29、上松ゆりかは忍
俺はギフト狩り界のゴルゴ。
『狙った獲物は逃がさない』がモットーってやつだ。
そして俺は今日、自分が通っていた第5ギフトアカデミーの近城悠久を暗殺する命令を受けて暗殺に使えそうな2箇所から絞り混み、このビルの場所に陣取っていた。
今日は無風で天気も悪くない。
最高って奴だ。
暗殺さえなければ、『最高!最高!』とか言いながらはしゃいでいただろう。
スナイパーライフルを構え、スコープを覗く。
後寿命が数分で尽きる名前が壮大なアホ学園長は呑気に電話をしている。
「へっ!呑気だぜぇ、アホが!その澄ました顔をギフト狩りのゴルゴがホームランを打った時みてぇに吹っ飛ばしてやるぜ!」
ギフト狩り界のゴルゴは野球部補欠だった経験からホームランに例えていた。
「よし、まずは命中精度の確認だぜぇ!」
学校の屋上へ空き缶が数本並べられていた。
協力者であり、依頼人である瀧口先生がわざわざ準備していたのである。
「ヒュー、いけぇっ!」
トリガーを引くと、一直線に空き缶に大穴が空き弾け飛ぶ。
ギフト狩り界のゴルゴが満足とばかりに「おっしゃぁ!」と腕を突き上げた。
「へへっ!今日は最高過ぎて嗤いが止まらねぇぜ!」
屋上にあった缶すべてに穴を開けた。
100発100中の俺の腕前は最強だね。
俺はそのまま寝転び、スコープ越しに近城悠久を狙う。
トリガーに指がかかった時であった。
「見ろよ、ゆりか!あれスナイパーライフルって奴じゃね!?かっけぇな!」
「うおおお!?凄いなヨル!凄い精巧に作られたレプリカだな!」
「…………あぁ!?」
そこには赤茶色い髪色の可愛い感じのバカそうな顔した女と、黒い長髪な美人だけどバカそうな顔した女が俺を取り囲んでいた。
ちっ、嫌なところを視られちまった。
もし不都合があるなら殺してどっかの田舎に行って汚い肥溜めに落として肥料にしてやるぜ!
俺の仕事に支障はない。
「やぁ、君たち。何のようだい?」
「さっきなんか花火みたいな音がこの建物の屋上からしたのでここでなんかしてるんじゃないかって来てみたんだぜ!」
「へぇ、花火」
あちゃー、銃声が聞かれちまったか……。
じゃあ、殺しておくか。
「でも花火なんかないぞヨル?」
「本当だ。花火してるかと思ってビルに駆け上がってきたのにしてないな。……悔しい」
…………あれ?
待て。
どっから侵入したこのバカ共は?
このビルの屋上の出入口は施錠をして入れなかったはずだ。
俺しか、屋上に入れない。
明らかにおかしい……。
「は、花火って……。まだそんな時期じゃないでしょうに……」
ギフト狩り界のゴルゴは安易に殺すのは時期尚早と考えて情報を探る。
屋上に来たトリックがわからない以上、安易に殺すのは怖い。
「花火って夜のイメージだけど、昼にするってのも憧れんじゃん」
めっちゃしょうもない理由だった。
「ははははっ!ヨル・ヒルってダジャレが言いたかっただけだろ?ははははははは!」
何が面白いのかはさっぱりわからないが、黒髪の長身女はもう片方の女の話に大爆笑をしていた。
まったく笑いのツボがわからない……。
俺の流行が遅れてるのかな……?
「と、ところでどうやってここまで来れたのかな?おじさん、屋上の鍵は締めていたんだけどなー。いやぁ、不思議だなぁ」
「え?どうやってって……」
「なぁ。考えればわかるよな?」
「え?もしかして俺が屋上に来る前から居た?」
「けらけらけら。何言ってんすか、おっさん!」
「お、おっさん……」
赤茶色い髪の女は察しが悪いとばかりにちょっと俺をバカにした目で嘲笑う。
あと、俺は23歳。
おっさんとか呼ばれる年齢ではない。
ギフト狩り界のゴルゴだぞ!
「んなもんビルの外壁から登ったに決まってんじゃん。あたしで出来るんだから誰だって出来るよ」
「ビルの外壁!?え?2人して登ったの?」
「ロッククライミングをした我らの修行が活きたな!」
「あと10メーターは行けたな」
え?
今の子供って外壁登れるの?
むしろ出来ない俺が遅れてる……?
屋上の端に行くと、余裕で人が死ねる高さはある。
「しかし、凄いぞヨル!花火じゃないけどヤバくないかこのスナイパーライフルのレプリカ!?かっけぇ!」
「あ!?ちょ!?」
「あぁ。ゴキブリみたいな黒いフォルムだな」
「ゴキブリ言うな」
失礼なことを言いながら俺の持つ本物のスナイパーライフルをレプリカと勘違いし、はしゃいでいる。
「でもよぉ、おっさん。良い年なんだからそんなもん持って出歩くと警察に捕まっちゃうよ。しかも恥ずかしいだろ?」
「うるせぇよ!恥ずかしくなんかないですぅー!」
「我にはまるでゴルゴなんちゃらみたいに見えるぞ」
「!?」
まさか、この黒髪女!?
俺がギフト狩り界のゴルゴだと気付いている?
それの牽制か?
「ふっふっふ……。ひゃぁはははははは!」
「?」
「そうだよ、俺様がゴルゴだよぉ!見たからには生かしちゃおけねぇ!」
懐にあった拳銃を取り出す。
俺の所持する銃やライフルには弾丸なんか一発も入っちゃいない。
何故なら俺のギフトが弾丸なんだから!
世界最強のギフト。
『インフィニティバレット』。
俺が握る銃器に弾切れはねぇ!
「死ねぇぇぇ!」
「!?」
俺の近くにいた赤茶色髪のヨルとか呼ばれていたおっさんと呼ぶクソガキを手で抑え、頭を撃ち抜くために引き金を引く。
カスッ、カスッ。
「……あ、あれ?」
カスッ、カスッ。
「…………」
弾が出ない!?
な、なんでだ!?
「おい、おっさん……。あんた今、あたしのこと殺そうとしてる?」
「っ!?うるさい、黙れっ!」
なんでだ!?
なんで『インフィニティバレット』が発動しない。
生意気女が逃げないように押さえ付けていて、絶対的有利な場面なのに、なんで弾が発射しないんだ。
クソッ、まあ良い。
だったら……!
「ナイフでお前の身体を切り裂くだけっ……ぐわっ!?」
ナイフを握った手に痛みが走る。
わけがわからない出来事にナイフを持っていたはずの右手を見ると、氷の刃が生えていた。
「うわっ!?うわあああああ!?」
わけわかんない!?
わけわかんない!?
ギフト狩り界のゴルゴの俺が何をこんな女のガキにびびってやがる!?
俺は……。
──俺はゴルゴだぞぉぉぉぉぉ!
「ギフトで人を殺そうとするクズめ。お前を見ていると弟を殺したあのクズを思い出すよ」
「はっ!?」
黒髪の女の周りに氷の刃が3本ほど浮いている。
あの女、あんな野蛮なギフトを持っていやがった!
あんな美しい姿をしているのに、野蛮という歪な気持ちだ。
でも、あの女はギフト狩りとして、殺すべき対象だっ!
「ふふっ。我がまたこの名を名乗ることになろうとは……」
「っ!?」
「ギフト狩りの忍として、我がお前を始末してやる」
「…………って、なんでお前までギフト狩り名乗ってんだよ!?味方だぞ!?俺味方だぞ!?俺もギフト狩りだからっ!」
「ギフト狩りならあたしの領分だっ!」
「ぶっ!」
いきなり拘束を引き剥がし、赤茶髪女は俺の頬をぶん殴った。
仰け反っていると腹に蹴りを入れられる。
「いくぜぇ!ゆりか!」
「わかっているっ!」
「クロス……」
「ボンバッー!」
「げふっ……!?」
首の前後からラリアットの衝撃で俺は立っていられなくなる。
なん、なんだ……、こいつら……。
「ふぅ。怖いなぁ、ギフトって……」
「簡単に捕まるなよ、危ないだろ」
そんな軽口が耳に届きながら意識を失っていく。
意識を取り戻した時にはギフト管理局に取っ捕まり、そのまま俺の人生は死刑になった……。
─────
「あらら……残念。せっかく俺たちはこっちに陣取ってたのにヨルちゃんのとこに行っちゃったか……。ギフト狩り界のゴルゴめ、当たりを引いたか。ハズレなら俺と秀頼が相手だったのにな」
「ヨル?ヨルがなんかしたんすか?」
「撤収するぞ秀頼。バイト終了。君の口座にバイト代振り込んでおくから」
「は、はぁ……」
今日、俺は不審者が来たら達裄さんとの2人でボッコボコにするという怪し過ぎるバイトに出勤していたが、不審者なんか来るはずもなく空振りに終わった。
「しかし、ヨルちゃんともう1人のゆりかちゃんだっけ?屋上の真下の階かららしいけどビルの外壁登ったんだって」
「へぇ……。なんでヨルとゆりか?」
何もかもがわかれないバイトであった。
「よし!飯食い行くか!来いよ秀頼奢るからよ!」
「ありがとうございます」
「何食べたいよ?」
「ハンバーグ食べたい」
「良いなぁ!男は肉よな!」
こうして、俺にはまったく関係ない脅威は去っていった。
しかし、こんな平和な日常が続いていた俺の元へ、あの男がまた現れるなんて夢にも思わなかったんだ……。
前世で俺の腕をぶっ壊したあの男が、こっちに転生していたなんて考えられるわけもなかった……。
サーヤさんが言っていた曇り空は、もうすぐそこまで迫っていた……。