17、深森美鈴は貸す
「さぁ、秀頼様!美鈴に甘えてくださいまし!」
「あ、甘えるなんて……」
「明智君はもうちょっと柔らかい感じだと私たちも嬉しいよ」
「う、うん……」
美鈴と理沙という珍しい組み合わせの2人から甘えた感じに声がかかる。
もちろん、居間に残ったのは看病側である。
「お師匠様のシートはとりあえずぬるそうだから外させていただきます」
「お、お師匠様とか……。な、何言ってんだよゆりか」
「お?お師匠様が照れていらっしゃる!照れていらっしゃる!この忍のゆりかを存分に愛でてくだされ」
「…………っ!?」
いや、マジでなんだこの状況!?
メイドたちがいつもより積極的過ぎる。
「た、タケルぅぅぅぅぅ!ヘルプミィィィィ!」
「あ、今ちょうどクソゲーの生配信見てるから後でな」
「裏切り者ぉぉぉぉ!」
耳にワイヤレスイヤホンを付けながら、スマホの画面に釘付けになっていたタケルちゃん。
彼は根っからのクソゲー大好き高校生である。
「兄さんではなく、私に助けを求めてくださいね明智君!あ、明智様にしとく?」
「あ、明智君で……」
「了解!明智様!」
「………………」
理沙がサディスティックに微笑んだ。
なんとなく、さっきの小悪魔スターチャイルドの真似も入っていると思われる。
…………なんで俺の周りって、俺に対してサディストしか居ないんだろうか?
(良かったじゃねぇか、マゾ豚!ひぃー、お腹いてぇぇ!)
中の人が理沙からもからかわれたことで大爆笑していた。
そういや、こいつもサディストだっけな。
「秀頼!借りたタオルを濡らしたから額に置いとけ」
「あ、あぁ」
洗面所にいた咲夜が戻ってきて、濡れタオルを額に乗っける。
とりあえず看病側になったのは美鈴、ゆりか、理沙、咲夜の4人であった。
料理側の比率が高すぎる気がするが、全員で料理した方が早く終わるからという判断らしい。
「どうだ?気持ち良いか?」
「あぁ。熱冷ましシートよりも直に冷たいって感じして良いな。ありがとう」
「毎日これくらい素直だと良いのにな」
「うるせぇよ」
咲夜からも弄られて、だいぶ諦めも付く。
まったく、みんな可愛い過ぎるだろ……。
この彼女たちはみんな俺が好き過ぎる……。
でも、何より……。
俺もみんなが大好き過ぎる!
「というか、そのメイド服どこで準備したんだ?」
「あぁ。マスターの常連客の達裄に頼んだ」
「は?」
え?
メイド服の為に達裄さん動かしたの?
「ほら?1人1人、地味にメイド服の配色とか、模様違うだろ?こういうのも全部、達裄が顔写真見ながら1人1人に合うようにチョイスしたらしい」
「…………」
「あいつ、なんか『メイドのプロ』の親友がいるからそいつに頼めばメイド服なんかすぐに揃えられるって…………秀頼?汗が凄いぞ」
「…………」
「達裄が一晩でやってくれました」
「ジェバンニじゃないんだからさ……」
え?
そんなん達裄さんに土下座案件に決まってんじゃん……。
また悠久に『達裄さんにふざけた依頼しやがって!』と変なヘイトを買うじゃん……。
しかし、確かにメイド服を調達出来そうな知人と言われたら達裄さんしか浮かばないのもまた事実である。
「因みに貸出料2000円を14着借りたから28000円だったって」
「…………」
尚更タケルのメイド服要らないじゃん……、じゃん……、じゃん……、じゃん……、じゃん……。
ショック過ぎて、心の声にエコーがかかるほどである。
「そ、そのお金は?」
「達裄。『秀頼になんか今度面白いことしてもらうからその前金でいいよ』ってマスターに言ったらしい」
「OH……」
俺の知らないところで借金が増えたのである。
「そのお金!美鈴が建て替えますよ秀頼様!」
「い、いいよ!自分で返すよ!」
「別にそれくらい良いのに……」
「そんな紐みたいなこと頼めないよ……」
一生美鈴に頭が上がらなくなるよ……。
(秀頼様の童貞を28000円じゃ買えないか……、残念……)
美鈴は俺の力になれなかったのがよっぽど悔しいのか、正座している足にある手に握り拳を作っていた。
こればっかりは俺が達裄さんに感謝と恩返しをしなきゃならないんだ。
「では、秀頼様!美鈴の膝をお使いください」
「膝?え?どういうこと?」
メイド服越しにポンポンと美鈴が足を叩いている。
プロレス技をかけろってこと?
いや、でも女の子に手を出すのは違うじゃん。
ドギマギしていると、美鈴が口を開いた。
「だから、膝枕ですよ秀頼様」
「ひ、膝枕!?」
うそっ!?
膝枕って実現するの!?
膝枕ってあんなん都市伝説のフィクションだと思ってた!?
あ、でもそうか。
この世界はゲームの世界だった。
根本的な世界観を思い出した。
そっか、ギャルゲーの世界ならあって当然よな。
美鈴に誘われるがままにタオルを手に取り、美鈴の膝に頭を乗せる。
「タオルを失礼します」と美鈴が言うと、折り畳み、額にタオルを乗せる。
「さぁ、秀頼様。癒されてくださいね」
「っ!?」
美鈴が妖艶に微笑む。
くぅ……。
原作の美鈴は好きどころか嫌いくらいに興味がない存在だったのに、激しく心臓がドキドキしている。
美月に似ている目や髪も魅力的だし、美月とは似ていない言動や性格も魅力的だ。
いつも通りに髪上げていて、露出しているオデコを見ながら、美鈴を意識せずにはいられない。
女の子特有の甘い匂いに、これが癒されるということなのかと考えてしまう。
「む?美鈴ばっかりずるい」
「我も混ぜろ」
「そうです!独占、良くない!」
咲夜、ゆりか、理沙も現れて俺に近寄ってくる。
「こうやって上から見ると、お師匠様も可愛いな。我の弟を思い出すよ」
「1分交代だぞ、美鈴」
「は、早すぎませんか!?」
「あと10秒です」
「ちょっと!?そんなルール美鈴聞いてませんわ!?なんでもうそれしか時間がないんですか!?」
「それはお師匠様が美鈴の膝に乗った直後からカウントしているから…………っと、時間切れだ」
「ずるいですわぁぁぁ!」
「あと4分経ったらまたまわってきますから……ね?」
こうして咲夜、ゆりか、理沙の順番で膝枕が回される。
なんか面倒くせぇ!と思ったところに1つの視線を感じた。
「た、タケル?ど、どうした?」
「はぁ……。なんかずりぃなぁって」
「そんな拗ねないで兄さんったら」
「…………」
まぁ、確かに俺とタケルの立場が逆だったら『何見せられているんだ?』って不機嫌になると思う。
タケルの羨ましそうな視線も納得である。
「仕方ないですね、兄さんもしますか?」
「やるやる」
流石シスコンだ。
理沙から膝枕をしてもらいたいらしい。
そして、仲間外れのようにスマホでユーチューブを見ていたタケルが俺たちの近くにやってきた。
「はい、兄さん」と促されて、正座をしているメイドタケル。
…………?
「ほら、秀頼?」
「…………ん?」
気付けば、タケルから膝枕をされるという謎の展開に巻き込まれていたのであった。
あれ?
俺と変わりたいわけじゃなくて、理沙と変わりたかったの?
「おー!寝ている秀頼可愛いなー!」
「メイド服着ているお前には負けるよ」
「このこのー!」
「いや、このこのー!じゃなくてさ……」
タケルの膝に頭を乗せながら、やっぱり夢なんじゃないかって気がしてきた……。