表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

286/889

42、鈴【『憎悪増幅』】

「…………」


殺すとは言っても、結局美鈴は口だけだ……。

何年も前からお姉様が憎くても、美鈴は行動に移せない……。


『わたくしもタケルを彼氏と自慢すること』

『ッ!?す、好きです美月!』

『た、タケル!?』


遠くから美鈴はタケルさんとお姉様の告白を眺めていた。

拳に力が入る。


壊してやりたい、そんな衝動が美鈴に駆け巡る。


「……ははっ、ははははは!……ははっ……」


校舎の人の居ないところまで走り、涙が流れる。

見たくない光景が繰り返される。



乙女なお姉様。

お姉様しか見えていないタケルさん。



美鈴に向ける顔よりも優しく。

美鈴に向ける顔よりもたくましく。

美鈴に向ける顔よりも異性として意識する。


タケルさんの顔が気持ち悪くなり、嫌になる。

どうしてその目を美鈴に向けてくれないの!?




『何やら穏やかじゃないね?』

「っ!?」


美鈴が蹲り、声を出すのを我慢して泣いていた美鈴に男性の声が聞こえてくる。

その声に驚愕し、反射的に振り返ってしまう。


「ど、どうしたんだい?深森さん!?」

「た、瀧口先生……?」


20代半ばくらいでメガネの掛けたやや頼りなさげな教師が美鈴の前に現れた。

ギフト総合を教える先生として、美鈴らと同学年の生徒の授業を請け負っている人だ。


「もしかして泣いているのかい?い、虐めかい?」

「……いえ、そんなんじゃないです」


そうやって瀧口先生に声を掛けるも「本当に大丈夫かい?」と人の良さそうな顔でアワアワとしている。

冴えない人であるが、生徒からは慕われていることと、まだまだ若い見た目で人気も高い教師であるらしい。


「そ、そうなのか……。とっ、とりあえず話を聞こう」


慌てながら瀧口先生は美鈴を人気のない教室に連れ込み、椅子に座らせた。

それを見届けた彼も、続いて腰を下ろして口を開いた。


「…………『Αυξημένο μίσος』」

「ん?なんですか、それ?」

「あぁ、すまない。これは僕の癖でね、祈りの言葉だよ。気にしないでくれたまえ」

「そ、そうですか」


英語ではないのはわかる。

やや不気味なことを呟くが、祈りの言葉というのであれば特に気にしない方が良いかもしれない。


「それで?僕はずっと前から深森さんの顔とかも気になっていてね。『ギフト享受の呪縛』だろ、それ」

「え?わかるん、ですか……?」

「おいおい、まだまだ教師としては未熟でもギフトの知識はたくさんあるんだぞ。言える範囲で良い。君の辛さ、嫉妬、憎悪……。全て吐き出してごらん。僕が全部喰らい尽くすよ」

「美鈴に紋章が付いたのは深森家の話に入ります……」


美鈴は語り出す。

お父様、お母様、お姉様、見捨てた友達への憎しみ。


タケルさんとお姉様の恋愛関係。


瀧口先生が促したことを全部洗いざらい吐いてしまう。

今まで溜め込んだ気持ちを晒してしまう。

それを先生は「そうか」と何回も頷きながら話を聞いていく。

気付けば1時間以上は先生に人生相談をしてしまっていた。

最後に、『この気持ちをどうすれば良いのか?』、それを尋ねてしまう。

すると、先生も同情して頭を悩ませている。

その姿勢から親身になっているのがよく伝わる。


「なるほど、なるほど……。よし、先生に任せなさい」

「任せる……?」

「あぁ。せっかく深森が全部僕に打ち明けたんだ。その気持ちに僕が後日答えるよ。準備があるからね、数日待ってくれ」

「は、はい!」


そう言って瀧口先生は笑った。

今日はとてもスッキリした。

身内には絶対明かせないコンプレックス。

募らせた気持ち。

それらを第3者に打ち明けただけでも気分は爽快だった。


「ふふっ、気分が良い。お姉様に何を言われても許してしまいそうなほどに」

「そうかい。なら、今日は遅くなったしさよならだ」


そして、美鈴はお礼を告げて教室から出て行くのであった。








─────






「面白い子だなぁ。コンプレックス拗らせるくらいなら爆発でもしちゃえば良いのにさ!」


瀧口は美鈴を嘲笑うように素の声を出していた。

1時間話を聞いた割りには、時間の無駄だったかと退屈であった。


「ちーっす、どうしたんすか先生?なんでオレだけ呼びつけ?」

「来たか関」


美鈴との会話に飽き飽きしていて、美鈴が消えたら入れ替わりで関翔に対して教室へ入って来るように指示をする。


「生徒に在籍するギフト狩りの中でも特別君を呼んだのは理由があるんだ」

「理由ですか?」

「まだ確信はないのだが、多分あの日に上松ゆりかを殺した犯人に辿り着けるかもしれない」

「ま、マジっすか!?」


故人である上松ゆりかから『クラスメートを狙う』と一言メッセージが送られてすぐに遺体で発見された謎が明かされそうと知り、関は驚愕していた。

少なくとも彼女のクラスメートだけでも30人以上の容疑者がいて、関には探しようがなかった。


「もうちょっと観察は必要だが、まぁ大体どのチンピラの仕業かはわかってるよ」


瀧口の中で、既に憎悪で満たされている男が上松ゆりかのクラスで見付けている。

彼のギフトや身体能力などを探れればほぼ答えがわかるという位置まで目安は付いていた。


「殺してやるっ!先生、誰っすか!?」

「まあまあ、まだ慎重に行こうよ。最低1人は殺してる奴相手に無謀に攻めるのはバカのやることさ。人の味を覚えた熊を討伐するのと同じでこっちは対策を取らないといけないだろう」

「くっ……」

「僕もこれまで何人かのギフト狩りを学校から卒業させてきたけど、君のギフト能力に1番可能性を感じているんだ。無限に進化する関はいわゆる切り札なんだ。きちんと卒業まで立派に育て上げるからね。僕の教えは覚えてね」

「…………うっす」


今すぐにゆりかの仇を討ちたい気持ちを堪えて関は苦々しい顔で返事をする。


「君のクラスだった三島遥香君。6人も殺すとはやらかしたねぇ……」

「人殺しに縁とか無さそうな奴なんだけど……」

「所詮ギフト持ちなんか獣さ……。裁判なんか待っていられない、すぐに殺してやりたいってギフト管理局の同士が僕にメッセージをくれてね。彼も三島遥香に恩人を殺された恨みを我慢しているんだ。関も我慢を覚えようね。刹那的に殺すのはバカのすることさ」


飄々と『ギフトリベンジャー』の瀧口は語る。

刹那的に襲い、返り討ちにされたゆりかのことも、仲間とはいえ自業自得と彼は考える。

しかし、関の怒りの琴線には触れずに話題を移した。


「ところであの深森妹もギフト狩りに入れるのか?」

「ははっ、まさか」


メガネをくいっと動かす瀧口。

美鈴に親身になって相談を持ちかけられた男とは思えないほど軽薄に嗤う。


「彼女はただのトカゲの尻尾だよ」

「トカゲの尻尾……」


瀧口は既に美鈴を切り捨てるべき存在としていた。


「まぁ、話してみた感じ彼女は要らないかなぁ……。だから僕のギフトで再び憎悪を増幅させたよ」


『憎悪増幅|《Αυξημένο μίσος》』。

対象者の憎悪に種を植え付けて増幅させる。

瀧口は美鈴の憎悪をより大きく肥大させていた。


「彼女に毒でも与えて何人かギフトを殺してくれるのを期待出来るかなぁ、くらいのもんだね」


瀧口はつまらなそうに呟く。


「この土地は災厄を引き付けるドラゴンが眠る土地と謂われるだけあって憎悪が拡大していく奴が多すぎるね」

「ハーフデッドゲームの犯人とかっすよね」

「そうだねぇ。悪人ばかり生まれる最低の学校だよ」


間接的にではあるが、瀧口の『憎悪増幅』で憎悪を増幅させた田沼がハーフデッドゲームを引き起こしたことが引き金であの事件は起こってしまった。

つまり、ハーフデッドゲームに黒幕と呼べる人物がいるのなら瀧口雅也である。

そして、彼が直々に田沼を殺害した。

要するに悪人の炙り出しを瀧口は行っていた。


「そうなんですね」

「そうだ関」

「ん?」

「面白い奴を見付けた」

「面白い奴、ですか?」


トカゲの尻尾にはもはや興味がなくなる瀧口。

そして、こちらの話題には震えるような声を出す。


「そうだ!僕の『ギフトをかき消す』面白いギフト持ちを見付けた。いや、おそらく僕のギフトだけじゃない。ありとあらゆるギフトを無効化させられるかもしれない」

「『ギフトをかき消す』ギフト!?そんな奴が!?」

「そうだっ!!しかも2人も見付けた!僕は彼と彼女こそギフト狩りに相応しい能力と考えている。僕は彼らを支配下に置きたい。……そして関、君にはギフトをコピーしてそのギフトを身に付けて欲しい!より、完璧なギフト狩りに君はなれるんだ」

「完璧なギフト狩り……」


瀧口は関に直々に命令を下す。

彼が本気になるくらいに、関翔という男に可能性を見出だしている存在なのであった……。







──タケルが危惧したギフト狩りによる時代の幕開けは、もうすぐそこだった……。

ギフト紹介


E級

『憎悪増幅|《Αυξημένο μίσος》』

対象者の憎悪に種を植え付けて増幅させる。

因みに学校の生徒の大半は知らぬ内にギフトの対象者になっている。

秀頼や円も例外はなくギフトに掛かっている。

しかし、絶対に憎悪が増幅されるわけではなく、種を植え付けるとある通り大半の人は憎悪の実が宿る前に散っていく。

しかし、秀頼や美鈴のような既に憎悪が人一倍高い人には際限なく肥大していく。




第6章 偽りのアイドル

第133部分35、偽りのアイドルは諦める


星子を狙ったギフト狩りが、きちんと星子についてリサーチをしている。

ギフト狩りは、対象者を刹那的に襲う教育はされておらず、徹底的に調べ上げるほど粘着さがあります。




第9章 連休の爆弾魔

第210部分3、男の文化発表会


第5ギフトアカデミー周辺が、災厄を引き付けるドラゴンが眠る土地で犯罪率が高いことは、達裄により言及されています。

……なんだその設定!?






次回、美鈴に毒が手渡されて……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ