1、浅井千姫は気付かない
「なぁ、マスター」
「どうしたタケル君?」
喫茶店『サンクチュアリ』を追い出された店長のマスターと、理沙の兄のタケル。
現在はこの2人で、ラーメン屋を出てファミレスのドリンクバーで時間潰しをしていた。
あらかた近況報告みたいなものも終えて、完全に2人で雑談タイムになっていた。
「秀頼って、誰とくっ付くっすかね……?」
「どうだろうねー……。あの中以外って選択肢もあるからなー」
「確かに、それはある」
うんうんと2人して頷いた。
いつも予想外な人生を送るあの男の予想などするだけ無駄なのだ。
それを2人は幼い時から知っている。
「まぁ、秀頼君もだけど君もだよ」
「俺?」
「君もそろそろ彼女とか見付けないとダメだぜ」
「そうなんすよねー」
タケルが参ったとばかりに後ろ髪をかく。
周りに女はいても、全然自分に矢印が向かないわりと悲惨な状態のギャルゲー主人公である。
「でも、秀頼君なら彼女らを不幸にするような子じゃないのは知ってるからね。みんなを幸せにするんじゃないかな」
多分、時は近いのを2人は察していた。
─────
美鈴の告白する発言に、周りは目をぱちくりとさせる。
それくらい、彼女らには衝撃的なものだった。
「み、美鈴さん……。ほ、本気ですか……?」
遥香が美鈴に探りを入れるが、それをはねのけるのが、美鈴という人間だった。
「当然ですわ。それにこないだの決闘後の絵美の従姉さん。あれは絶対に秀頼様を狙ってます!」
「本当に詠美ちゃんが秀頼君と知り合いなんて知らなかったよ……」
絵美が遠い目になる。
生きてきた15年で1番衝撃的だったかもしれないと絵美は突然現れた詠美に恐怖した。
「そもそもなんで詠美が秀頼と接点あるんだ?」
「わたしの住んでいる秀頼君の隣の家、元々詠美ちゃん家族が暮らしていたんですよ……」
「は?」
「引っ越して空きになる家をお父さんが譲ってもらったみたいな感じ。秀頼君からも詠美ちゃんからもそういう話がなかったから油断したぁ……」
「1番長くいたってアドバンテージを取られちゃったな絵美!」
「嬉しそうな咲夜にイラッとしますね」
「でも、私はお兄ちゃんの妹だから付き合いは1番長いよ!」
「数年前まで妹いるって知らないみたいだったけど……」
「マウント取って粗探しする不毛な真似やめません?」
マウントすら取れない永遠が、みんなを止める。
確かに不毛な争いが始まっていたと反省する。
(私は前世からの知り合いですから!きゃあ!豊臣君!好きぃぃぃ!)
「なんか円が幸せそうな顔していてイラッとする」
「あぁん?」
円と咲夜の犬猿コンビのにらめっこが始まり、ゆりかが仲裁する。
仲が良いのか悪いのかわからない連携プレーにヨルと和がため息を付く。
「ぅぅ……。でもまさか同じクラスの詠美さんが秀頼さんをひぃ君ってアダナで呼んでいたなんて……」
「私はエイエンちゃんってアダナで秀頼さんに呼ばれています!」
「『マウント取って粗探しする不毛な真似やめません?』って言った口はどの口なんだ?」
ゆりかが鋭く永遠に突っ込む。
ようやくマウントの取れる話題がきて、ちょっと嬉しくなる永遠であった。
「まぁ、あたしも可愛くヨリ君って呼んでるけどね!」
「そして遅れて来たこの人は誰なんですか?」
「常に可愛く!可愛いさの殿堂の浅井千姫だよっ!」
「驚安の殿堂のチェーン店みたいな奴来た……」
「あたし、ドンキ好き!」
「せっかく伏せたのに……」
西軍メンバーで1人遅くやって来て、美鈴の宣言辺りから乱入してきた浅井千姫はヨルのラインにより暇だったので召喚されたのだった。
さっそく和にオモチャにされるが、本人は飄々と交わしていた。
「アサイ、チヒロ…………」
「どうしたのせーちゃん?」
「な、なんでもないよ」
星子がなんか引っ掛かったように彼女の名前を口にする。
母と同じ名前であり、自分の育ての母の生き別れになった妹の姓も同じもので同姓同名な偶然に驚いた。
漢字は全然違うのだが、喉の奥に魚の骨が引っ掛かったような気持ち悪さが残る。
「あたしはヨリ君とかどうでも良いから可愛い審判と思って良いよ!」
「可愛いというか、ウザイ」
「あぁん?円の妹だからって調子乗ってんじゃねぇぞメスガキ枠がっ!」
「ガラ悪っ!?可愛いさの欠片もないよこの人!?」
ボケ役の和すら突っ込みにまわる程度には千姫のキャラは濃かった。
「と、ところでその……。お兄ちゃんとはどんな間柄ですか?」
「お兄ちゃん?あ、もしかしてヨリ君の妹!?」
「は、はい!そうです!」
というか、スタチャファンの可愛いの人と認識している奇行が目立つ人だと星子はすぐに気付いたのであった。
そんな可愛いの人が兄をヨリ君呼びをしていたら、気にならないわけがなかった。
「あー!やっぱりぃ!頼子だっけ?めっちゃそっくりじゃん!可愛いよぉ!可愛いよぉ!」
「は、はぁ……。なんなんですかこの人?」
「お前の兄貴をギフト使って女にした張本人だぞ」
「え?あれマジな話だったんですか?草とか言って流したけど?」
「せいこぉ……?お前、あの時あたしの話信じてなかったな!」
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさーい!」
ヨルが星子の顔をぐりぐりっと攻撃して、痺れさせていた。
天下のスターチャイルドにこんな攻撃をしていると知ったら、世界で1番のファンのシスコン野郎が飛んできそうな光景である。
「ところで決闘のギャラリーで2人行方不明になってるって話だが……。千姫、お前がぬいぐるみにしたギフト解いたのか?」
「え?嫌だなぁミッキー。一生解くわけないって宣言したじゃん。というかぬいぐるみどこ行ったけ?」
「確か美鈴と咲夜が天井に吹っ飛ばして取れなくなった」
「…………え?そうでしたっけ?咲夜さん?」
「…………う、ウチは知らん。ミッキーの記憶違いだろ」
「2人の行方不明ってやっぱりお前ら3人の仕業じゃないか!」
「じゃ、じゃあ今からギフト解くよ」
「明日の朝、落下した死体が2つ出てくるだけだよ!ちゃんとぬいぐるみを下に落としてからだ!」
美月の指摘に『はぁーい』とやる気ない3つの返事がハモるのであった。
(不安だなぁ)と絵美が他人事のようにそのやり取りに混ざらず心で突っ込んだ。
「でもなぁ、ヨリ君のためにしたのにただでギフト解けはやる気出ないなぁ……。早くスタチャを紹介してくれないかなぁ……」
「なんですかそれ?」
スタチャ本人である星子が全く知らない話を出されて、目が点になる。
それを千姫が「実はね……」と切り出す。
「ヨリ君が!スタチャを紹介するから!そう言ったからギフト解いたのに!全然あたしにスタチャ紹介しないの!そろそろ催促の時間なんじゃないっ!?」
ぶちギレたように「おのれ明智秀頼ぃ!」と怒りを見せる。
(お前の目の前にいるよ)と西軍全員で突っ込んでいた。
知らない内に当事者にされた星子は(面倒だから黙ってよう……)と諦めたように目を閉じたのであった。
兄が勝手に約束したのであり、──星子には関係ない話である。
星子は千姫のことを一方的に知っています(名前は知らなかった)。
可愛いの人と認識している。
こちらを参照。
第11章 悲しみの連鎖
第330部分11、細川星子はブラコン
まさか、千姫と星子に接点が出来るなんて考えてなくてすっかりこの話を忘れていた……。
みんな、ノリで話作るのはやめようね!
詠美のお隣さん設定は初期からありました。
おばさんのお隣さんが引っ越してきた発言があり、一応意識していたのかも?
第1章 覚醒
第3部分 3、公園に現れた女の子
なんか何気に昨日、YouTubeにアップされた陣内智則さんの催眠術の動画で桜祭のコメントが取り上げられていて草でした。
取り上げられた名前は『遠野アゲハ』名義。
そのまま採用されなかったのが桜祭らしい。
因みにギャルゲー紹介するYouTubeチャンネルが、いつの間にかロックマンエグゼ紹介チャンネルになっていて頓挫してしまいました……。
申し訳ありません……。
 




