた声優の滑舌の良さというチート能力を無自覚に持っているタケルだからこそのナレーション役である。
先ほど紹介し終わったばかりのアナウンス部の部長の男があまりの滑舌の良さに『ひぃぃ、悔しい!』と半泣きで床を叩いている音がする。
タケルが無能じゃない数少ないシーンだ。
「めちゃくちゃ体力があって忍者のような者。……そして、すべての学校の憧れである明智先生がいます」
「…………?」
なんで俺だけ名指しなのだろうか?
台本にないアドリブを入れるなよ……。
そんな突っ込みも虚しく明智先生の名前が出た途端に、サッカー部の山本をはじめ、たくさんの人が拍手の荒らしが沸き起こる。
何故か学園長の悠久まで拍手をしていて、1分間は雑音が止まらなかった。
1年生は、何が起こっているのかわかんないらしく固まっている。
だからこそ、物凄い拍手をしている和と星子が目立ちまくっている。
「ありがとうございます!文芸部はどなたの入部も歓迎しております」
ウグイス嬢並みの完璧な進行を進めるタケルに対し、変な才能を開花させてしまった気がする。
昨日の練習の際なんか、『まさか明智君が兄さんのこんな才能が持っていることを理解していたなんて……』と理沙すら言葉を失うくらいだからな……。
「文芸部に入ると純粋に友達が増えます。アットホームな空気であり、凄い人脈が増えます。あ、横文字苦手な人でも大丈夫ですよ。それにコミュ障も改善出来るかもしれませんよ」
タケルがフリップを持ちながら文芸部の宣伝をハキハキと紹介していく。
中々な好感触と共に文芸部の紹介は終わり、鹿野らが所属する美術部へと順番のバトンを渡すのであった。
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「ナイス演説だったわ兄さん!」
「タケルぅー、お前がこんなに滑舌が良かったなんて知らなかったぜ!」
「それで、ウチのコミュ障はいつ治るんだ!?」
「ははは、褒めるなよお前ら」
理沙、ヨルの黄色い声と、純粋な疑問をぶつける咲夜。
コミュ障治るは俺が出した案だけに、疑問の矛先が俺になるのは避けて欲しいところだ。
「クハッ、今日から仮入部期間!部員がうはうはで部費ゲット!」
「概念さんったら気が早いですよ」
「ボクは先輩とか呼ばれたいなー」
今日の部活は、やたらテンションが高い部室であった。
部員最低3人集まるのかとちょっと不安になっていた時であった。
コンコン、と誰かが部室を叩くノック音がするのであった。




