14、一ノ瀬楓は誘う
「でも、明智君スタヴァとか行く系男子なんだね」
「スタヴァ行く系男子ですよ。喫茶店は大体スタヴァかサンクチュアリの二択が多いかな」
「サンクチュアリ?なんか聞いたことかるかも」
「咲夜の実家で、ヨルがバイトしている店です」
「あー、噂の」
「ヨルちゃん働いているとか、絶対面白いじゃん」と笑顔を浮かべる楓さん。
あの時の、廃墟探索で死ぬ運命にあった人とは到底思えないくらいに元気な人である。
「楓さんはスタヴァで何してたんですか?」
「ちょっと友達とねー」
「そうですか」
楓さんは今1人でスタヴァから出てきたのを確認している。
ノアさんや、小鳥さんと一緒にスタヴァに来たなら一緒に出るものではないだろうか?
つまり、楓さんは1人ぼっちでスタヴァに居たんじゃ?という疑問が沸く。
いや、あえて触れまい。
こちらからデートの誘いをして、話を忘れさせよう。
「今度、どっか遊びに行きませんか?」
「あらぁ、積極的だねー」
「なんなら肝だめしでも」
「2度と行かないよ」
あれはあれでトラウマになっているらしい。
幽霊になら殺されても良いみたいなことを言っていたのに……。
「一緒にスタヴァでも行こうか。ゆっくり近場でデートしよっ!」
「うん!行きましょう、スタヴァ!」
今、目の前にスタヴァがあるんだけどね。
「秀頼君の家とかも良いなぁ」
「えっ!?家!?」
「それとも私の家に来る?」
「…………、行きたい」
「期待してるねぇ。なら、やる?」
「やるっっっ!?やるってなんすか!?」
「あははっ、可愛いなぁ明智君」
「…………」
やることを女性側から誘われる経験が、今まで皆無だったので身体全体が熱くなる。
やれるもんなら、そりゃあやってみたい。
「じゃあ、これから用事あるからまたねっ!」
「はーい、また会いましょう」
つ、ついに童貞の卒業式を迎えることが出来そうだ。
入学式が行われたその日に、卒業式のことを考えることになるとは。
大人の階段を猛ダッシュで登ってる感覚である。
楓さんが友達と会ってたと言い張る1人で出てきたスタヴァに踏み入れる。
ざっと見回した感じ、あんまり客は居ないし、楓さんの友達らしき姿はない。
「ボッチと思われたくなくて意地張ってたのかな?可愛いなぁ楓さん」
彼女の強がりが子供っぽくてほんわかする。
別にボッチだろうが、俺は何も気にしないのに。
ニコニコと楓さんのことを考えながら、レジ前に立っていたスタヴァの姉ちゃんに近付いていく。
「あっ!秀頼さんだ!こんにちは」
「こんにちは、スタヴァの姉ちゃん」
「今日はなんかご機嫌ですね」
「い、いやぁ。別に機嫌が良いわけでは……。わかります?」
「わかりますよぉ!秀頼さんのことは、大体わかります!」
「素敵だね、スタヴァの姉ちゃん」
「そ、そんな素敵だなんて!ひ、秀頼さんの方が素敵ですよ!」
「あ、ありがと」
スタヴァの姉ちゃんは天然記念物な生娘って感じがする。
幸せになって欲しい。
「スタヴァの姉ちゃんもなんか楽しそうじゃない?」
「そうですか?ついさっきまで友達と喋ってたくらいですけど」
「そういうんじゃないんだよなぁ」
スタヴァの姉ちゃんの友達とかきっと美人なんだろうなー……。
絶対美人グループに入っている顔である。
「もっと心の底から嬉しい何かあったでしょ?」
「あ、わかります?これ、みんなに秘密なんですけど」
「うん」
「実は時給を20円アップしてもらえたんです!」
「めっちゃ良いじゃん!おめでとう、スタヴァの姉ちゃん!」
「わぁ!秀頼さんが自分のことのように祝福してくれて嬉しいです!」
「スタヴァの姉ちゃんがレジにいると130円くらい無駄遣いしちゃうんだよね」
「もう、秀頼さんは上手いなぁ!もう!」
「あはは」
6時間のシフトで120円アップか。
流石、スタヴァの姉ちゃんである。
スタヴァの姉ちゃんに彼氏が居なかったらマジで付き合いたい。
(多分めっちゃ良い子だぞ。彼氏さえ居なければな)
中の人も概ね同感らしい。
「今日はどうしますか?」
「キャラメルフラペチーノとイチゴのケーキをお持ち帰りで」
「かしこまり…………お持ち帰り!?え?もう帰るんですか!?」
「今日、俺の師匠にお礼をするための差し入れに今から行くからあんまり時間ないんだよね……」
「残念です……」
「次はゆっくりコーヒーを楽しむよ」
スタヴァの姉ちゃんやスタヴァの姉ちゃんじゃない姉ちゃんとかと談笑したいし。
「その師匠って男の人ですか?」
「うん、バリバリの男。俺の憧れの人!」
「目キラキラさせてる……。もしかして秀頼さんってそっちの気があるのかな?いや、まさかまさか」
「ん?どうかしました?」
「いえ、何も。はい、こちらご注文の品です」
「ありがとう」
代金を支払いスタヴァを出る。
フラペチーノがぬるくなる前に達裄さんの家の方向へ早歩きをしながら向かうのであった。