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32、『悲しみの連鎖』ヒーロー

「久し振りだなぁ。『シャドウG』を滅ぼして以来だから10年近いか?」


十文字タケルと呼ばれた男はそう言って馴れ馴れしくホワイト博士に問いかける。

彼はいったい、なんなのだろう……?

そんな疑問が絶えない。


「なんともまぁ、顔まで変えちまってさ。整形ってやつ?本名が白田敦だからってホワイト博士は安直過ぎねぇ?」

「ちっ、マジでそういうのやめろよ」

「話し方も昔は『やっとくでござるー』とか忍者みてーな話し方してたじゃん。あれで話せよ」

「……十文字氏、少し明智氏に似てきたな」

「そうそう。お前はそういう話し方だったよな」


その男はずんずんと前に歩き出す。

そして、あたしを庇うようにして博士の視界から背中で隠す。


「仲間のレジスタンスが『白い部屋』のスタッフを捕まえたり殺したりしていることだろう。この子は俺たちが保護する。……白田よぉ、捕まってくれねぇかな?」

「バカが。なぜ、ワイが勝てる勝負を十文字氏に譲らなければならない。ギフト発動『ゲームワールド』」


博士がいつもの堅苦しい口調とは売って変わり、慌てた様子でギフトを発動する。

すると、あたしを守ってくれる男の人の近くにメッセージウインドウが現れる。

男は「ふーん」とそれを軽蔑するように見ている。


「十文字氏はギフト使えない無能だったでござるなぁ。今回の設定はアクションゲームでござる!」


そう言ってギフトの状態を組み立てる博士。

あのギフトを身を持って体験したあたしは恐怖のあまり、男の背中に抱き付く。

すると彼は屈んであたしに視線を合わせる。

そして、にこやかに笑い、あたしの頭を撫でてきた。


「待ってろ。必ず君を助けてやるからな」

「…………ほ、本当に……?」

「うん。俺は絶対負けないからさ」


そうやって子供みたいに笑い、頭をもっと強くくしゃくしゃと撫でる。

暖かい温もりが走り、ドキドキした感情が芽生える。

怖い感情じゃなないのに、このドキドキはなんなのだろう……?


男が博士を視界に入れていない間に、博士の近くにもメッセージウインドウが現れているのが、屈んでいる十文字の後ろから見えてくる。


「【プレイヤーネーム:白田敦。武器、日本刀】【プレイヤーネーム:十文字タケル。武器、丸腰。ジャンル:雑魚敵】」

「あー、現実をゲーム世界にするのね。つまり、これはHPってわけね」


博士と男の上に『HP』と書かれた同じ長さのゲージが突如出現する。

そして、メッセージウインドウに白田:HP500000に対し、十文字:HP25と表示されている。


「HPがゼロになった者が死ぬ。武器は変更できないし、丸腰の相手は自前の武器すら握れない。さぁ、戦おう十文字氏」


刀を握った博士が勝ち誇ったみたいに見下した嗤いを浮かべる。

そんな絶望的状況においても、「うわー、インチキじゃん」と呟きながら焦りの色すら男は見せなかった。


「きええぇぇぇい!死ねぇぇぇ!十文字氏!」


そう言って刀を男の首目掛けて博士が振りかぶった時であった。


「──『アンチギフト』」


そう呟いた瞬間だった。

メッセージウインドウ、HPゲージ、刀が消失した。


「……なっ!?」

「くたばってろよ、チート野郎っ!」


驚いて間抜けな顔になった博士に、男が右ストレートが炸裂し、そのまま壁に激突した。

そのまま男が馬乗りになり、拳を2回、3回と叩き込む。


「ど、……どういうことでござるか……?」

「さぁな?お前は自分が主人公だと思っているみたいだが、そうじゃなかったってことだろ」


そう言って頭突きをくらわすと、博士の顔からなんかが飛んできて、あたしの足元に何か落ちる。

白い何かに血が付いていた。

見覚えのある形だなと思い、じろじろと見ているとそれが歯だということに気付く。


「秀頼のギフト研究データをこんなことに使うお前が許せない……。正直、お前を殺してやりたい」

「はっ!何言ってるでござる!」

「あ?」


前歯が抜けて、殴られてしまい醜い顔になった博士は饒舌に語り出す。


「明智氏は弱い者虐めが大好き最低野郎でござった!ワイ氏も隣の席になった時は童貞野郎とかオタク野郎とかバカにされまくったでござる!」

「……そうだな。あいつはよく俺にもそう言ってバカにしてたよ」

「だからワイは彼の意思を継いだ!明智氏がギフトを使って金稼ぎをしたり、人を使ったりしていたのをワイも倣ってやったんだ!そうやって悪用してくれた方が明智氏が喜ぶに決まっているだろ!」

「お前が……、お前が秀頼が語るなっ!」

「げふっ!?」


床に博士の頭が叩き付けられる。

あたしが長年博士に向けてきた苛つきが、彼によって叶えられていた……。


「秀頼の人生を知っているだろ!?あいつは……ガキの頃に虐待されていた……。俺、親友なのに知らなかったんだよ……。あいつが死んでから、その背景を知った……」

「だから、なんだってんだ!?」

「秀頼がガキの頃に味わった苦しみを他の子供にさせてやろうなんて考えるわけねーだろうが!……あいつは、子供には手をあげねーんだよ……。お前の解釈をさも秀頼みたいに語るな!俺以外が、秀頼を語るな!」


そうやって彼はぼこぼこに殴った。

気が付けば、いつの間にか男の味方が何人か来て博士をロープで縛り上げた……。


「…………『白い部屋』は終わりだ、白田」

「……ワイは明智氏が嫌いだった。…………なんの苦労もなくワイよりモテるし、強いし、ワイを虐げるし、ワイに差別するし……、本当にムカついた……。劣等感に苛まれた……」

「あぁ……」

「でも、……得意分野だけはワイのが凄いって思いたかった……。でも、あいつはゲームでもワイより成績を残し、勉強面でもギフト研究データという素晴らしい記録を遺した……。……嫌いから、憧れになった瞬間で……。ワイは、意思を継ごうと……」


そう言い残したと同時に目が閉じていき、意識を手放した。

あたしがずっと怖かった博士は、たった1人の同級生の力で屈服させたのだ。


「このバカを連れて行ってくれ」と指示すると、仲間数人で博士をどこかへ連れていく。

あたしと男だけが取り残された。


「こんな小さい身体で大変だったなぁ。ほら、行くぞ」

「う、……うん」

「俺は十文字タケルな。気軽に名前で呼んでくれ」

「あり……ありがとうタケル……」

「いきなり呼び捨てかよ」


苦笑いしたみたいなタケルの声がする。

彼はこの日、──あたしの中でヒーローになった。

簡易的な登場人物紹介


白田敦

ホワイト博士の本名。

学生時代はオタクであり、秀頼にバカにされていて彼が大嫌いであり、劣等感を強く持っていた。

しかし、彼死亡後にその嫌いが逆転し、憧れとなり崇拝することになる。

そして、彼が乗り移ったように残酷さを身に付けていき、『シャドウG』に所属。

『シャドウG』が滅亡後、顔を整形した後に残党を率いて『白い部屋』を立ち上げた。




因みに白田はクズゲスにも登場している。

顔を整形していないため、ヨルは気付いていない。

ヨルはホワイト博士が苦手であり、トラウマなので、白田のことについて情報をあまり聞いていません。

というか、白田敦という本名をヨルは無意識に脳から忘れ去っています。

秀頼が頼子になった際に興奮していた、秀頼のお隣さんが白田です。


第11章 『悲しみの連鎖』

第323部分4、十文字タケルは顔が赤い


ここで初登場しています。

タケルや山本みたいにレギュラー化はしないだろうなぁ……。

クズゲス世界では秀頼との仲は良好なのでホワイト博士ルートを回避しています。







次回より、タケルとヨルの奇妙な年の差相棒物語が始まります!

これがしたかったので、鬱編終了!

2人の絆物語をはじめます!

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[一言] 白田、常連になれ(命令)
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