IF、ギフトの存在しない世界:幸せ
「いってぇ……」
「勘弁してくれ……」
「情けない……」
俺と関が背中を痛いのをさすっていた。
というか、俺は詠美に文句を言わなくてはいけないのを思い出した。
「てかお前!母さんに彼女が出来たって吹聴したな!何言ってくれてんだよ!?」
「えー?私がおばさんに言ったわけじゃないし……。星子ちゃんに『兄ちゃんに彼女出来たから親を安心させてやりな』って言ってあげただけよん」
「迷惑極まりねぇ!お節介女がぁ!」
「あー、やっぱりひぃ君の性格なら親に報告しないと思ってたけどドンピシャだったね」
「ドンピシャなんだよ!」
親に彼女出来たとか報告するのとかハズイじゃん!
もし別れたとか、逆にイチャイチャしてるとか知られるのハズイじゃん!
俺のプライバシーは、もう1人の幼馴染の手によりないも同然である。
「関……。お前も彼女出来たら詠美経由で親バレすんぞ」
「じゃあ詠美に彼氏出来たら親バレしてやればええやん」
「良いよー」
「良いのかよ」
「うん。親にも弟にも全然OKよ」
仕返しにならなくて理不尽度がうなぎ登りだ。
詠美は無敵過ぎるんよ。
「てかてか、秀頼のクラスに私の従妹の絵美いるんしょ。どうどう?会話した?」
「昨日席替えで隣になったけど、会話はしてねぇ……。てかお前に似すぎてて驚くんだが……」
「可愛い詠美ちゃんに似ているエミちゃん。血筋ね!」
「性格に難ありな気がしてきたんだが……」
「あの子は抱え込む娘だからあんまストレス与えるのやめてね」
佐々木絵美だったか。
名字も名前も顔も似すぎである。
髪型こそ詠美は髪を結わず、逆に彼女は髪を結っているが顔の造形は本当に似ている。
ただ、彼女は目元に黒子があるので、俺の母親と重なり複雑な気分になる。
「でも、まさかひぃ君の付き合っている彼女が私のクラスの──」
「無駄話して電車ヤバいぞ明智。走るぞ」
「おお、そうか。詠美置いて走るか」
「えー!?待って待って!走るの苦手!」
お転婆で活発な性格とは裏腹に、運動神経が壊滅的にダメで体力のない詠美が情けない声を出す。
「よーし!おりゃ!」
「お、おまっ……!?」
「走れ!ひぃ君!」
詠美が俺の首に抱き付き、動きやすいようにしようと俺が彼女の身体をおぶる。
彼女自身が走るよりも、俺に背負われている方が早く駅に着く経験談からくるものだ。
俺の体力を大幅に犠牲し、関と一緒に走り出した。
「はははは!速い!はやーい!」
「……マジ重い」
「はははは!口悪い!わるーい!振られろぉ!振られろぉ!」
「付き合ったばっかなんですけどぉ!?このまま川に投げ捨てんぞ!?」
「不法投棄、いぐない……」
走りながら突然怖いことを言ってくる詠美に突っ込んでしまう。
本当になんつーか、顎で俺を使う女だよ。
「詠美の振られろって本心……?」
「あー、黙ってろーセキィー」
「わかったから頭を掴むな!?」
「ひぃぃぃぃぃ」
重くて疲れるしで息が上がってくる。
体力作りとして詠美をおんぶしているのだが、体力がまだまだ少ない自覚が凹む……。
会話する余裕のある詠美と関が羨ましく思いながら駅まで駆け抜けた。
─────
「朝から散々だった……」
学校に辿り着くと、机で突っ伏して倒れていた。
「秀頼、死にそう……」
「あ?店長の娘じゃねーか」
掛けられた声に振り向くと母さんの後輩のおっさんが運営している喫茶店の店長の娘がツンツンと突っついていた。
「なんだよ?急に話し掛けてきて?」
「ウチの席が占領されてしまい居場所を失いこっちに来た。ボッチ同士仲良くしよう」
「ボッチ同盟に俺を加えるな」
彼女も、詠美も、関もクラスが別なので、俺も言ってしまえばボッチだ。
話し掛けて友人を作ろうと努力するも、その見た目と口の悪さからチンピラと思われるのか常であり、泣きながら財布を差し出されるので高校生デビューは大失敗である。
店長の娘とは、親同士が知り合いだから遠い親戚くらいの距離感で接している。
が、店長の娘は関が狙っている上松ゆりかという女とボッチ同士で友人になったらしい。
そういうわけで、教室での俺はこの女よりボッチなのである悲しい事実が残るのであった。
なんだかなぁ……とクラスワースト最下位に嘆いていると俺のお隣さんが横を通りすぎる。
「おはようございます」
「お、おはよう」
「おはよう!」
詠美の従妹という佐々木絵美という女が席につく。
その際に軽く頭を下げられる。
…………なんだ?
なんなんだ、この違和感は……?
「あっ!席が空いた!」
「?」
「じゃあ席に戻るぞ秀頼」
「好きにしろよ」
彼女が俺から離れて行き、背中を向ける。
その時、ボソッと彼女が呟く。
『…………クズ男』
…………?
世界が歪んだ……?
「っ!?」
気付くと店長の娘は、自分の席を占領していたグループの解散と同時に走り出し、机に座り込み場所を死守する。
そのあまりの必死さに唖然とする。
「ぬるーい!」
嫌そうな店長の娘の顔と声で可哀想に感じてきた。
お隣さんも同情した姿が目に映る。
本当に横顔が詠美にそっくりだなぁと目が離せなくなっていた時であった。
「よっ!お前、明智秀頼って名前なんだろ」
「…………あ?」
俺に話し掛けてくる男子の姿が目の前に立っていた。
中性的な顔をした、黒髪のどこにでもいそうな奴だが、優しそうな雰囲気を持つ男であった。
「俺、十文字タケルってんだ」
「…………?」
「なぁ、俺と友達になろうぜ」
「…………え?」
変な違和感。
はじめて会った気がしない感情が沸き起こる。
なんだ?
なんだ?
俺の人生って、こんなにつまんなくて……?
スリルがなくて……?
女を抱きまくることがなくて……?
こんなに、幸せなんだっけ……?
本当はタケルと出会って終わる予定でしたが、生殺しかなぁと思い、もうちょい続きます。
次回、彼女って誰……?