13、浅井千姫は奇声を上げる
『うおおおぉぉぉぉ!世界レコード抜いたるぞリアル本能寺!うおおおお!世界一のスタチャファンのサウザンドプリンセス舐めんなやぁぁぁぁぁ!』
めっちゃ奇声を上げながら太鼓を叩いている浅井千姫がいた。
何を言っているのかは全然わからないが、スタチャの音楽に合わせてかなり正確なタイミングを合わせている。
しかし、動きが荒い。
確かに百回近くは叩いているであろう。
あらかじめ動きは読んでいるようだ。
ただ、全ての譜面を暗記し、目隠しされた状態でもフルコンボを出せるとは到底思えない。
それくらいできることによりようやく俺の足元レベル。
前世の経験、スタチャ本人が歌いながら練習した経験、達裄さんの修行の経験。
この3つが俺のレコードを叩き出せる秘訣である。
「なんだあれは?千姫か?怖すぎるぞ……」
「なんか近寄りがたいですわ」
美月と美鈴は彼女の姿に引いていた。
そういやスターチャイルドに千姫を会わせる約束したんだっけか。
まだ星子に話すらしてねーんだよな……。
なあなあで流れねーかな……。
てか忘れてねーかな……。
『うおおおお!明智秀頼ぃ!早くスタチャを紹介しろぉぉぉ!ヨリくぅぅん!明智ぃぃぃ秀頼ぃぃぃぃ!』
全然忘れてなかった……。
今の叫びだけはハッキリ聞こえた。
あんまり俺の名前をゲーセンで叫ばないで欲しいなぁ……。
「さ、行こうか……」
「そうですね」
見て見ぬ振りをしてUFOキャッチャーコーナーに流れた。
ぬいぐるみ、フィギュア、お菓子と色々なものがガラスの檻に閉じ込められている。
「あ……。そういやさっきのプリクラで小銭が尽きてしまったんだった。ちょっとここで待っててくれない」
「そうか、わかった」
「すぐ戻る」
俺は早歩きで両替機に向かう。
3人くらい並んでいてタイミング悪いところに来ちゃったと落ち込みながら列に並ぶ。
ゲーセンは金使うんだよなぁ……。
たまに達裄さんのバイトという名で、なんか変な雑用をさせられて金を渡されたりする(きちんと保護者からの許可あり)。
死神ババア事件の時もタケルと共にいくらか金を握らされたりした。
半分貯金、半分はギャルゲーやこういった私用に消えるのである。
ようやく1人ぶん列が動いた。
早く順番が来ないかとソワソワしていた。
─────
「この写真、美鈴はスマホの待ち受けにしますわ!」
「あっ!?ずるいぞ美鈴!わたくしも待ち受けにしたい。どうやって待ち受けを変えるのだ?」
「え?そっから!?」
「スマホの使い方よくわかんないんだ……」
「何もかもデフォルトじゃないですか」
美鈴がやれやれと呆れながら美月のスマホを操作する。
パスワードすら設定していない美月の無用心振りに、胸と太鼓と機械の強さは自分の方が上だと自覚した。
(完璧なお姉様で妬ましかったのに、意外と抜けてて面白い人だったんだなぁ)
姉に対して嫉妬に狂い、憎んでいた自分が嫌になる。
憎悪が無意味だと知って良かったなと気付く。
家に帰ったらパスワードの設定をさせようと思いながら美月のスマホの待ち受けがスリーショットのプリクラの画像が映る。
「はい、出来ましたわお姉様」
「ありがとう美鈴」
美月がキラキラとした目でスマホを見る。
そこに驚いた秀頼と、彼の両腕にしがみつく自分と妹の姿がある。
その写真が誇らしくて、大事にしたい気持ちが沸き上がる。
双子が幸せに浸っていた時であった。
「おー、金髪美人が2人じゃん」
「マジじゃん!俺らと一緒に遊ばない?」
馴れ馴れしい男2人の声で幸せな気分が壊され、現実に引き戻される。
ナンパと呼ばれる不愉快な男だった。
「お、お姉様……」
美鈴が不安そうに美月に声をかけると、姉である美月がぐいっと守るように前に出る。
「興味がない。帰って欲しい」
「お姉様だってよ。もしかして姉妹なんじゃね?」
「マジかよ。俺は妹ちゃんの方好きよ」
穢らわしい……。
美鈴は心より軽蔑する。
顔に紋章があった時には居ない者扱いどころか、白い目で見ていただろうに……。
クラスメートでも、よく見る視線。
助けてくれなかった癖に、紋章がないだけで掌を返す男子共と同じゲスの目。
美鈴は醜い紋章に苛まれながらもそれでも自分に気を掛けてくれたり、助けてくれた美月、秀頼、絵美、永遠らを信頼していた。
しかし、それと同時に美鈴を女として見る男らはカケラも信頼しないと決めていた。
「なぁ、良いじゃん。何か取りたいのある?やりたいことある?なんでもするぜ」
「マジでなんでも付き合うぜ」
マジで、マジでとうるさくて姉妹が同時にイラッとした時だった。
「俺の連れに何の用事?」
不機嫌そうな声を漏らす秀頼が2人の前に帰ってきて、じろじろと視姦する目で見つめてくる男2人から背中で隠したのであった。