67、谷川流は応援される
「まったく……。私が秀頼の教育を疎かにしていたのを反省しているわ」
道を歩きながらブツブツネチネチと俺に言葉の刃で切りかかってくる。
こんなに俺とマスターと叔父に呆れを隠さないおばさんははじめてである。
「…………教育を疎かにしたと嘆くなら、虐待されてた時にもっと叔父に反抗すれば良かったのに。そういう姿をもっと俺に見せてたら、違う性格だったのになぁ……」
「私が強く出られない過去を弄るわね……。そういうところは弟に似て本当に可愛くないし、あんたはメンタルが強すぎるのよ」
「見た目は子供、頭脳は大人を地で行くからな」
「大人というなら、おばさんに彼女の姿くらい見せて欲しいくらいだわ」
「…………いねーんだわ」
「絵美ちゃんとか理沙ちゃんとか秀頼の周りは可愛い子多いじゃない。あの子らへんと付き合っておばさんを安心させて!」
「いや……、おばさんに彼女の姿を見せたいからとか中途半端な動機や気持ちで付き合えないって……。でも、さっき叔父さんは『俺は秀頼も男だと知って安心したわ』って言って安心してくれたよ!」
「あんなダメ人間の言うことなんか真に受けるの止めなさい!」
「ダメ人間って……。まぁ、俺の知人で1番のダメ人間には違いないが……」
反抗期が無かった中学時代だったので(前世ではバリバリ反抗期があったが……)、ここまでガチの言い争いになるのは小学生の時以来である。
マスターの経営する喫茶店に近付き、おばさんが『OPEN』の立て札を『CLOSED』に回してしまう。
「あぁ!?ただでさえ人が来ない喫茶店なのになんてことを!?」
「親子揃ってウチの家系は経営が下手なのよ。少しの間だけだから。ほら、行くわよ」
「はーい……」
おばさんに引きずられ、ガラガラの喫茶店に放り込まれた。
「お?いらっしゃーい。秀頼君じゃん。いつ帰ったの?」
「さっきだから昼過ぎだね。相変わらずガラガラだな」
「本当に君は口悪いな。ところでキャンプはどうだった?」
「あ、あぁ。藁人形を打ち付けている死神ババアに遭遇して殺されそうになったよ」
「藁人形?死神ババア?よくわからんけど、君も色んなことに巻き込まれるねぇ……」
「とりあえずいつもの」
「はいはい」
「何、寛ぐ気でいるのよ!?それに弟!」
「うわっ、姉貴!?」
カウンターに座ってキャンプでの出来事トークをする流れになりそうなところで、おばさんがマスターの前に現れ、不機嫌さを隠さないで話しかけた。
「ははっ、マスターびびってらぁ。よっぽど姉に弱いんだな」
「笑ってるけどあんたも当事者よ……。というか藁人形とか死神ババアって何よ……?」
「さぁ?なんなんだろうね?」
俺が知りたいくらいである。
「俺の人生で絶対起こることはないと思っていたおばさんとマスターが俺の目の前で会話するが実現して感動している」
「安い感動だな」
「あんたたち、いつもこんな会話してるの……?」
「まぁ、マスターは俺の兄貴みたいな人だから」
「娘と同い年の弟か……」
「その理論なら私の弟は息子になるんでない?」
マスターが「俺はあんたの息子になんかなりたくないよ」と毒を吐く。
いつも僕が一人称のマスターが、おばさんと会話して一人称が俺に変化したのははじめての出来事である。
「姉貴と会うのも5年ぶりくらい?久し振りだねぇ」
「久し振りね弟」
「姉貴もなんか飲んでいく?ダイエットコーラフロートが新メニューで出来たんだ」
「そう。ならエスプレッソで」
「ガン無視されてんな弟」
俺が突っ込むと『だから苦手なんだ……』という顔をしている。
姉持ちの弟って大体姉の方が強いからね、仕方ないね。
3分程度ごちゃごちゃと動き、エスプレッソを淹れるマスターは俺とおばさんの目の前にコーヒーを置いた。
おばさんはブラックでコーヒーを口に付ける。
「あら?昔より腕を上げたんじゃない?」
「秀頼君好みにエスプレッソが出来上がったんだよ。いつの間にかウチの名物になっちゃったよ」
「俺が厳しく育てました」
「秀頼が保護者の私より、弟に懐くとか複雑の域越してるんだけど」
「秀頼君ってそもそも僕に懐いているの?」
「普通だよ、普通」
「この子、照れ屋だからそういうこと絶対はぐらかすよ」
「なんだ、僕に懐いていたのかよ」
「…………」
谷川姉弟2人から弄られてしまう。
俺はエスプレッソを飲んで苦味を摂取し、顔を歪ませる。
マジで帰りたい空間である。
「んで、秀頼君は良いとして、姉貴は本気で何しに来たの?」
「本気で弟を叱りに来ました」
「他のお客様に迷惑なので帰ってください。出口はあちらです」
「そもそも私と秀頼しか客がいないじゃない。それに店をクローズ状態にしているからしばらく客入らないよ」
「勝手に何してんだボケ!商売の邪魔でしかねぇ!」
そうだ、そうだ!
言ってやれマスター!、と保護者より喫茶店の店長の応援をしていた。
「それくらい真面目な話があるのよ。この子についてのね!」
「…………」
「はぁ……。わかったよ。少しの間だけだぞ……。どうせ客が入らない時間帯だし」
態度も顔も嫌だと物語るマスターがしょげながらおばさんの説教に耳を傾けた……。
客なんか来ない時間だからと自分を納得させていた。
そうでないと姉の説教に耐えられないらしい。
─────
「え!?日曜なのに店閉まってる!?スタヴァのバイト前にコーヒー飲みたかったなぁ……」
サンクチュアリの出入口に表示された『CLOSED』の文字に女性が涙目で惜しんでいる声が響いたのだった……。
「うぅ……。バイト前の楽しみが……」
女性は「今週末は運が悪いなぁ……」と嘆きながら喫茶店から離れてしまうのであった。
マスターが1人の客を逃した瞬間であった。
おばさんは虐待が終わってから若くなった
by秀頼
秀頼君のおばさんは年を重ねるごとに若くなっていっている気がする
by絵美
おばさんについての補足。
おばさんは秀頼のことを実の息子の様に可愛がっている。
しかし、秀頼からの距離が遠いことにも勘づいており、寂しく感じている。
虐待の負い目もあるが、それも込みで秀頼に愛情を注いでいる。
秀頼が年齢の割りに大人びていて、大人に頼らないのでふらっとどこか遠くへ行ってしまうことを恐れている。
そんな不確定に見える秀頼が1番心を開き、笑顔を見せることの出来る絵美が嫁に来ることをおばさんは切実に望んでいる。
叔父とは籍を入れた夫婦だが、特に夫婦らしいことはしていない。
お互い良い年して離婚するのも面倒だし、再婚願望もなく、ただ一緒に友達同士で暮らしているといった感じになっている。
虐待については、一応3人共和解しているが、叔父が虐待の負い目から2人に強く出られない。
叔父とおばさんの仲はそれなりに良好。
一応叔父が改心したのは秀頼のギフトありきなので、ギフトの効果が解けたらどうなるんだろうね……?
秀頼は今の日常が壊れることが怖くて、叔父のギフトを解くことが出来ない。
そういう意味では、2人を家族として信頼はしていても、まだ信用はしていない。
おばさんも、薄々そういう秀頼の複雑な心境をわかってはいるが踏み込めない。
そこそこ歪んだ家族ではある。
秀頼的には自分が社会人になり家を出るまでの家族、数年以内には死ぬかもしれないから家族については後回しなどドライに割り切っている。
秀頼が信頼と信用の出来る親が欲しいなら、咲夜と結婚すれば良いんじゃないかな。
スタヴァネキの補足5選。
バイト前はサンクチュアリでコーヒーを飲むのが日課。
健康のため、歩くことを心掛けている。
コーヒー好きで、スタヴァでバイトをはじめた。
妹がいる。
地獄●女の声に似ている。
次回、叱られる……。