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43、鈴【洗脳】

「どうした美鈴?」

「なに、その箸?」

「こ、これか?これは……、贈り物だ」


お姉様が嬉しそうに微笑んでいた。


「…………彼氏?」

「そ、そうだな。……うん。彼氏だ」

「…………」


タケルさんとお姉様の告白シーンを目撃した夜、普段のお姉様からは考えられないほどに女の顔をしていた。

そんな顔が見ていられなくて、部屋に引きこもる。


「……っ!……このっ!」


お姉様の部屋目掛けて枕を投げ付ける。

それだけではイライラは収まらない。


「くっ……、熱いよぉ……。熱いんだってばぁ……」


紋章がまた酷く疼く。

呪いがキツくて、失恋がキツくてまた声を殺して泣く。


大好きなお姉様。

本当にあなたが殺したくて殺したくて堪らないです。


それからずっと苛立ちが溜まる日々が続く。

たまにお姉様とタケルさんの歩く姿を目撃すると、紋章から顔が崩れそうな痛みが走る。


屋上でキスした場面も隠れて目撃した。


「…………ぁ」


美鈴が隣に立ちたかったポジションは、全てお姉様に取られてしまった……。


もう、美鈴にはタケルさんを忘れるしか方法がないと世界に告げられた気持ちだった……。







それから数日間、失恋を忘れられないでいた時であった。


「こんにちは、深森さん。また相談に乗るよ」と瀧口先生に誘われてこないだの教室に呼ばれた。


「僕はずっと深森について考えていてね」

「はい……」

「もしかして本格的に失恋しちゃったかい?」

「はい……。先生、こんな時はどうすれば良いのでしょうか?」


お姉様が憎い。

憎悪が渦巻き、常に落ち着かない。

美鈴が抱える爆弾が爆発寸前であった……。


「良い子ちゃんでいる必要があるのかな?」

「……え?どういうことですか?」

「抱え切れない気持ちを抑える生き方が正しいのかな?」


普段の優しい雰囲気はガラリと変わり、妖しく嗤う。

鋭い目が美鈴を貫いた。


「……『Αυξημένο μίσος』」


こないだのように先生は祈りの言葉を口にする。


「深森……、これを君に……」


黒いビンを手のひらに乗せられる。

液体がびちょびちょと音が鳴っているのが聞こえる。

すぐにそれが何か理解した。


毒……?


「な……、なんですかこれ……?」


手がブルブル震える。

先生の冗談なのかわからないが、小指程度の大きさなのにビンがとても重い。


「これを君のお姉さんに飲ませるんだ。手段はなんでも良い。憎い相手にこれを飲ませたらあら不思議。目の前から消えるぞ」

「…………っ」


なんで?

なんで美鈴は瀧口先生に毒なんか渡されているの?


「『Αυξημένο μίσος』」

「あ……」


憎い……。

お姉様が憎い。

双子なのに何もかも恵まれているお姉様がズルい。


「君のお姉さん。深森美月はこれまでの人生で残していた処女を十文字タケルに捧げているぞ」

「…………」

「そして、十文字タケルも童貞を美月に捧げるんだ」

「……」

「妹の恋心に気付かぬまま、……ロマンチックな夜を明かし、産まれたままの姿のままずっとキスをしているんだ」

「…………」

「許せないよなぁ?自分が夢に見ていたことを顔に紋章がなく美しいと理由だけで美月は簡単に十文字を落としてみせたんだ」

「っ!」

「『Αυξημένο μίσος』」

「…………」

「はじめよう、月と鈴による泥沼の姉妹喧嘩を!」


美鈴はビンを持ち立ち上がる。

あんなに重くて持ち上げられなかったビンは片手で簡単に持ち上げた。


「ありがとうございます、瀧口先生。大事に使わせていただきます」

「ふふっ。僕はいつだって生徒の味方だよ」


瀧口先生は優しい顔で、美鈴を見送った。

そのまま教室を出ていく。

もう、美鈴の頭にはこの毒をお姉様に飲ませることで頭が支配されていた。













「美しい姉妹愛じゃないか……。さぁ、もっともっと人生を狂わせるんだ。歯車が取れるくらいに噛み合わない不協和音を続けるんだ」


瀧口は1人、自分の憎しみを口にして明日の出来事を楽しみに待つのであった……。





─────





夜に美鈴は帰宅する。

美鈴の迷いが中々マンションまで足を運ばなかった。


「ふぅ……」



お姉様を殺す。



それは確かに今まで何回も悩み、悩み続けてきたけどやらなかったこと。

いや、やれなかったこと。


大好きなお姉様。

でも、タケルさんに手を出す泥棒猫は、美鈴は許せないの。


「…………」


明日の弁当に使うであろう調味料に毒の液体を混ぜておく。

目分量とかよくわからなかったから3滴ほど振り掛ける。


後は何事もなくシャワーを浴びて眠ってしまえば

この作業は終了だ。

美鈴は裸になったまま、ずっと心臓がバクバクしたシャワーを浴びる。


今の美鈴の気持ちはなんだろう?


歓喜?

困惑?

戸惑い?

後ろめたさ?

罪悪感?

恐怖?

後悔?


多分、全部が該当している。


ベッドに入る前なのに、脳はずっと覚醒のしっぱなし。

人生で1番長い寝苦しい夜が始まった……。

瀧口のギフト、よくよく考えると秀頼の下位互換だわ……。

一瞬で洗脳できる秀頼に比べたら、E級スペックの低さが露見しますね。






次回、鈴編終幕。

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