49、遠野達裄は水に流す
「やぁ、よく集まったね。それに久し振りだね、タケル」
「おはようございます」
突然『修行しない?(^^)/』と達裄さんにラインで誘われ、すぐに『行くε=(ノ゜Д゜)ノ』と返信した。
するとキャンプをするとのことであった。
普通に楽しそうだし、キャンプ自体は無人島経験もあり久し振りだが慣れっこである。
それをタケルに話すと『理沙が女子会でいないから俺も行く!』と言われたのでこうして3人のキャンプが決定した。
お金は全額負担するし、キャンプ用品もほとんど準備しているから汚れても良い服と着替えと日用品くらい持ってくればOKと言われたので、俺もタケルも軽装である。
そして、達裄さんが駅前から車を出すことになっていた。
「よし、それじゃあ運転するからシートベルトしろよ」
達裄さんが車の後ろの席に座る俺とタケルを目視する。
きちんと安全を確認していて、こういう周りに気が配れる人物に憧れる。
俺の中で達裄さんが理想の男の図になってしまっていたりする。
「あっ、そうだ。これは絶対に肌身離さずに持っているんだよ」
「?」
手を伸ばした達裄さんからお守りのようなものを2つ手渡された。
「お守りですか……?」
「あぁ、見たまんまお守りね」
タケルの質問に肯定する達裄さん。
……思えば、この時に嫌な予感があった。
何故キャンプに行くのにお守りが必要なのか。
不気味さが車内に漂う。
キャンプをここで止めていたらと後からにして思う。
「ははっ。まぁ、危険なんか起きませんようにっていう願掛けだよ」
「そ、そうですね!確かに山の事故とか怖いっすよね!ほら、タケルのぶん」
「あぁ……」
「ポケットに入れておきな。そして、必ずキャンプ中は携帯しておくんだ。絶対だよ」
達裄さんは何回も念入りにお守りの携帯を念押ししてくる。
俺とタケルが無言で顔を合わせ、嫌な予感を察すると同時だった。
無情にも達裄さんの車は走り出した。
「どう?最近学校楽しい?」
「ま、まあまあですね」
「授業は難しいっすね」
「そうかい、そうかい。部活に入ったらしくて中々秀頼も修行の時間取れなくなったみたいで。身体、鈍らせるなよ?」
「ランニングと筋トレはきちんと毎日しているんで」
「そうか」
他愛ない話もしながらも、俺とタケルはソワソワしていた。
お守りの感触がポケットから伝わると同時に嫌な予感が過る。
「旨い肉とか準備しているから楽しみにしとけよー」
「それが醍醐味っすね!」
「…………」
タケルが少し不安な顔を見せるとこっちも不安になる。
どうにか探りを入れたいが、踏み込めないタケルの態度には気付いている。
だから、俺は口を開いた。
「達裄さん!」
「……なんだい?」
この気まずい車内の雰囲気に気付いていないのか、気付いていて知らない振りをしているかはわからない達裄さんは、この時ばかりはトーンが低い。
「その……。今から行くところって心霊スポットじゃないっすよね?」
「心霊スポット……?全然違うよ。寂れた村だよ」
「村?」
「あぁ。川と山があって穏やかなところさ。幽霊が出るなんて事例は聞いたことないな」
達裄さんの頼もしい声が聞こえる。
良かったぁ、とタケルと顔を見合わせた。
「あぁ。間違いなく幽霊は出ないよ」
達裄さんがそうやって優しい声で肯定した。
「来たぞ、山ぁ!」
「来たぞ、川ぁ!」
「ははっ、元気だなぁ……」
それから夕方頃に目的地だというキャンプ場に到着する。
達裄さんは運転に疲れたのか、ヘトヘト状態であり、『ケツが痛い』と言って突っ立っていた。
車が停められた付近にボロい立て札があり、消えかかった字で『キャンプ場』と書かれている。
「にしても他のキャンプ客いないっすね」
「良い景色の場所なのにね」
駐車場には達裄さんの車しか置かれていない。
まるで、世界にこの野郎3人しかいないんじゃないのかと勘違いしてもおかしくないくらいに静かで和な場所である。
「達裄さん、ここ本当にキャンプして良い場所なんですよね?」
「きちんと許可は取ったよ。別にこの辺は自由にキャンプが認められる土地だしね。ほら行くよ」
達裄さんが荷物を持ちながら歩き出す。
俺もクーラーボックスを持ちながら達裄さんに着いて行く。
案内掲示板とかを見なくてもスタスタ歩くので、達裄さんは慣れているのかもしれない。
「ん?」
「どうした、タケル?」
「いや、ロウソクがあった……。それだけ」
ドロドロに溶けたロウソクをタケルが発見する。
ただ、泥の付き具合や白い蝋が目立つので古いモノではなく、新しく見える。
「なんか真新しいな」
タケルも同じ意見なのか、古いロウソクという感じがしないようだ。
「ほら、真新しいロウソクがあるなら最近ここを利用した客がいるんだよ」
達裄さんがそうやって解説する。
どことなく達裄さんはロウソクを視界に入れないような動きをしている様に見えなくもない。
人間観察の力を達裄さんに教えられ、永遠ちゃんの体重が原作より重いことに気付くくらいに高くなったスキルが、まさか教えられた達裄さんをその人間観察をすることになるんだから奇妙な縁である。
「あっ、なんかノートがある」
草むらの上にノートを見付けた。
少し水に濡れている気はするが、どう見ても最近ここに捨てられたというくらいに表紙には原型があった。
「ロウソクやノートだったり山への不法投棄が多いみたいだな」
「まったくだよ。本当に酷い話だ」
それが昔とかならわかるが、現代もまだ捨てられていることに憤る。
こんな山を汚すようなゴミを捨てるバカはどんな奴なのか気になりノートを広げる。
「子供の日記っぽいな」
「あぁ。しかも日付が今年だ……」
タケルが俺の横から日記を覗き込む。
ところどころ汚れていたり、濡れていたりで字が見えない箇所がある。
『今日、お母■ん■■父さ■へのうら■をぼ■にこぼ■。うらぎ■■、う■■った■■■ぎった、うらぎった、うらぎった、うらぎった、うらぎった、■■ぎった、うらぎっ■■■■■■■■うらぎった』
「…………なんかおかしくない?」
「いやいや、『うらぎった』って平仮名を練習してたんだよ。ほら、次のページは多分学校の楽しい思い出が綴られているって。ほら、次のページ開いてみ?」
タケルに促されてぺらっと次のページを開く。
『しんじくんがぼくをけっ■。バ■やろ■、ア■、死■。だか■、ぼ■■■んじくんにやり■■■たら、先生がぼくだけ■しかる。■■さない、■るさない。死ね、しんじ。死ね、先生』
「…………タケル?」
「ほら学校の楽しい思い出がたくさん……な?」
「いやいや、これいじめの内容だってば!?ねぇ!?」
「違うよ、たまたまだよ。ほら、次のページ行って」
気まずい雰囲気のまま次のページを開く。
『これを見てるだけのやつ、ぼくはゆるさない』
「こええ!?なぁ、なにこれ!?なにこれ!?」
「……て、テレビ局に持っていくか!」
「どんな神経だよぉぉぉ!」
このページだけは見たくなくて急いでページを開くが、白紙だった。
そして、また白紙、白紙、白紙と続く。
「な、なんだよ。これしか文章書いてないとかノートがもったいないよ」
「それ突っ込む?」
理沙と同じく的外れな突っ込みをするタケルに突っ込んでおく。
そして、また白紙が捲られた時だった。
「っ!?」
黒い線がごちゃごちゃと書かれてあったノートがあり、俺とタケルが息を飲む。
そして、黒い線がノートから地面に落ちる。
「うわっ!?」
「っ……!?」
そして、ノートは白紙になっている。
いや、違う。
黒い線が書かれてあったというのは誤解であり、実はたくさんの髪の毛がノートに挟まれていたようだ。
それが、俺とタケルの足元に落ちる。
「あわわわわ……」
「無理無理無理……」
その落ちた髪の毛を視界から隠すようにノートを置いた。
意味がわからなすぎて脳が落ち着かない。
俺はまるで『悲しみの連鎖を断ち切り』というゲーム世界から、どっかのホラーゲームの世界に再転生でもしてしまったのかと震える。
「た、達裄さぁん!」
タケルが恐ろしくなったのか達裄の名前を呼ぶと振り返る。
「ん?」
「かみっ、髪の毛が!?の、ノートに!?挟まれて、落ちて……」
「神挟みか……」
「は?」
達裄さんは冷静にノートと髪の毛を取り、ライターで燃やした。
「神挟み。または髪鋏ともいうね。恨みを髪に込めて鋏で切る文化だね。恨みを持つ人物に憑いて守っている守護霊を悪霊に変換させるようにするおまじないさ。不幸が訪れますように、この不幸をただ眺めている人物も同罪だ。……そんな恨みが籠ったノートだ」
達裄さんが暗い視線を向ける先で徐々にノートと髪の毛が灰になっていく。
そして、俺が持っていたクーラーボックスから水を取り出して、その水をノートにぶっかけた。
「神様、このことは水に流してください」、そう呟いて達裄さんはお祈りをする。
俺らにもちらっと視線を送ってきて、意味を察して目を綴じて、掌を合わせた。
「さて、キャンプをするか」
「どんな神経なんすかぁー!」
達裄さんの切り替えの早さに俺は突っ込んでしまうのであった……。
同じ時系列にある女子会も順番にきちんと描写します。
次回、キャンプは続く……。