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24、島咲碧とすれ違う

「名乗れねぇ………………」

「いや、なんの沈黙なんだよ!?」


鹿野と名乗り出た白髪の男にちょっと戸惑いを感じずにはいられなかった。

確かに俺の地毛が茶髪だったり、いずれ登場するであろうメインヒロインヨル・ヒルの地毛が赤だったり、津軽が緑髪だったりとカラフルな髪色が多い。


そして、前世の白髪の男キャラクターのイメージは心の底で何か爆弾を抱えた厄介キャラ……みたいなイメージがある。

実はあの虐めの黒幕だったとか言われても信じてしまいそうなうさんくささが滲み出ている。


「も、もしかして虐めの主犯ですか……?」

「なんでそうなるんだよ!?怪しいか!?俺のこと、すっげぇ怪しい表情で見ているのがバレバレだぞ!」

「明智秀頼……、名前」

「名乗るタイミングどうなってんだよ?明智秀頼ね、OK」


鹿野がふーっとため息を漏らす。

とりあえず何の情報もない以上、現段階では鹿野を頼るしかなさそうだ。


「あの虐めにあっているのは『島咲碧』に間違いないか?」

「…………そうだよ」


数秒の沈黙の後、鹿野が肯定する。

なんだ?

今、沈黙の間にチリッとした何かが彼から向けられていた気がする。


「そうか。彼女が……」


朧気になりつつある島咲碧の子供時代のエピソードを思い出そうと脳を回転させる。

どこだ?

明智秀頼の死亡フラグをへし折れる情報はないのか照らし合わせる。

鹿野と一緒に、こそこそしながら虐めの現場の会話を入れようと耳を澄ませる。





『お前のよぉ、ギフト気持ち悪いんだよなぁ。なんつーか、不快でイライラすんだよ』

『……ごめんなさい』

『授業中も騒ぎだしてうっせぇしよぉ』

『…………』

『2度とギフトなんか発動させねぇようにあのミドリとかいうクソガキぼこぼこに殴り殺してやるか?』

『や、やめて……。ミドリには手を出さないでください…………』





不愉快極まりない会話が繰り広げられている。

『だったらあのクソガキを黙らせろ!』と机をバンバン叩きながら脅しているのであった。


見るに絶えないが、おおよその時系列が把握した。




…………そっか。

島咲碧が救出されるのはタケルに攻略されない限りないというわけか。

既に、手遅れだったわけだ……。


彼女の秀頼(おれ)死亡エンド回避をするなら1番の案が不可能になってしまったらしい。

これの阻止が1番確実だったが、厳しいのもまた事実だった。

島咲碧でこの様なら、ファイナルシーズンのヒロインである城川千秋の姉の死亡回避とか不可能だろうな……。


時間を巻き戻す術はない。

もっと早く、彼女の存在に気付いていれば何か変わったかもしれない。


はは……、俺の死亡エンドも変わらないのかもな……。

絵美にギフトを使って奴隷にしなかったり、タケルと理沙の間に何も干渉をしない程度ではゲームの流れからしたらただの誤差なんだろう。

時間が重い。


難しいな……。

難しい。




──でも、それはそれとして不快である。




「うわぁ……。本当にあいつ嫌な奴だな……」


鹿野がぼそっと呟く。

多分彼はあの男が嫌いで、島咲碧が好きなんじゃないかと思う。

多分だけど……。


「鹿野は戦わないのか」

「え?」

「嫌な光景を見て見ぬ振りして、そんな生き方で良いのか?」

「…………」

「別に責めてないし、怖いのもわかるよ。俺も弱いからさ。でも、そうやって後悔して時間が過ぎることの方が怖くないか」


ずっとずっと来栖さんが気になって好きになったのに……。

話せるようになった頃には俺の人生は終わっていた。

時間は残酷で、重くて、理不尽だよ。


「俺行くよ」

「あ、明智秀頼……」


報復されるより、このまま虐めを見捨てて、一生引きずることの方がずっと怖い。

なら彼女を助けて、報復されないようにすれば良いだけだ。






「わ、私は……。何も悪くないのに……」

「俺様の耳にうざってぇガキの声を響かせることが悪いんだよ」

「うざってぇガキってお前じゃん」

「は?」


竹本とかいう奴が乱入してきた俺に怒り、憎しみを込めた表情で睨み付けてくる。

あぁ、本当に部長そっくりで不快だ。

気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い。


「なんだよお前!?てか誰だよお前!?」

「悪役だよ」

「いきなり出てきてしゃしゃってんじゃねぇよっ!」


男の俺に容赦なく右拳を振るってくるが、それを左手でキャッチする。

なんだよ、この程度でイキってんのかよ。

拳を掴む手にジリジリと力を加えていく。

「あ、ががががが……」とダメージを受けながら彼の手を開いていく。


「あんまりこういうのはしたくないんだけど……」


報復で絵美や理沙や円とかタケルに手を出されても嫌だから、俺という存在に恐怖するように彼を脅していく。


「良いか?次に俺の前で誰かを虐めたり、乱暴をしてみろ。お前のこの拳を2度と握れなくしてやる。利き腕の右手で鉛筆1つ持つことも出来ないくらいにな」

「ひ、ひぃぃぃ!?ごめっ、ごめんなさい!」

「鹿野!」

「な、なんだよ」


俺のやることを黙って見ていた鹿野を呼びつける。

竹本か、俺にびびってんのかわからないけどさっきよりたどたどしい声である。


「同じクラスなんだろ?こいつがなんか悪さをする度に俺に言え。俺が必ずこいつの被害者を助けに行く」

「は、はぁ!?な、なんだよその役目!?」

「大丈夫だよ、ちょっと悪ガキをこらしめただけだよ。もう2度と誰も虐めたくなる程度には脅しておいたから」


竹本は半べそをかいて、鹿野にすらびびっていた。

俺と鹿野が並んで立っていることで、鹿野も自分を脅した一味と認識していることだろう。


小学生相手にやり過ぎたかな?とも思うけど、これを機にまっとうな人間になってもらいたい。


ギフトまで使う最悪の事態にはならずに済んで一安心である。




「あ、あの……!ありがとうございます!」

「…………」


島咲碧にペコッと頭を下げられるも、ここで彼女と知り合いになると何か不都合が起こるかもしれない。

ゲームでは確かに秀頼に盲信的な人物として島咲碧が描かれていたが、きっかけはここではないはずだ。

明智秀頼の描写が無いからよくわからないが、ファーストシーズンくらいで知り合うことになるんだと思う。

ここはあえて知り合いにはならない方が良いだろうと判断する。

次に出会うことになるのは宮村永遠だ。

時系列をごちゃごちゃにするもんじゃないよな。


こちらも頭を下げたお辞儀と、『ガンバ!』って意味を込めて親指を上げて彼女に向ける。


これで『明智秀頼』とはすれ違っただけの男と認識するだろう。

それに、鹿野が島咲碧を気になっているのだから慰める王子役は彼がするべきだ。

悪役親友はこのまま退場である。


手を上げて知り合った鹿野にも別れの合図を送り、教室に戻ることにする。


島咲碧の不幸は止められなかったが、虐めだけは止められた。

50点ぐらいの出来ではないだろうか。




これにて、島咲碧とはセカンドシーズンの舞台に追い付くまでおさらばである。

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