10、浅井千姫
「あたしはー、今日をー、楽しみに、していたー。ラァー」
「なんだ?オペラ歌手気取りか?」
千姫のテンション上がった鼻歌が声に出ていてしまい、ヨルが突っ込んでしまう。
それくらい楽しみにしていたんだなと、ゆりかは思わず笑みが溢れる。
「だって、だって!ようやくバイト代が支給されたんだし、ワクワクするよね!」
「わかる!バイト代支給は意味ないのにテンション上がる!」
「買う予定のない物を衝動買いしたり!」
「わかる、わかる!」
「お金の計算始めたり!」
「わかる、わかる!」
「突然、可愛いオペラ歌手になってしまったり!」
「それはわからねーよ」
残念ながらヨルに最後だけは共感してもらえなかった。
寮暮らしの生徒は事情がある人も多く、バイトをしている者も少なくない。
千姫も、ヨル同様に日々バイトでプライベートが少ない生活を送っていた。
ゆりかは2人ほどお金には困っていないが、修行も兼ねて引っ越し屋のバイトや木材を運ぶバイトなど日雇いでたまに稼いでいたりしているのである。
力も付くし、金も稼げると彼女的にはおいしかったりする。
「そういえば千姫はどんなバイトをしている?」
「かわ……」
「可愛いバイトはなしだぞ」
「ぶーっ!」
ゆりかが先回りして千姫が言いそうなことを先回りして潰す。
その反応から大正解だったのは間違いないなかった。
「じゃあ問題です。あたしが働く可愛いバイト先はどこでしょうか?」
「まわりくどいぞ。無意味に問題形式にしようとするなよ。パッと正解を言えよ。なぁ、ゆりかだってそう思うよな?」
ヨルが付き合ってらんないとばかりにゆりかへ意見を求める。
「もしかして可愛いをヒントにするならサ●リオショップの店員とかだろうか……?」
「残念違います!」
「む?外れたか……」
「真面目にクイズを受けてやがる……」
残念ながらヨルの相方は千姫に付き合って本気でクイズを当てに来ていた。
「ならばケーキ屋だ!」
「残念!」
「スタヴァの店員!」
「違います!」
「さっきから本気で当てようとしている熱気が凄いんよ……」
ゆりかの目はガチで千姫のバイト先を当てるつもりなのが伝わるほどであった。
もっと本気になることがあるだろうとヨルが少し引いていた……。
「じゃあヒント行きます!サ●リオとかケーキとかコーヒーは可愛いけど店員さんは普通じゃん!あたしは自分が可愛くなりたいから自分が可愛くなれるところで働いてるよ!」
「メイド喫茶だ!」
「にゃんにゃん☆正解☆」
スタチャスマイルの真似をしながら千姫は正解を告げる。
「くっ……、ヒントなしで当てたかった……」とゆりかは悔しそうに呟く。
「…………え?メイドなん?」
ヨルが驚いた声を出しながらじろじろと彼女の顔を見る。
「おいしくなーれ!おいしくなーれ!っておまじないとかするのか……?」
「おいしくなーれ!おいしくなーれ!萌え萌えキューン!」
あざとい声を出しながら千姫はちろっと舌を出す。
なんか突然知り合いが遠くへ行ってしまった虚無感がヨルを襲った。
「ささっ!そんなことどうでも良いから出発しよっ!」
「オムライスのケチャップサービスもあるのか!?」
「するする!ハートから星からキ●ィちゃんも可愛いものならなんでも書くよ!」
「おおっ!行きたい!行きたい!我、師匠連れてメイド喫茶行くぞ!」
「師匠でも恋人でも誰連れてもOK!」
「そ、そんなっ!恋人だなんて……!師匠とキスしてイチャイチャしたい……」
「バカ言ってねーで行くぞ」
ヨルが2人に塩対応になりながらさっさと脚を動かして消えてしまう。
「待って待ってー!」とヨルに置いて行かれないように2人があとから続くのであった。
そのまま目的地であった本屋と一緒になっているCDショップへと流れ込むのであった。
次回、スタチャはみんなのアイドル!