27、『悲しみの連鎖』手紙
あたしがホワイト博士の研究室に入ると10人前後の同年代の人物が集まって立ち尽くしていた。
男女問わずみんな暗い表情をしている。
脅えている顔、虚無な顔、下を向いて表情が見えない奴。
研究室に入った瞬間に、『あぁ、同族なんだな……』と察する。
圧倒的にギフトに覚醒出来なかった子供たちが多いのか、施設の同年代のほとんどが集まっている気がする。
「…………あと2人か」
その子供たちの中で唯一大人のホワイト博士が椅子に座っている。
おそらく年齢は40歳前後。
眼鏡を掛けた顔が怪しく光っているように見える。
口を開いたホワイト博士の言葉に、より緊迫した雰囲気が伝染する。
津波のように覇気が駆け抜けて行くと同時だった。
「お、オレ様がギフト陰性なんて何かの間違いだ!こんな結果、受け入れられるわけもないだろ!」
「そうですよ、僕の結果も間違っているはずです!」
「ようやく全員が揃ったか……」
驚いた……。
修行に付いて来れて、良い成績を収める者ほどギフトが覚醒出来るとバッツ教官に叩き込まれてきた。
腰巾着な1593はともかく、あたしをボコボコにした1581までカカシ落ちになっていたとは……。
「…………ッ!?」
そこで何人かが1581の登場で息を飲む。
その数人は特に彼のジャイアニズムの被害者らだ。
いつもは怖くて脅えている彼らも、1581がこちら側と知り安堵しているのかもしれない。
なにせ、ギフト陰性側の味方であり、敵はホワイト博士という構図なのだから頼もしいのだろう。
「話をしよう。ギフト覚醒の可能性ゼロな君たちはこれまでの成績に関わらずカカシ落ちが決定する」
「おい、ふざけんなよ!最強のオレ様がカカシ落ちなんかするわけねーだろうが!なんかの間違いだって言ってんだろうが!」
「そうだ!そうだ!検査結果を改竄してんだろ!」
遅れて来た2人が野次を飛ばす。
すると、それに続き「こんな結果はデタラメだ!」と男子を中心に信じないコールが始まる。
あたしはどうすれば良いのか、悩んでいた。
博士の怒りを買わないか、子供たちに同調しないかで葛藤が起こる。
「結構……、結構。今年は元気な子供たちの集まりみたいだ。君たちにはこれから2つの選択肢を与えよう」
そのままあたしが口を閉ざしていると、ホワイト博士は楽しそうに手を叩く。
その音にみんな反応して、静まりかえる。
「1つはカカシ落ち。カカシになった以上、ギフト所持者のための実験台になってもらう。これまで行ってきた毎日の修行は終わり、カカシとして死ぬまで働いてもらう」
死ぬ……、まで……。
心臓をぐっと掴まれた感触が広がる。
気持ち悪い、気持ち悪いと身体に浸透する。
「もう1つは顔に紋章を刻んでもらう。『ギフト享受の呪縛』ともいう」
『ギフト享受の呪縛』……?
聞いたこともない単語に思考は停止する。
字からは到底意味が通じない。
「これは、ギフト陰性者をギフト陽性者に変える力があるありがたい力だ」
「ギフト陽性者に変わる!?なら、カカシ落ちは……?」
「カカシ落ちも当然なしだ」
あたしが反射的に漏らした言葉に、博士は顔色も変えずに言い切る。
子供たち全員に喜びの色が浮かぶ。
「ただし、君たちが陰性ならもう我々には陽性者にする手段がない。その時は諦めてカカシになってもらう」
もう1つ手段があるんだ!
あたしだってギフトを持てることだって出来る。
明るい光明が見えてきた。
「まぁ、『ギフト享受の呪縛』は危険があるかもしれないのでするかしないかは君たち次第だ」
そう言って『危険があること』を強調する。
そんなことを言われ、決断が鈍っているとホワイト博士は机の上に束になっていた封筒を持ち上げる。
「さて、では君たちの親からもらっている手紙を全員に渡そう。カカシ落ちにならないようにモチベーションを上げてくれたまえ」
1ヶ月に1回贈られる親からの手紙を博士が全員に配っていく。
あたしの手元にも『1605番へ』と書かれた封筒を渡される。
あたしと両親を結ぶ手紙が入っていると思うと俄然やる気も上がってくる。
みんなが親からの手紙を嬉しそうに受け取っている。
「お母さんはピアノの先生で早く施設から引き取って一緒にひきたいんだってー」「僕の父さんは自衛隊で最強なんだー!」など各々親自慢をしている。
あたしは手紙を大事に抱えて、解散と同時に研究室を抜けて、部屋に戻る。
一目散に封筒をビリビリ破り、手紙を取り出した。
─────
1605番へ。
元気にしてますか?
さいきんのお父さんはかんじゃさんが多いから病院が大急ぎだそうです。
いしゃの仕事にホコリを持っているといつも言ってます。
お父さんはバリすごいですね。
お母さんはこないだちょっとふんぱつをして車を買いました。
ふんぱつしてベンツという車です。
すごくはやいです。
ふんぱつしたかいがありました。
1605番といっしょに遊園地に行くのを楽しみにしています。
どうかあなたがギフトが使えるようになって金をかせいだり、ギフト狩りをやっつけることを心からねがっています。
その内むかえに行くよ!
お母さんより。
─────
「お母さん……」
毎月お母さんから贈られるパソコンの字の手紙を何回も何回も読み直す。
こないだまで遊園地をゆうえんちって平仮名で書いていたけど、こないだバッツ教官から遊園地の漢字を習ったからなのか今日は漢字で書かれている。
ちゃんとお母さんがあたしの勉強している範囲まで理解してくれて、良いお母さんなんだなと嬉しくなる。
ベンツがどんな車かわからないけど乗ってみたい、と見たことない車に思いを馳せる。
お父さんとお母さんとベンツに乗って遊園地行って何しようかな!?
返事を出してはいけない決まりだけど(書いても良いけど、届けることが出来ない)、直接親に会ったら何を話そうかな、とか色々考えてしまう。
「よし!」
危険があると尻込みをしていた『ギフト享受の呪縛』とかいうやつを自分でやる決心が付く。
お母さんが期待するのなら、それに応えたい!
そして、お父さんとお母さんと一緒に施設を抜け出すんだ!
そう決心してそのことをホワイト博士に伝えた。
後日。
危険とまで言われていた『ギフト享受の呪縛』の儀式に全員が集まっていた。
動機はやはり『親が期待しているから!』というあたしと同じ人ばかりであった。
そして、あたしの顔に紋章が刻まれた……。
修行に付いて来れて、良い成績を収める者ほどギフトが覚醒出来る(大嘘)
バッツ教官もわかって言ってます。
ヨルの両親って凄い人ですね。
簡易的な登場人物紹介。
1605の父
自分の仕事にホコリを持っているいしゃ。
前回の手紙では院長先生になっているのを1605に報告している。
1605の母
ふんぱつしてベンツを買った。
画家をしているらしい。
前回の手紙では現代のピカソと呼ばれているのを1605に報告している。