3、明智秀頼は堪える
「えへへへへ。秀頼君の隣で嬉しいよ」
「う、うん。俺も嬉しいよ」
恥ずかしがらずに絵美はストレートに好意をぶつけてくれる。
そんな笑顔が眩しくて、こっちも愛おしくなる。
「お、お、俺の……」
「うん?」
「どういうところが好き?……、なのかなって……」
絵美に関して、いつも格好悪いところばかりを見られているはずだ。
ギャルゲーに熱中している姿、シスコンな姿……。
少なくとも、自分でも格好良いとは思えないことばかりだ。
「秀頼君の前だと、わたしは素でいられるしね。君と一緒にいるだけでわたしは楽しいんだよ。頑張っている姿とか……、憧れるよ」
「あ、ありがとう……。俺も、絵美が近くにいるだけで楽しいし……、ドキドキする」
「え!?ドキドキする!?」
「う、うん……。子供の時は、あんまり自覚なかったけど。……絵美と離れると寂しいとか思う」
「ひ、秀頼君……」
近くの席に座っている子には聞こえないくらいにこそこそと喋っているが、これで正解だったかもしれない。
これ、普通の声の高さなら恥ずかしさが勝って口に出来ないと思う。
糖分が高すぎる。
絵美の手が伸びてくる。
そっと俺はその手を握る。
彼女の冷たい体温のはずが、俺の手の体温は上がっている気がしてくる。
「ずっと……。わたしはこうやって、君の手を握りたかったよ」
「っっっ…………」
「口元、ひくひくってしてる。珍しい表情ゲットだね」
「ぅぅ……」
握られた右手とは反対の左手で胸を触ってくる。
彼女には敵わない。
ドキドキが止まらない。
胸を触られている左手で、緊張がバレないかと考えてしまう。
「本当……、絵美といると色んな感情になるよ」
「わたしも同じだよ」
「え?」
「わたしも、秀頼君といるとドキドキしたり、ワクワクしたり……。同じだね」
「絵美…………、絵美ぃ!」
「うわわ!?」
嬉しさが爆発して、好きな気持ちを何かで表現したい。
そんな気持ちが溢れて、考えられる限り、1番オーバーにならない表現を示す。
「えへ。えへへ……。ありがとう、秀頼君」
「うん」
絵美の頭をそっと撫でた。
抱き締めたり、唇を奪ったり、はじめてを奪ったりと色々と欲が出てしまうのをぐっと堪えた。
5歳の頃はあんなに小さかった絵美が今は大きく…………なっている気はしないが、それでも恋愛対象に見ることが出来るくらいに精神年齢は上がっていたらしい。
娘くらいに思っていたゲームのキャラクターに対し、こんな感情が芽生える自分。
当時の俺なら信じられないと思う。
あぁ!
好き!大好き!
邪な気持ちや感情が囁いてくるが、絵美だけが彼女なわけではない。
ぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっとぐっと気持ちを堪える。
(やっちまえよ。無理矢理すべて奪っちまえよ)
というか本物の悪魔が囁いていた。
ムカついて、サディストの声のボリュームをゼロにしておく。
最近、彼の扱いに慣れてきた。
多分、寂しがりで構ってちゃんなサディストなんだと彼を理解してきた。
「もっと、秀頼君を身近に感じたい……。ずっと頭撫でてて」
「うん……」
それから、約3時間。
雑談しながら、それでも絵美を離さなかった……。
「うわっ!?頭撫で撫でしてる!?」
「…………」
「…………」
新幹線が止まったのも気付かぬまま、頭を撫でていたら降りようとしていた円に気付かれ、みんなにバレてしまうのであった……。