5、明智秀頼は1人になりたい
決闘がどうこうと説明を求められることにうんざりしている中、学校の授業は進んだ。
何人かの先生からも気遣うような目を向けられる。
俺はあんな先輩をまったく知らなかったのだが、知っている人は「織田先輩はやべぇ」と口を揃えて忠告してくる。
織田先輩のことは何も知らないけど、前世の徳川部長のことはよく知っている。
部活で目立って、自分より高く評価をもらう俺を妬んで色んな嫌がらせをしてきたのも全部知っていた。
自分より強い奴が目障りなんだ。
特に年上には媚びへつらいながら可愛がってもらい、年下には強くいびり開花しそうな才能を潰そうとする。
あの人はそういうタイプだ。
既にあの人に出会う前から剣道の実力が開花していた俺は、心底邪魔だったに違いない。
だから腕を使いものにならなくするように実力行使をして見せた。
自分より強くならないように後輩たちへの見せしめとして、俺を生け贄に選んだ。
「もう関わりたくなかったのにな……」
だから俺は逃げるように部活を退部した。
歯向かわず、弱虫根性丸出しで剣道の未練も全部断ち切った。
やることが無くなった俺はもっともっと、オタクの道に走っていき、周囲の目を気にしなくなった。
「はぁ……。しんどいなぁ……」
人生が終わる1年前までの記憶が嫌でも引きずりだされる。
思い出したくないことが多すぎる。
『豊臣君のトランプ手品見たいです!』
…………好き。
最終的に来栖さんに落ち着く。
「…………」
ド●えもんで好きな映画の話題を考えて、前世を考えないようにしよう……。
俺はベタに魔界大冒険、鉄人兵団、パラレル西遊記、夢幻三剣士ですかね……。
特にトラウマとして残るメジューサが討伐されることもなく、行方不明になるのも怖かったものだ。
おどろおどろしい描写を楽しみたいなら旧ドラ、スッキリしたいなら新ドラ、要するにどっちも見ろって話である。
タケルが古くて全部見たことねーよ、といちゃもん付けてきたっけな。
彼が見たことある映画、全部知らなくてジェネレーションギャップがやばかったなぁ……。
部長への恐怖が若干和らいだ気がする。
ありがとうド●えもん。
とっても大好きド●えもん。
タケルと山本の普段つるんでいる野郎2人は気遣ってか今日は声を掛けなかった。
絵美や理沙らもうんざりしているのに気付いてか会話が無かった。
アイドルなんてこんな気分なのかな?
そう考えると星子の『キャラメイク』がどれだけ重宝されるか、よく理解出来る。
俺が星子と赤の他人だったとして、クラスにスターチャイルドが居ようものなら何か買ってあげたり、撫で撫でしに行くもん。
…………あれ?
それただの普段の兄妹のやり取りじゃね?
最近考えるのは妹だからとか、アイドルだから星子が好きってやつより、星子だから好きなんだなって思うなぁ……。
「ったく……、今日は天気悪いなぁ……」
昼休み、ひっそりと教室を抜け出して、誰も来そうにない屋上に来ると一雨降りそうな天気だ。
文芸部部室の手も考えたが、概念さん辺りが居そうだ。
昼休みが終わるまでこの屋上で、原作とか前世とか考えない時間にしようと決めた。
劇場版ド●えもんの敵最強議論はギガゾンビも捨てがたいが、やっぱり鉄人兵団だろうか?
毎回考えることは同じだから真ん中くらいの強さはどれかを考える方が楽しいかもしれないな。
「…………っ!?」
きぃ……という鉄扉が開く音がする。
誰か俺をつけて来たのか、偶然なのか……。
それとも徳川が来たのかなど考えうる可能性の予想を立てると、まったく想像していなかった人物がそこに立っていた。
「……こんにちは、ひぃ君。久し振りだね」
「え、詠美……?」
屋上の扉がどこでもドアかなんかと疑うくらいに、俺の心は動揺していた。
絵美と顔の造りが似ている、彼女のお姉さんみたいな詠美が俺に近付いて来た……。
秀頼は旧ドラ劇場版全部と、旧ドラ劇場版のリメイクされた新ドラ版くらいの作品は目を通してると思います。
新ドラオリジナルは知らない派。