27、サーヤは占う
「じゃあ、ちょっと占いに辺り準備があるのでちょっと待っててくださいませ」
「はーい」
佐山さんがそう言って店の垂れ幕の向こうへ消えていく。
その間にぐるっと店内を見渡してみる。
「…………」
タヌキの置物15000円。
変な扇子3400円。
数珠3700円。
招き猫9980円。
…………なんなんだ、この変な骨董品屋みたいなラインナップは……。
内装も中々怪しいが、店内はもっと怪しい。
そんな『暗黒真珠佐山』である。
公式サイトに、店の写真が無かったのも確信犯であろう。
『えー、何あの人こわぁ……』
「ん?」
垂れ幕の向こうから佐山さんの声がして、そっちに意識が持っていかれた。
『めっちゃ目付き怖いし、めっちゃ突っ込むじゃん!』
「…………え?俺?」
舐めてんのかキッズ、とか素で言い放ったあなたが言いますか!?
『ぅぅぅ、怖くて私も強気に出ちゃったじゃん』
「…………」
さっきまで妾とか自称していたのに、素はそれかい。
『私、訴えられたりしないよね!?恐喝されたりしないよね!?あぁ、マスターったらなんであんなヤクザより怖い見た目の人紹介するの!?いや、負けないでサーヤ!あなたは立派な占い師になって影響力を付けて政治家になるって夢があるのよ!サーヤ!サーヤ!』
なんかあの人怖いな……。
でも、もしマジで政治家になるとしたら今の内にコネが欲しいものである。
というか、本当にあのクソゲ……じゃなかった。
本当にあのギャルゲーの悪役なのかってくらい気が小さい……。
「おーほっほっほ!さぁ!待たせたわね、愚民が!これからあなたをてきぱき占うわよ」
「は、はぁ……」
キリッと垂れ幕の向こうで弱気を捨てたのか、ラスボスの高笑いをしながら俺のところに戻ってきた。
「じゃあ、まずは名前や生年月日などあなたのプロフィールを書き込みなさい」
「はぁ……」
俺にワードで5分くらいで作った手抜きのプリントを渡されて、近くにあったボールペンで記入をさせられた。
そして、その時間で佐山さんはいかにもな水晶玉を取り出してきた。
でも、なんかそれっぽいな。
「明智秀頼ね。良い名前じゃない」
「ありがとうございます佐山さん」
「噛ませ犬みたいで可愛いじゃない」
「噛ませ犬って言った?」
「犬みたいに可愛いよ。被害妄想が過ぎるわ」
被害妄想が酷いのは絶対佐山さんだし、明智秀頼の名前が犬みたいなのは全然意味わかんないし。
「あと、手相も見てあげますわ。手を出しなさい」
「はい」
「あらぁ、中々良い肉付きしてるじゃない。性器みたいで見とれちゃう……。いつまでも触っていられるわ。あぁ!良い……。性器みたい……」
手を見ながら、スリスリスリスリと下心満載の手付きで俺の手を揉み揉みしてくる。
手が性器みたいとか生まれて始めて言われた。
「いつまでも性器触ってるんですか?」
「バッ!違うわよ!」
佐山さんは指摘され、顔を赤くしたままパッと手を離す。
いつまでも俺の手を性器みたいにずっと触っていそうな熱量が身の危険を感じるほどにヤバかった。
「では行くわよ。むむむむ……。見えます!見えます!水晶玉からあなたのことが次々と映されていきますわ!」
「ならプロフィール書いたり、手相見る必要なくね?全部水晶で見れるんでしょ?」
「…………こんなの演出に決まっているでしょ!」
身も蓋もないことを暴露する。
「水晶はね、水晶であってテレビとかユーチューブじゃないの!何も映んないわよ!ほら、自分で確かめなさい」
「貸すんだ……」
渡された水晶玉を確かめる目的で、睨むようにして覗き込む。
反射して、水晶玉から俺の姿が移るだけで運命が見えるなんてわからない。
「よし!」
「どうかしましたか?えっと……明智さん?」
「俺は今、佐山さんの過去について覗き見てるんだ」
「何もわかるわけないわ。あんたバカよ、バカ。さぁ、水晶を返しなさい」
「佐山さん、あなた記憶を失ってますね」
「え!?」
佐山さんの態度にイラッとしたので、水晶に映ったって名目で『わけわかめ恋愛』のサーヤの動向を発表する。
それに、一応明智秀頼の死亡フラグ回避が出来ないか照らし合わせる意味もある。
「背中には爆弾の跡である小さい火傷がある」
「……なんでそんなところも!?」
「好きな食べ物はキクラゲ」
「えぇ!?」
「未散という友達がいる」
「すげぇ!」
因みに未散とは『わけわかめ恋愛』のメインヒロインである。
主人公の浩太と恋人になった未散を爆殺させようとしたのがサーヤである。
記憶を失ったサーヤと1から友達をやり直すという感じで『わけわかめ恋愛』は幕を下ろすのであった。
「あと、佐山さん!あなた接客が酷すぎるのでは?」
「うぅ……。そうなんです……。緊張しちゃうと高笑いをして誤魔化してしまうんです……」
「近場のスタヴァにえくぼが似合う接客のプロである店員さんがいるので、彼女に教わってみたらどう?」
「近場のスタヴァには友達がバイトしてるのであまり通い辛くて……」
「え?マジで?誰々?」
こう見えて、何人かスタヴァの知り合いがいたりする。
スタヴァの姉ちゃん、スタヴァの姉ちゃんじゃない姉ちゃん、スタヴァの姉ちゃんじゃない姉ちゃんじゃない姉ちゃん、スタヴァの姉ちゃんじゃない姉ちゃんじゃない姉ちゃんじゃない姉ちゃん。
4人くらいである。
「名前言ってもわからないとは思いますよ。ただ、くりくりっとした目が美しい人ですわ」
「それは俺もわかんないですね……。えくぼが似合う姉ちゃんは知らない?」
「知るわけないですわ……。あの子はえくぼがあるけどそこに印象なんか残りませんし、別人ですね」
くりくりっとした目なんてわかるわけがない。
スタヴァの姉ちゃんは一応くりっとしている目ではあるが、そこに印象は残らないから別人だろうな。
「……って、お客さんは妾を占いに来たわけじゃないでしょ!」
「そうでしたね」
完全に俺が占い師になってしまっていた……。
「しかし、明智君。あなた、中々に奇異な運命にあるみたいですね」
「…………え?」
佐山さんが縦ロールの髪を揺らしながら俺の運命について口を開き始めた。