5、佐々木絵美は可愛い
「秀頼さん占いに興味あるんですね。絵美は知ってました?」
「全然。秀頼君は『占いなんか女々しいこと信じてんじゃねぇ!』ってタイプの人間かと」
「絵美のイメージ、ウチもわかる。秀頼は宇宙人とか見ても鏡の反射とか言うタイプ」
3人のこそこそした声が俺にも聞こえてくる。
難聴じゃないから普通に聞こえる。
俺ってそんなに頭硬いタイプ?
むしろ朝の占いとか放送していれば見るタイプだし、この広大な宇宙に宇宙人がいてもおかしくないでしょ。
現に神様の知り合いだっているわけだしね。
『クハハ』と嘲笑うゲスな性格をしている容姿は可愛いメル友を頭に浮かべる。
「明智先生が占いねぇ……。けらけらけら、可愛いこと言ってやがる」
「お前ら……。あと、突然明智先生って呼ぶなよ」
ヨルはお笑い草だぜ、みたいな態度でけらけらと笑い飛ばしている。
彼女から明智先生なんて呼ばれ方したのははじめてである。
タケルから始まった明智先生なるわけわからんアダナが山本、クラスの男子共ときて嫌っていたはずのヨルにまで感染してしまった。
何故か前世でも豊臣先生呼ばわりされていたが、先生ってなんやねんと今更突っ込みたくなる。
「占いか……。突然どうしたんだよ?」
「最近運が悪くてさ。水で濡らされたり女にされたりと……」
「ははは、草」
「無理に若者言葉使おうとすんなって」
マスターに俺が女にされたと話しても全く信じていなかった。
そもそも運が悪いって語っても『マジで?』って目で見られる。
「この際だから恋愛面とか見てもらいなよ」
「恋愛面?恋愛占いか……」
「彼女とか欲しいんでしょ?運命の相手といつ出会えるとかわかるかもしれないじゃない」
「う、運命の相手!?は、恥ずかしいこと言うなよおっさん!?」
「赤くなってるねぇ、君本当に何歳なんだよ」
前世と含めると30代に突入していることを唯一知っているマスターが呆れた態度を俺に向ける。
運命の相手とかなんだよそれ……。
タケルの運命の相手は山ほど出会ってきたわけだが、俺の運命の相手なんて……。
津軽円が頭に浮かんでしまい、心で赤面する。
いやいや、俺が勝手に運命とか考えているだけで今更彼女がなんて思ってるかなんてわかんねーし……。
あいつには知らぬ内にダッセェ自分とか黒歴史とか色々と知られてしまっている。
アニメやギャルゲーのPVを見るだけで「この子、明智君推しでしょ」と好みがバレる始末だ。
ついこないだ、円から「イングリッシュ先生好きでしょ」とドンピシャで当てられる始末。
乙女ゲームの主人公ってなんであんなに可愛いんだろ……。
「秀頼君の運命の相手。もう出会ってたりしてんじゃない?とっくの昔にさ!」
絵美が左腕に抱き付きながら囁くように口を出してくる。
「…………」
なんでこの子は俺を意識させることにおいては最強なのか……。
絵美のさっきの言葉はまるで自分を指している気さえしてくる。
確かに佐々木絵美は利用されていたとはいえ、明智秀頼の恋人役として作られたキャラクターだ。
だから『原作の明智秀頼』としての運命の相手であっても、俺の運命の相手というわけではない気がする。
絵美が見ているのは俺じゃなくて、明智秀頼という外見・概念的なもんじゃないかと考えてしまう。
そして、秀頼と結ばれることで佐々木絵美はDEADENDフラグを踏んでしまう。
あまりにあんまりじゃないだろうか……。
「…………」
ただ、やっぱり絵美は可愛いよなぁ……。
もし、豊臣光秀としての自分も受け入れてくれないかなぁとか女々しいことを考えてしまう。
そうやって、原作の明智秀頼に対して嫉妬する辺り、俺は絵美が大好きなんだろう。
ただ、絵美だけではなく永遠ちゃんや円、咲夜とか美月とか三島とかも気にはなっているし、多分自分の気持ちに蓋をしているだけでみんな大好きな下心は多大にある。
『秀頼君の運命の相手。もう出会ってたりしてんじゃない?とっくの昔にさ!』という絵美の言葉がのしかかる。
みんなが好き過ぎて辛い……。
俺が勝手に運命感じている相手が多すぎる。
独りよがりなのはわかっていても、好きな気持ちは収まらない。
イチャイチャしてみてぇ!
男なら可愛い女の子とデート行ったりとか、肉体関係持ちたいとか当たり前の感情がドバドバ出てくる。
誰でも良いわけじゃない。
好きな子としたい!
でも、好きな子多すぎ……。
俺の片思いは果たして何個あるのだろうと考えては、恥ずかしくて死にたくなった……。
そして、ギャルゲー主人公のタケルにも取られたくないという、変な独占欲すら沸き上がる事態にまでなっていた……。
普段考えてもないし、見ない振りをしていた醜い劣情が、胸の奥で渦巻いていた……。
でも、俺は死亡フラグによって世界から殺されるかもしれないから……。
ぐっと、みんなが大好きな気持ちに蓋をする。
いつか、この蓋を俺自身が取ってしまわないように、蓋をしていること自体を忘れることにする。
普段から考えないように。
──自分の気持ちを封印する。
第6章 偽りのアイドル
第115部分17、明智秀頼は忘れやすい
こちらにて秀頼はヒロイン全員がドストライクなのを語っていますが、実は悪化していたという事実……。