3、谷川咲夜は戻りたい
電車に乗る時には、いつものメンバーが全員揃っていた。
今日の入学式後の明日からは星子と和も加わると思うと、なんだかドキドキするな。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「というか、なんでこの人たちはお通夜みたいな顔してるんですか?」
永遠ちゃんが全員がシリアス顔で無言になっているみんなを見ながら、遠慮がちに尋ねてしまう。
「あっ、ダメ」と止めようとした時には、理沙が口を開いてしまう。
「今日クラス替えです。もしかしたら明智君と違う可能性有りです」
「えぇっ!?そ、そうだった!……この1年が楽しくて忘れてました……」
しょぼーんと永遠ちゃんも暗い影を落とす。
33-4でコールド負けしたみたいな負け組オーラが目に見える気がする。
毎日通学一緒だし、部活も一緒だし、そこまで気にするもんなのかな?と、毎年同じことをこの時期になると考えさせられる。
俺がみんなと違うクラスになっても、大好きな気持ちは一切変わるはずもないのに。
絵美大好き!
理沙大好き!
円大好き!
咲夜大好き!
永遠ちゃん大好き!
本当に変わらない。
この場にいない彼女らに関しても同じだ。
星子大好き!
和大好き!
ゆりか大好き!
ヨル大好き!
三島大好き!
美月大好き!
美鈴大好き!
楓さん大好き!
うん。
なんなら、タケルも大好きだし、山本も大好きだし、スタヴァの姉ちゃんも大好きだし、達裄さんも大好きだし、ノアさんも大好きだし、小鳥さんも大好きだし、サーヤも大好きだし、千姫も大好きだし、セナちゃんも大好きだし、鹿野も大好きだし、マスターも大好きだし、概念さんも大好きだ。
(そういうの口に出せばこの雰囲気ぶっ壊れるんじゃない?)
いや、恥ずかしくて無理だって。
照れちゃうよ……。
みんなに大好きって言われてはしゃがれて電車で注目されるのも嫌だし……。
人の目が気にならないようにデートの時にしようぜ!
そういうのは!
(きっしょいから俺様に向けてノロケんなよ。彼女寝取るぞ)
お前には負ける気せーへん。
(あっそ……。うぜぇから独自やめろ)
中の人からうざがられながら、どこかへ引っ込んでしまった。
なんなら俺は、お前のそういうところ可愛くて大好きだぞ。
(くたばれ)
口が悪い子供だなぁと中の人に伝わからないように考える。
1度明智秀頼が表面に出てから、会話する頻度が増えてしまった……。
面倒な弟が出来たような感覚である。
妹の星子から見たら、兄になるのか弟になるのか、暇になったら考えておこうと思う。
星子が姉、俺の中の人が弟扱いしたら拗ねるんだろうなぁと思うとちょっとほっこりする。
「はぁ……、ウチは1年前に戻りたい……」
「ネガティブなこと言うなよ……」
咲夜に突っ込みを入れていると、電車が学校近くの最寄り駅に着いたようだ。
そのまま全員で電車を降りて、学校まで向かう。
そういえば、なんか原作イベントがあった気がするなぁ……。
セカンドシーズンの初登校日が原作でもガッツリ描写されていた。
ファーストシーズン以降がうろ覚えだから、確信が持てない。
…………思い出せない。
こういう時は同族の円という相談相手がいるので、みんなから離れてこそこそしながら彼女と耳打ちぐらいの小声で意志疎通をはかる。
「なぁ、円」
「どったの?」
「確かセカンドシーズンのプロローグってなんかイベントあったよな?中身なんだっけ?」
「そんなのあったっけ?全然わかんない」
「わかんないか……?」
「わかんない」
こうして、完璧に意志疎通が出来たわけだが、収穫はゼロだった。
タケルの成り行きに任せるスタンスにしようとしているわけだが、何かが起きそうなのに中身がわからないのはモヤモヤする。
顎に手を置きながら、探るように周囲を観察する。
ん?
なんか来たな、と気配を察知する。
セカンドシーズンのイベント来たか!?
「ひっでよりさまぁぁぁ!おはようございまぁす!」
「お、おはよ」
ぐいっと美鈴の体重が身体に乗っかった。
うわぁ、柔らか胸だと、慣れない感触が左腕にあるのでドキドキする。
女の子特有の匂いが、美鈴を意識してしまう。
「またお前は朝から!羨ましいぞ!」
「羨ましいならお姉様も美鈴みたいに振る舞ったら?」
「くっ……」
横から現れた美月が悔しそうに下を向く。
彼女は美鈴みたいな行動はプライドが高いだろうし、難しいだろう。
「なら、失礼する」
「え?」
「うん。落ち着く」
美月が顔を赤くしながら、恐る恐る俺の右腕を取る。
美鈴みたいに胸は押し付けないが、これが彼女なりの妥協らしい。
「皆さん、おはようございます!」
「おは」
「なんか、全員揃ってんの久し振りだな」
三島、ゆりか、ヨルと次々に全員が集まってくる。
大学生以外の楓さん以外、彼女大集合な新学期の始まりになった。
イベントなんだっけなぁ?
両腕に深森姉妹に抱き付かれ、背中にゆりかがくっ付きながら、今日起きるイベントを思い出す。
本当に朝だった記憶あるから、もうちょっとで原作イベントが始まるんだけど……。
いつの間にか左腕に絵美、右腕に理沙、背中にヨルが追加されていて、動きにくいなと彼女らの身長に合わせて少し屈んだ時であった。
「久し振りだな、我が相棒・明智よ」
「あっ、鹿野」
「誰?」
「誰?」
「誰ですか?」
「秀頼様と元同じ学校とかの人?」
「いや、知りませんよ」
「あいつ誰だよ」
タケル含め、全員が鹿野を知らないらしい。
とりあえず鹿野が俺に用事があるらしく、出待ちしていたように立っていた。
「残念だが、俺とお前はまた違うクラスみたいだな」
「残念だな。また来年があるさ」
「そうだな。いつか、明智と同じクラスになるまで」
「シーユーアゲイン」
そのまま鹿野はスタスタと学校目掛けて歩いていった。
原作まったく関係ない報告であった。
「すげぇなあいつ。秀頼が女に抱き付かれてることに関してノータッチだぜ」
タケルが呑気な感想を述べている。
そろそろタケルに関するイベントが発生するのに、大丈夫なのだろうか……?
忘れかけていた本気の不安が蘇ってくるのであった……。