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19、仮面の騎士

あの日はあれから大変だった……。

勘違い野郎の叔父が気を効かせて『買い忘れたものあったなー』とかわざとらしく言いながらまた外に出て行った。

その隙になんとか全員を絵美の家に送り、制服に着替えたみんなを見送った。


おばさんじゃなくて、叔父さんに見られて良かったのかもしれない。

あの男は、俺のことについて一切興味がない奴だから後を引きずることもない。


帰ってきた叔父が『なんだ帰っちまったのか。無駄になったな』と残念そうに呟き、『何がだよ?』と追及すると──スッと長方形の箱を叔父から手渡された。

そこにあるキャッチコピーに目がいく。




驚異の0.01mmサイズ!







『2年になった進級祝いだ』とか言いながら、買ってきたコンビニ弁当とビール缶をウキウキしながら開けていた。


これをどうすりゃ良いんだよ?、と思いながら長方形の箱を封印したのであった。









「はぁ……。とりあえず学校復帰か」


熱も下がり、ようやく本調子が戻ってきた。

教室で授業の準備をしていると珍しい人に声をかけられる。




「おっはー、秀頼!」

「お、おはよう……、アリア」


ファイナルシーズンのヨルに並ぶメインヒロインのアリアがにこやかに声をかけてくる。

その美しい金髪と、人懐っこい笑顔は今や男子連中の癒しとして語られている。

いつの間にか、『秀頼』と名前で呼ばれていた。

そして、ぶすっとして黙っている仮面の騎士も相変わらずアリアの側に控えている。


「仮面の騎士さんもおはよう」

「…………」


案の定、シカトしやがった。

俺なんか視界に入らないのか、アリア以外はゴミクズレベルと断じて格下と見ていて会話をしないのか……。

その他一切のことはまったくわからない。


「気を悪くしないでね。ウチの騎士はあたし以外見下していて口を利かないの……」

「そ、そう……」


『あたし以外見下していて口を利かないの……』というパワーワードが面白過ぎて、笑いそうになる。


仮面の騎士からは、アリアと似たような色をした金髪を伸ばしている。

果たして誰が入っているのか、気にならないといえば嘘になる。

ヨルの未来であるアリアの大事な人になったタケルであれば、その仮面の内側を見ていたかもしれないが……。


「ね?仮面の騎士?」

「アリア様の騎士故、私情は入りません。私には感情なんてものはありませんから……」

「でもよくアリア見ながらほっこりしてるよね?感情あるよね?」

「…………」


アリアを自分の妹とか、娘とか、親友とか、そんな感じに温かく見守っている気がする。


「アリアが道を通りたい時に道塞ぐ男子とかいたら余裕で舌打ちとかしてますよね?」

「…………」

「ん?」


ゴニョゴニョと仮面の騎士がアリアに耳打ちしている。

目の前に俺がいるんだから直接言えば良いのに。


「『してない』って言ってるわ」

「何、その無駄な通訳!?時間がかかる割りに大したこと言ってないし!」

「ん?」


ゴニョゴニョとまた耳打ちを始める仮面の騎士。

目の前の耳打ちは、正直見ていて不愉快ではある。


「『黙れゴミクズ』って言ってるわ」

「口悪いなこの騎士!?」

「ふんふん。『黙れゴミクズ』って言ってるわ」

「あの……、俺は騎士さんになんかしたでしょうか?」

「ふんふん。『怖い顔をアリア様にぶつけるな。クラスが同じなだけで不愉快』って言ってるわ」

「なんでそんなに嫌われてるの俺……」


ニコニコしながらキッツい言葉を翻訳するアリアにもS味がする……。


「大丈夫よ!あたしは秀頼の周りのみんなを盛り上げて引っ張っていくリーダーシップのあるところが好きよ」

「え、えぇ!?」

「うふふふふ」


アリアが優しく微笑む。

彼女の立場などをある程度把握している俺であるが、なんかドキドキしてしまうな……。


「チッ……」

「あれ?この仮面、舌打ちした?感情あったよね今!?聞こえたよね、アリア!?」

「そうなの?舌打ちしたの?」

「…………」


またゴニョゴニョと耳打ちをしている。

もう良いっての、その流れ!


「舌打ちしたって」

「したんかい」

「悪いか小僧?」

「普通に喋ってるじゃん……」


はじめて仮面の騎士とプライベートな会話が成立した。

ただ、その内容はあんまりなものなのであった……。


会話が終わったアリアと仮面の騎士はそのまま自分の席に戻っていく。

俺はカバンを後ろの棚に入れるために立ち上がった時だった。


「よぉ、秀頼」

「タケルちゃんじゃないか!」

「ナチュラルにちゃんを付けるな」


こないだは下着まで女ものを履いたらしいメイド男は、今回は当然制服である。

別にだからタケルちゃんと呼んだわけでなく、単に中の人がよくタケルちゃんと呼ぶから移っただけである。


「それでどうした?」

「さっき、アリアさんと仮面さんと絡んでいたな」

「あぁ。それが?」

「なんとなくだけど、癖者なイメージがある」

「まぁ、そりゃあね。常に仮面被ってるし」

「いや、そっちではなくアリアさんの方がな……。なんとなくだが猫被ってる気がする」

「へぇ……」


中々タケルも鼻が利くようである。

確かにどっちも癖者である。


「了解、注意しておくよ」

「お前は変にお人好しだからな。気を付けろよ」


それにしてもヒロインに対するタケルの評価があんまりに辛辣過ぎる気がする。

原作のタケルはもっとアリアにデレデレな気がしてたけど……。


別にどう頑張っても今年はアリア攻略はないんだから心配ないだろう。

気楽に考えながら、俺は日常に溶け込んだ。

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