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15、津軽円の死の宣告

川の水が流れる河川敷。

そこに俺は待ち人を待っていた。

暖かい日差し、弱々しい風が髪を揺らす。

俺の誕生日の7月7日がドンドン近付きつつある。


「再生の世界。それは歩んだ世界とは違う未来……」

「なーに、『悲しみの連鎖を断ち切り』のOPなんて口ずさんでんの?」

「うわっ、冷たい!?」


特に意味もなく、この世界ではリリースしていないスターチャイルドの歌う原作ファースト主題歌を口ずさんでいると、突然俺の後ろ首に冷たい体温の掌を押し当てられて仰け反る。

しかも、なんか濡れた。

驚きでひっくり返りそうになるのをぐっと足に力を込めて耐え抜く。


「ま、まどかぁぁぁ!」


待ち人でかつ、『悲しみの連鎖を断ち切り』なんて単語が出る知り合いなんか1人しかいない。

彼女の名前を呼びながら牙を向ける。


「どうよ。私の必殺技・センチメンタルハンド」

「意味わかんねーよ。てかなんでそんなに手がびしょびしょになってて冷たいんだよ!?」

「飲み物プレゼント」

「く、くびぃぃ!?」


先ほどと同じ後ろ首に円の手より冷たい缶のようなものを押し当てられる。

そこでじたばたと首が暴れる。


「いひひひっ…………、あっ」

「え!?なんの『あっ』!?なんの『あっ』!?」

「明智君が暴れまわった拍子にアンダーシャツの中に缶が転がっちゃった……」

「あっ!?そ、それはぁぁ!?」


背中に缶がベッタリ引っ付く。

薄くはなっているが虐待されていた傷とかに沁みて、変な古傷が疼く。

痛みになれていても、過去の痛みには耐えられずワイシャツをズボンより出すとそのまま『ガンっ』と音がしてジュース缶が転がる。


「ご、ごめんね明智君……。凍傷になってない!?」

「こんなんで凍傷になってたらプール入れんよ……」


ただの悪ふざけにキレ散らかすほど機嫌は悪くない。

ジュースに免じて許すかと落ち着かせる。


「ったく。なんのジュース買ったの……?」

「コーラ」

「結構振動酷くなかった!?絶対シェイクされてるよね!?」


地面に落ちた黒いラベルのゼロカロリーなコーラの缶を拾い上げる。

今開けたら中身が噴射しそうだ。

悪ふざけに炭酸を使うな。


「円の飲み物は?」

「私はわーいお茶」

「ふざけんなよ」


俺の隣に腰掛けお茶の缶を開けていた。

どうせ背中に入れるならそっちを入れろよとぶつぶつ文句を言ってしまう。


「いやぁ……。お互い死んじゃって結構時間経っちゃったねー。あはははは」

「話のすり替えが雑!」


目を反らしながら結構重い話を笑い話にするんじゃないよと突っ込まざるを得なかった。


「最近どう明智君?」

「どっかの緑髪の女から背中にコーラ缶入れられて虐待の古傷が開いちゃったよ。あはははは」

「ごめんなさい!」


ガチで土下座で謝られた。

そこまで本気の謝罪をされるとそれはそれで居心地が悪くなる。

でも、なんか……。


「あっははははは!」

「ふふふふっ」


面白くて円と顔を合わせながら笑ってしまった。

変にドジなのが来栖さんみたいで愛おしい気持ちが沸いてきた。


「それで、真面目な話最近どうなのよ?」

「一応自分の死亡フラグをへし折る努力はしてるよ。しかしなぁ……」

「しかし?」


歯切れが悪くなったのを目ざとく円が復唱する。

ちろっと円を見ると、じっとこちらを見てくる。


「高校生活がまだ2年以上あるのが辛い……」

「そ、そうね……」


学校生活を送るぶんには楽しいちゃ楽しい。

ただ、ふと原作の秀頼の末路を思い出す度に日常が恐ろしくなる。

実際何回か死にかけている。


「客観的に見て、俺の死亡フラグとかへし折れていると思う?」

「客観的に見て、いつか刺されるんじゃないかって危惧してる」

「マジで!?」


円が真顔で恐ろしい死の宣告をしてきた。


「なーんてね!」

「ほっ……。良かった……」


といって笑顔で冗談を認めた。

安心して息を吐き出す。

俺の努力が身を結んできたようだ。


「なんてね……」

「え!?殺されるの!?」


円が暗い顔をして落ち込むように発言する。

え?え?

一気に不安感が増す。


「なーんてね!」

「真面目にやってくれぇ!」


1周してしまい、俺の感情はぐちゃぐちゃだ……。

不安と安心が両立するという30年の人生ではじめての感覚であった……。


「ふっふふー。明智君からかうの面白くて好きぃー」

「この野郎……」


来栖さんはあんなに可愛いのに、円の顔になるとちょぴり憎らしい気がするのは、これまでの積み重ねやこういうところが大きいと思う。

彼女を来栖さんとは別人に見えたり、逆に来栖さんに見えたりと忙しい。

というかなんで絵美といい、円といい俺をすぐからかってオモチャにするんだろう……。

男としての威厳が無さすぎで悲しくなってくる。


「ねぇ、明智君。お願いがあるんだけど……」

「人をからかっておいて頼み事をお願いする神経がわかんねーよ」

「ちょっと膝貸してあげるからさ!」

「聞いちゃいねー……」


座った円が両手で、両膝をポンポンと叩く。

あ、そういうことかと理解して頷く。


「察しが良いわね」

「あぁ」


そして円の膝に水滴で濡れているコーラ缶を乗せる。

ストッキングとかで守られているわけでなく、生膝に乗せたのでぶるっと動く。


「きゃっ!?」

「あははっ!円も可愛い声出せるんだね」


コーラ缶をキャッチしながら仕返し成功とばかりに笑う。

武器になっているコーラであるが、炭酸が噴射しない確信が持てるようになったらきちんといただくつもりである。


「んっ……!?そんなに普段の私、声がブサイク?」

「んなわけないって!普段の声が100の可愛いさなら、さっきの不意の声が1000の可愛いさなだけ」

「な……何それ、ずるい」

「あ、顔赤い!それっ!」

「きゃっ!?」

「ははっ!キュート、キュート」


赤くなった円の頬にコーラ缶を当てるとまた可愛らしい悲鳴が上がる。

円は可愛いなぁ……。

豊臣光秀になることが許される相手だからか、来栖さんもとい円を弄りたくなる俺が顕現するようだ。


「意地悪な明智君……」


ぷくーっと膨れる円。

そんな姿ににやつきながら俺は円の膝に頭を乗っけて横になった。

彼女は膝枕がしたかったようだ。


「やっぱりわかってたんじゃない!」

「今まで円が虐めてきたぶん、お返ししてやらねーと」

「そういうのはお返しじゃなくて、仕返しって言うんです!」

「いてっ!?やめて、やめて!?ここが夢の世界なら夢が覚めるぅぅ!?」


円が俺の頬に爪を立てないで、ぎーっと引っ張る。

ちょっと大袈裟な反応をしてみせると彼女がクスクスと笑いだす。


「そうだね……。これが夢の世界なら覚めない方が良いな……。だから頬を引っ張るのをやめます」

「なんだよ、それ?」

「明智君ともう二度と死別なんて嫌だもん。これが夢なんて嫌だもん……」

「ま、まどかさん……?」


ちょっと涙目になっているのか、目が赤い。

円が膝枕で寝ている俺の手を取る。

その手はぶるぶると小刻みに揺れている。

絶対離さないとでもいうようにぎゅっと手を握られる。

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[一言] 死の宣告(巻き上げで無効)
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