33、『悲しみの連鎖』殲滅
「じゃあ次は君の番だ。君の名前は?」
「あ、あたしの名前は……、トゥリスです」
「トゥリス?」
本当の名前らしい華子。
こないだまで名乗っていた1605番。
新しくもらったトゥリス。
どれを名乗ったら良いかわからず、とりあえず1番新しく名付けてもらったばかりのトゥリスを名乗る。
すると、タケルは眉をひそめて口を尖らせた。
「それは名前じゃなくて数字だ。そんな酷い名前、名乗らなくて良い」
「で、でも……。あたし、自分の名前なんか……」
「…………そっか。なら、とりあえずトゥリスと呼ぶけど後できちんとした名前を付けてやる」
そういってタケルが屈む。
「何をしているの?」と聞くと、「乗れ、おんぶするから」と言われる。
おんぶの意味はわからなかったが、乗れと指示され、タケルに抱き付くようにして乗ると、そのまま背中にあたしをくっつけて持ち上げた。
「とりあえず仲間と合流する。ここは危険だ」
「う、うん」
あたしの目線がタケルより高くなる。
高い目線で研究室を見ることが出来て感動する。
こんな世界あったんだー、なんて考えてしまう。
「じゃあ走るからな。舌噛まないように気を付けろ!」
「うん!」
そう言うと、あたしを抱えたまま走り出す。
風を切る感覚が気持ち良い。
ずっとこんな風にタケルからおんぶ?とかされたままが良いなー、と目をキラキラさせる。
こんな世界あるの!?と少しテンションが高くなる。
「…………」
しかしババババババ、と何やら物騒な音がしていたり、『ぎゃああああ!?』といった断末魔がして真顔になる。
多分、今のは田中リーダーの声だろうか……?
拷問した1581番より、酷い死に迫った声だ……。
「タケル?なんだその子?」
「あぁ、拾った子。白田に酷くされていたらしくてな……」
「そうか。子供たちも徐々に解放されている。ただ、3人くらい仲間の死亡が確認されている」
「くっ……。無傷というわけにはいかんか……」
タケルの知り合いなのか、サングラスを掛けたかなり引き締まった筋肉をしている男が合流し、一緒に出口まで走っている。
タケルも鍛えているとは思うけど、サングラス男の半袖からはみ出す筋肉を見ると勝てないだろうと思う。
筋肉質な兄らしい1581番ですら小指1本で吹っ飛ぶんじゃねーかな?とか怖くなり、タケルにより強く抱き付く。
「出口はそこだ!」
サングラス男が言うと、2人は全速力で走り出す。
外に出ると何人かのホワイト博士の助手たちが捕まっていたり、あたしより年下の子供たちが何人も集まっていた。
「よし、ターザン。この子を頼む」
「おい、タケル!?」
「まだ仲間が施設で戦っているんだろ?リーダーの俺が救出に行くしかねーだろ」
タケルがあたしを背中から降ろし、サングラス男にあたしを託すように言う。
ちょっと厳つい見た目のサングラスの人が怖いので、ぎゅっとタケルのズボンを握る。
「バカかよ、お前。リーダーだからこそケガとかされるのが困るんだよ。兵隊のターザン様に任せな」
「ターザン……」
「ハーフデッドゲームを生存した『生きるレジェンド』の異名を持つターザンが負けるわけねーだろ」
「お前、それ20年間ずっと言うじゃん……」
タケルが突っ込むと、サングラス男が強くタケルの背中を叩いた。
「その子、お前から離れねーみたいじゃん。タケルが待機、ターザンが攻める。だから待ってろやリーダー」
そう言うとサングラス男が走って施設にまた入っていく。
「ごめん……。検討を祈る……」とタケルはその背中に祈りの言葉を捧げる。
タケルがあたしから離れなくて良かった……。
「はぁ……」と緊張の糸が切れた時だった。
「お前、トゥリスか!?」
「番人……?」
最近名前を知ったディオとかいう名前の番人があたしに駆け寄ってくる。
ホワイト博士や、博士の助手らは捕まっているのに番人は縄には繋げられていなかった。
「お前が今回、『白い部屋』の情報を提供してくれた裏切り者か?」
「あぁ……。俺があんたらレジスタンスにホワイト博士の情報を流した……」
「そうか……。白田……、ホワイト博士の凶行を止められた。あなたにはこちらから感謝しかない」
「いえいえ……。金はたくさんもらえてたんだけど……。正直、もう苦痛でしたから……」
いつになく疲れた顔の番人は、地面に座り込む。
その姿は10歳くらい老けたような印象を受ける。
「なんで、番人は裏切りを……?」
「毎日毎日、俺と同じ境遇だった子供たちの傷を治すのが苦痛になってきたんだよ……。『むしろ傷を治さないでゆっくり休ませてくれ』って顔をする子の表情に俺が押し潰されそうでよ……。トゥリス、お前もそんな気分だったよな……」
あたしが番人に裏切りの理由を聞くと、細い声で懺悔を語る。
あたしより年下の子らに一瞥し、あたしにも頭を下げた。
「俺の勇気がもう少し早かったら今年のギフト適性検査より前に『白い部屋』を滅ぼせたかもしれないのに……」
番人の心からの叫びだった。
いつも小説ばかり読んでいて、やる気をなさそうにしてたのも、子供を視界に入れたくないが故の行動だったのかもしれない。
もしかしたら、あたしが番人の立場になっていたかと思うと複雑な気分だった。
それから数時間後。
『白い部屋』は殲滅された……。
ホワイト博士はギフト管理局へ逮捕。
残りのスタッフらも逮捕や射殺され、『白い部屋』のメンバーは全員悪事の働けないことになったのであった……。
断末魔を上げていた田中リーダー(食堂の陰険なおばちゃん)は死にました……。
彼女が所持していたギフトは『頭の中で自由自在にあみだくじを作れる』能力でした。
これで食堂当番などを決めていました。
簡易的な登場人物紹介
ターザン
本名はターザン・スルスル・メータン。
サングラスを愛用する。
ハーフデッドゲームを生き残り、『生きるレジェンド』の異名を自称する。
ヤーサンに間違われることもしばしば。
しかし、タバコの煙が苦手な弱っちい一面もある。
ハーフデッドゲームに巻き込まれたことが、レジスタンスに入るきっかけへと繋がる。
レジスタンス内にてタケルとターザンのリーダーの後継者がどちらになるかと議題があがると『ターザンの真のスペックを活かすには現場の兵隊になるからこそ』と告げリーダーを譲った経緯がある。
ギフトアカデミーの2年、3年時にはタケルや秀頼、白田、美月と同じクラスだった(クズゲスでも同じクラスになるかは不明。期待すんな!)
第349部分26、『悲しみの連鎖』白い部屋
にて、美月と会話していた戦友の男の正体はターザンである。
因みにやたらクズゲス本編でヨルがターザンに対し尊敬していたり、懐いていたりする様子があるのは未来にて面識があったから。
今は怖がってますが、これからヨルとターザンの絆も深まるんだと思います。
第10章 月と鈴
第251部分8、三島遥香は紹介する