11、深森美鈴は握られる
「あら、大人気ですわね秀頼さん」
「あははは……」
「みんな賑やかで羨ましい」
クスクスとアリアが微笑む。
立っているだけで、芸術作品のような神秘的なものに思えてくる。
「…………」
その横を無言でいる仮面の騎士さえいなければ、男子に大人気だったはずだ。
席にいる時以外はずっとアリアの側にいて、お近づきになりたそうにしていた野郎共はみんな遠慮していた。
特にまた同じクラスになった白田は「アリア嬢と近付いてラブラブチュチュしたいでござる」とぼやいていたが、多分聞かれていたら仮面の騎士に殺害されているはずなので焦った。
とりあえず慌てて、沢村ヤマの水着DVDを貸してあげて、「これで新しい恋を探せ」とアドバイスするとホクホク顔で帰宅した白田であった。
アリア様に近付けない悲しみを沢村ヤマは癒して、明日には沢村ヤマのファンになっている白田の想像が難しくない。
マジで沢村ヤマアンチは理沙とおばさん以外見たことないからな。
男に沢村ヤマの画像を見せようものなら、水戸黄門の紋所のようにひれ伏すからな。
「もしかして、新しい彼女か?」
「む?誰ですの?また秀頼様の女ですか?」
「違うから!双子揃って同じこと言わないで!」
「同じクラスになったアリア……何さんだっけ?」
「アリア・ファン・レーストさんだよ」
絵美もまだ正式な名前を覚えてなかったみたいだが、ヨルは自信満々にアリアの名前を呼べた。
そりゃあ、タケルに近い位置にいたお前なら呼べるよな。
「あら?あなた、ヨルさんですよね?」
「は、はい」
「…………似てる」
「あっ!はは、父親の形見なんすよ!」
ヨルが慌てたように銀のペンダントを手で隠す。
あまりにも露骨に隠すので、アリアも仮面の騎士も一瞬固まるのであった。
「そう。……あ、そうだ。あなたたちの名前も教えてよ」
アリアが、気になっているヨルを1回忘れようとしているのか、ゆりかや美鈴に向かってそんな提案を投げ掛ける。
「我は」と、ゆりかが口を開いた時だ。
「お嬢様、時間です。帰宅しましょう」
「えぇー?わたし、まだ友達1人も作ってないんですけどぉ!?」
「友達とは作るものではなく、自然になっているものです。時間を掛けなければ友達になれませんよ」
「なんかそれっぽいこと言って誤魔化してない!?」
「…………誤魔化してる」
誤魔化してるんかい。
コホンと仮面の騎士が恥ずかしそうに息を飲む。
たまに素になる仮面の騎士はやはり原作そのままである。
「まぁ、良いわ。明日以降、名前を呼び合いましょう!」
「は、はい。よろしくお願いいたしますわ」
美鈴の手を握りながら、アリアが天使のような笑顔を浮かべる。
あああああ、2人共可愛いよぉぉぉ!
『あああああ、2人共可愛いよぉぉぉ!』
完全に忘れていた影から覗いている転生者の素の声が聞こえてきた。
なんだ、あいつ。
俺と気が合いそう。
変な仲間意識が浮かんだのであった。
「では、またねー」
アリアが俺たちに手を振って消えていく。
アリアが消えると、転生者が『よし、今日の目的完了。帰還する』と回れ右をして廊下を去っていく。
「ノアに見えたヒロインオーラと同じ物が見えて凄かった……」
咲夜の当たっている感想が虚しく廊下へ響いたのであった。