2、上松ゆりかは召集される
「いい加減、我をギフト狩りの召集に呼ぶのを止めて欲しいのだが……」
「お、オレじゃねーよ……。上松だって先生から呼ばれて来たんだろ……」
この日、上松ゆりかは教師である瀧口からギフト狩りの召集命令に昼休みの時間を潰して狭い相談室へと姿を表した。
それに少し不服と思いながら、ゆりかは関を責めるような口調で弄る。
「…………」
ギフト狩りから足を洗ったとはいえ、完全に関わらないというのは不可能なのはゆりかでも薄々勘づいていた。
自分が裏切り者として処分されるくらいなら、穏便に済まそうと、こうしてわざわざギフト狩りの集まりへと参加させられていた。
「やぁ、ゆりか君久し振りだね。関もご苦労様」
2人で数分気まずい空気でいると瀧口が人当たりの良い顔をしながら教室へ入ってきた。
この教室は瀧口のテリトリーであり、ギフト狩り以外の生徒は滅多に現れない為、間接的にギフト狩りの召集場として用いられていた。
「先生!我はギフト狩りを止めた身だ!なぜ、事あるごとに我を呼びつける!」
「おい、上松。先生に失礼だぞ」
「良いんだよ関」
瀧口が気にしない様に笑って関を止める。
「僕がゆりか君を気に入っているからだよ。別にギフト狩りの仕事を君にさせるつもりもない。ただ、やはりたくさんの情報を持っている君を野放しにすると仲間たちから良い顔されないからさ。『殺せ』って意見も出ると悪いし、一応まだギフト狩りに名前だけは置いている状況なんだよ。だからわざわざ2、3年を不在にして1年だけで集めているんだ」
「じゃあ、いつまで我はギフト狩りに名前が残ることになる?」
「卒業までかな。卒業したら結婚したから引退とかでっち上げておくよ。だから高校の内は最低限召集には応じて欲しいかな」
「…………仕方ないか」
実際問題、関からも『ギフト狩りを脱退したのは1年生しか知らないことになっている』と説明されている。
瀧口の言う通り、上級生を呼ばない辺りはこの2人は脱退したことを隠してくれているらしい。
「…………そういえば1年のギフト狩りといえば3人だろう?1人が見当たらないが?」
「あいつなんか呼ぶわけねーだろ!?」
「…………まぁね」
関が慌てた声でゆりかに話しかけ、瀧口もやや苦笑いである。
もう1人のメンバーとゆりかは面識があるが、2人のこのなんとも言えない態度もよくわかる。
わざと呼ばなかったんだなと察してしまう。
「それで今回の話だが、ギフト狩りのブラックリストであった沢田谷梅子が死亡したらしい」
「沢田谷……」
「あの『ゴーストキング』とか呼び出したり、呪いとか実行するやべえババアっすよね!?あいつ死んだんすか!?」
ギフト狩りからマークされていた危険人物の死亡を瀧口から報告され、ゆりかも関も衝撃が走る。
「うっひゃー!それはなんか安心して生活できるっすね!」
「とあるキャンプ場で干からびた遺体になって見付かったらしい。その死に様からゴーストキングの仕業として調査しているらしい」
「因果応報っすね」
「監視カメラもない田舎の出来事だから、真実はわからないけどね。まぁ、こっちとしてはゴーストキングの仕業って方がありがたいから、そうするようにとギフト管理局へ伝えているよ」
「先生権力つえー!」
関が興奮しながら瀧口の報告に食い付いていた。
それを複雑な心境でゆりかは聞いているのであった。
「どうだい、ゆりか君?昔、君を保護してくれた柴田を殺した犯人が死亡した報告は知りたかっただろう?」
「…………そうですね。報告してくれてありがとうございます」
ゆりかは瀧口に頭を下げた。
遠い過去だが、自分が弟を殺された時に助けてくれたギフト管理局の職員。
その職員を殺害した女の死亡はこの場に来るのに充分な情報になった。
本当にゴーストキングが殺したのかはわからない。
ただ、もし仇を討った人がいるのであればお礼はしたいと考えるゆりかであった。
「では、そろそろ我はお暇を……」
『させていただきます』とゆりかが続けようとした時であった。
「きゃはははは」と女の笑い声と共に、相談室へ乱入してくる1人の女の姿があった。
「きゃははは。ギフト狩りめーっけ」
コーラ味の棒付きキャンディを口に加えながら派手な出で立ちをした女性が3人の前に姿を現した。
「チッ……」と瀧口が舌打ちをする。
ゆりかだけがその舌打ちに気付いたのだった。
「おい、お前のその態度はなんなんだよ!?」
「あん?何あんた?リーダー気取り?雑魚の癖に吠えるなー、関ぃ」
「なんだお前!?」
黄色い髪に青いメッシュをして、長い髪をツインテールにした派手な化粧をした女は関を煽るように呼ぶ。
その態度に切れた彼は、敵意を見せて怒りをぶつける。
またこうなったと思い、ゆりかは心でため息を吐いた。
「だって、アタシ最強だし。リーダー気取りのお前が気に食わないだけよ」
「はぁ?気取ってねーよちんちくりんが!」
150センチほどの女を前に、関が普段ゆりかには見せない態度で接する。
「きゃははは。自分のギフトを持たずに乞食のように他者からギフトをパクる卑怯者の関君の言葉なんか何も響きませーん。きゃは。アタシのギフトも使いこなせないでコピーとか烏滸がましい」
「てめぇのギフトは扱い辛いんだよっ!誰がお前のギフトなんか使うか!」
「きゃは。使えない言い訳乙ー」
キャンディをバリっと噛みながら、関から興味を無くしたように次はゆりかへ目線を向く。
「あれ?あれれー?裏切り者のゆりかちゃんじゃん?久し振りだねー」
「相変わらずうざったい奴だ……」
「うわー、ひどーい。麻衣ちゃん、泣いちゃうぞ」
「好きしろ」
「うわ、ムカつく」
低音の素の声で演技ががった口調を止める。
それからまたニコッと笑い、先ほどの馬鹿にした言葉でゆりかに歩み寄る。
「いつから弱っちいゆりかちゃんは生意気な口を聞くようになったのかなー?バリっと丸焦げにしてやっても良いんだよぉー」
「我がお前に勝てぬのはギフトの差だけであって、ギフト無しなら我のが強い」
「は?なに、あんた?論点すり替えとかクソ雑魚のクセに生意気」
「仮にもギフト狩りがギフトの強さでイキるのはどうなんだ?はっきり言って岬の強さには全く憧れないな。自称最強とやら」
「…………カッチーン。ゆりかちゃん、良い度胸してるわね」
「別に我は岬と揉めるつもりはない。だから我は退かせてもらう」
そう言ってゆりかは岬麻衣の横を通り抜け、相談室から出て行く。
完全な塩対応に彼女も興醒めとばかりに相談室から出て行く。
「おー、こわぁ……」
関はギスギスした女の争いを観戦しつつ、不本意ながら味方の岬麻衣ではなく、ギフト狩りを抜けたゆりかを応援してしまっていた。
「はぁ……。本当にどこから僕たちがミーティングをしているのを知るのか。ハイエナ女め……」
岬麻衣の言わせたいことを言わせて黙っていた瀧口は嫌そうな顔で彼女が出て行った入り口を険しい顔で見ていた。
「関……」
「はい、はーい」
「麻衣君が何か事件でも起こしたらギフト狩りとして彼女を始末しろ。殺しても構わん」
「げぇ、オレじゃあの女をどうにかするなんて無理っすよ。それにあれでも一応味方じゃないっはすか」
「はっきり言ってさ、優秀な敵以上に無能な仲間ってのは厄介でね。僕のギフト狩りの理想からあまりにかけ離れている。彼女は要らないな。……現1年のギフト狩りは関だけだねぇ……」
瀧口は抜けるならゆりかではなく、麻衣だったらなと無い物ねだりで考える。
「最近はギフト狩りを探るネズミも要るみたいだ。本当に思い通りに行かないねぇ」
彼女が瀧口について聞き回っているのは、本人の耳にも届いていた。
だからといってまだ何もしていない女をどうこうするつもりはギフト狩りにはなかった。
「もう少しでギフト狩りはもっと大きな組織になる。ギフトが蔓延る間違った世界は終わりにするんだ。僕たちの手で……」
ギフトを憎む声が室内に響く。
ギフト狩り集団。
組織が大きくなるまで、すでに秒読み状態になっていた。
ゆりか、関、瀧口の3人からマジで嫌われている自称最強の岬麻衣ちゃん。
和とは別ベクトルのメスガキ。
ギフト狩りも一枚岩ではありません。
男しか敵として出ないなとか言われたくないので、純粋な敵陣営の女キャラクターです。
敵に女の子がいると華やかになりますね。
次回、んなことは置いておいて女になった秀頼は教室に行き……。