25、明智秀頼は近付かせない
「うん。……あぁ。……わかった。………マジで!?ありがとうマスター!」
年に1回あるかないか、なんとマスターと電話をしていた。
対面だと面白い人だけど、電話越しだと滑っているので、軽く流せる。
話の腰を折ることもなく、すんなり5分くらいで電話が切れる。
さて、明日の用事が決まった。
『暗黒真珠佐山』で占いをしてもらえる日になったのだ。
眉唾物ではあるが、もう占いで俺の運の悪さを見てもらうしか道は無さそうだ。
学校帰りの夕方だし、きちんとマップを見直しておく。
マスターの喫茶店から5~10分くらい掛かりそうだ。
「じゃあ秀頼君、今日帰るよぉ!」
「あぁ、待って待って!?」
自室でのマスターとの通話を終えると、タイミング良く絵美の声が玄関から聞こえてきて急いで彼女の元に向かう。
彼女の作ったキノコ鍋もまた絶品だった。
あの味を知ってしまうと100倍美味しくなる魔法の掛かったカップ麺より旨いと認めざるを得たかったのだ。
可愛いし、料理も上手、会話をしてると笑顔になれる、永遠に会話が出来ると、あの娘はチート過ぎない?
なんで原作ではゴミみたいな扱いだったのか考えられなくなる。
もし、前世で佐々木絵美の魅力に気付いていたのならメーカーのスカイブルーへ、リアル本能寺が抗議の電話をしていたかもしれない。
是非、今度は100倍美味しくなる魔法の掛かった絵美お手製キノコ鍋が食べたいものである。
もしかしたらワンチャンあるかもしれない、絵美との2人っきりでの無人島漂流……。
「どうしたの、秀頼君?」
「きちんとお礼言ってなかったからさ。キノコ鍋美味しかったよ。絵美の味付け、俺すっげぇ好き」
「す、す、すっげぇ好き!?」
「ふ、復唱すんなよ……、恥ずかしい……」
「あ、照れてる秀頼君可愛い」
「…………」
くっ……。
こんな辱しめを受けるならお礼なんか言わなきゃ良かったか?なんて考えてしまう。
「ありがとう秀頼君。また作るよ」
「あ、あぁ。こっちこそありがとう……」
でもご機嫌な絵美も可愛いからこれはこれで良いかもな。
「絵美を隣の家まで送るよ」
「え?すぐ近くだよ?いつも通ってる道だし」
「そうだけどさ、今は夜遅いしね。俺が見ていない時に、お前が不審者に襲われるとか考えたくもないし……」
「ひ、ひでよりきゅん!」
何言ってるんだろうな……。
絵美を奴隷扱いしていたかもしれない口で……。
だから、俺は絵美が幸せになれるように護りたい……。
「んっ!」
「え、絵美!?」
「じゃあ秀頼君はわたしを離さないように手を握っていてね」
「わ、わかった」
相変わらず可愛い子供だ。
絵美はよく抱き付いたり、手を繋いだりするのに抵抗がない。
もし、彼女が誰かと付き合ったらこの手はもつ俺に繋いでくれなくなるのかな……?
…………なんか嫌だなぁ。
「じゃあ、わたしの護衛お願いね秀頼君!絶対にわたしを不審者に近付かせないでね!」
「わかってるよ」
「あと、不審者と仲良くするのも厳禁です!」
「不審者と仲良くなんてするわけねーだろ。一体いつそんなことしたんだよ」
誰とでも仲良くすると思ったら大間違いだ。
不審者と仲良くする神経は俺にはない。
そんな奴がいるなら正真正銘のバカ野郎だぜ。
「襲ってきたゆりかと……」
「ごめんなさい!不審者と仲良くしてましたね!でもアレは例外だからノーカン!ノーカンで!」
アイリーンなんとかさんみたいな不審者とは仲良くしないから許して!
絵美を自宅に送る為に家を出て施錠する。
開かない扉を確認し、俺と絵美は彼女の自宅に向かう。
「このままずっとこの時間が続けば良いのに……」
「絵美……。家に着いたよ」
「早いって!?」
徒歩30秒で終わった。
「やだやだやだー!早すぎるぅ!北海道から沖縄くらいまで歩きたいー!」
「もうそれなら飛行機使おうよ」
そもそも隣の家なんてそんなもんだ。
アパートの隣の部屋とかだったら徒歩10秒以下だと考えると長い方である。
絵美の家の扉を開けると、渋々といった感じの絵美が「ただいまぁ」と声を掛けた。
「じゃあまた明日なー」と手を振り、この日は絵美と別れたのであった。
─────
それから1秒と感じてしまうほどの濃度の薄い学校の授業を終えて、『暗黒真珠佐山』という店の目の前に立っていた。
しかし、まぁ……オンボロだ……。
店の名前からしてアレなせいもあり、人の気配がない。
閉店してるんじゃないかと思って店の張り紙を見ると『定休日・水曜日』と書かれている。
今日は金曜日なので空いてはいるらしい。
「しかし、なんだ?なんか見覚えがあるな……」
いつ見たんだ?
秀頼に転生してからこんな店を見た記憶はない。
じゃあもっと前?
俺が転生する前の秀頼状態か?
微妙に違う。
それより前……?
「いや、古い建物なんかどこでも……」
あるし……、と繋げようとした時だった。
謎の声が頭に浮かんでくる。
『良いですか、浩太さん。妾は佐山ですが佐山ではありません。サーヤと呼んでください』
「ん?」
サーヤ?
なんだっけ?
今なんとなく聞き覚えのある声が頭に浮かんだ。
誰だっけ、あの声……?
顔もなんかうっすらと蜃気楼みたいなフィルターが貼ってあって思い出せない。
ダメだ、全然わかんねーや。
とりあえず、占ってもらうか。
俺は躊躇いながらも、怪し過ぎる占い店『暗黒真珠佐山』の入り口を開けた。