37、関翔は苛立つ
「なぁにがししょーだ、この野郎……」
関翔はゆりかの背中を見送る。
残念ながら関に対し眼中にないゆりかには彼の言葉は何も響いていなかった。
関の中で自分もゆりかのようにギフト狩りを辞めてしまおうかという考えが過る。
「いや、先生を裏切るつもりはねーけど……」
『ギフトリベンジャー』こと瀧口先生への裏切りみたいな思考を関はやめる。
イライラしないことだ。
いつかゆりかが師匠とやらの悪い部分に幻滅してギフト狩りのところに戻って来るはずだと関は心で愚痴る。
そんな考え事をしながら関が教室に入った時だった。
「よぉセキ、朝から盛大に振られてましたね!」
「うるせぇぞ、佐木!」
「え、詠美ちゃんったら……」
いの1番にクラスメートの佐木詠美が笑っている姿を見て、関が睨み付ける。
それを三島遥香がブレーキ役になっている。
朝のアレを見られていたのを彼は察する。
詠美は性格的に怖いモノがないみたいで、男子相手にも退かない強さを持つ少女であった。
「関君」
「なんだよ三島ぁ!?」
「関君って上松さん好きなんですね」
「ぐぁぁぁ!?」
遥香が関と会話をしていた女性が上松ゆりかだと知っているらしい。
どんな仲だ!?と考えるが、遥香と上松の接点が関には検討も付かなかった。
「三島……。上松はあのししょーって奴が好きなのか?」
「好きでしょうね」
「ぐっ……。師匠とやらに対して、上松の気持ちはラブか?ライクか?オレはライクだと思うのだが?」
「ラブでしょ」
「…………」
チーン、とどこかで鳴った気がした。
いやいやいや、ラブな奴を師匠とは呼ばないって。
まぁ、三島があんまり上松を知らないってことだよ。
彼は心の中でゆりかが師匠に片思いをしている可能性をバッサリ切り捨てる。
「ハルカったら容赦なーい」
「優しい嘘じゃ関君は前に進めないと思うのです」
「だってさー、セキ」
「…………」
(色気のない女2人に何言われてもオレは動じないぜ)
関は心の中で強がりを呟く。
2人に見送られながら彼が席に着いたのであった。
「セキが席に着いた……」
「関君、狙ってますよ」
「狙ってねーよ!」
彼は容赦なく詠美と遥香にからかわれるのであった……。
「ちきしょう……」
関は放課後まで上松のことを引きずっていた。
詠美と遥香にからかわれたのが効いているらしい。
冷静さも失ったのか普段歩かないところまで来てしまった。
というかどこだここ?
まぁ、元来た道を引き返せば家に辿り着けるか……。
関が不測の事態にも冷静に判断を下し、そのまま後ろに引き返して5分くらいしたところに人気はないが、なんとなくオシャレな喫茶店が目に付いたのだ。
朝からイライラしっぱなしだった彼は喉を潤す意味も込めて、ちょっと休憩しようとその喫茶店に入って行く。
「いらっしゃいませ」
「……うっす」
若いんだか、若くないんだか微妙だがそこそこ男前な人が出迎えてくれた。
この店お馴染みのマスターである。
関は知る由もないが、本日のヨル・ヒルのバイトは休みなので、今日は谷川流が接客をしていた。
「おー、新しいお客さんだ。名前聞いても良いかな?」
「せ、関翔っす」
「短い本名だね。僕は谷川。好きにマスターでも店長とでも呼んでくれて良いよ」
突然自己紹介をし合うことになる。
コミュ力高い大人の余裕をマスターは崩さない。
「うっす。マスター、なんかフロートある?」
「メロンソーダとコーラがあるよ」
「メロンソーダフロート」
「はい。翔君、メロンソーダフロート注文ね。好きに席に座って良いよ」
マスターから好きな席と言われていたが、どの席も空いていたので本当に自由らしかった。
彼は入り口近くにあったカウンターへ腰掛ける。
その間にマスターは店の奥へ引っ込んだ。
人がガラガラな割りにスターチャイルドのサインが飾られてあったりして関が驚愕する。
良い雰囲気の店なのに、売上があるのかお客を不安にさせるのがマスタークオリティである。
「はぁぁ……。女って難しい……」
そう彼が呟いているとガラガラと扉が開く音がする。
反射的に出入口へ振り返ると、黒髪で中性的な顔をしていて同じ制服を着込んだ男子がやって来た。
「こんちゃーす、マスター」
「あ、タケル君いらっしゃい」
「ブレンド」
「はいはい」
常連客の声だけで、マスターはタケルだと察した。
長い付き合いなのと、人を覚えるのが得意なマスターの記憶力だ。
そしてタケルは、自分と同じ学校の制服を着込んだ関に気付いて歩み寄る。
興味本位からくる関へタケルは初対面ながらも話し掛けた。
「おー、スゲー。同じ学校の制服だ」
「あ?」
「俺、十文字タケル。そっちは?」
「関翔……」
「翔か、よろしくな」
なんなんだこの店は……?
店員のみならず客まで名乗って名乗らせるのか……?
変な空間に来てしまったと関は心でソワソワしてしまう。
「はぁ……」
まぁ、そんなのどうでも良い。
せめて上松がギフト狩りに戻って来てくれさえすれば俺もモチベーション上がるんだけど……。
そう考えているとマスターがやってきてメロンソーダフロートとブレンドコーヒーを置いて行く。
そのままマスターは特に何もするわけじゃなく、違うお客さんが来るのを待っていた。
「なぁ翔」
「なんだよ?」
1席空けて座るタケルが関に対して口を開く。
面倒とは思いつつも、特に邪険にはせずに素直に返事をする。
「あんた、悩みがあるって顔してるぜ」
「わ、わかるのか?」
「あぁ、愚痴を溢して気が楽になるならいつでも相談に乗るぜ」
タケルが爽やかに声を掛けると関が数秒考え込む。
暇だったマスターは干渉こそしなかったが、面白そうだったので黙って事の成り行きを見守っていた。
「実はさ……、オレが片思いしている女がいるんだけど、なんかオレじゃない違う男が好きみたいなんだよな……。そんな時、タケルならどうすれば良いと思う?」
「…………そうか」
タケルが関の悩みに対し、真面目な顔で頷く。
そしてそれを聞きながら、タケルは脳内で深い思考をする。
(が、ガチ悩みじゃねーか!?俺はもっとこう『体育の教師異常に怖くないか!?』とかしょーもない悩みが来ると思ってたのに……。恋愛経験値3くらいの俺に何聞いてんじゃこいつは……。明智先生、理沙、佐々木、ヨルでも誰でも良い、助けてくれ……)
タケルはパニック状態だった。
(いや、この男じゃその悩み解決は無理でしょ……。こっちの男は恋愛経験皆無だからね……。あっちの男は恋愛経験自体はたくさんあるけど、恋愛経験の自覚がないから結局無理なのは同じか……。……咲夜の周りの男子はこんなんばっかりか……)
内心焦っているタケルの心境をマスターは感じ取っていた。
(マスター、助けて)
(40手前の僕のアドバイスなんか通じるわけないでしょ……)
タケルとマスターが視線で会話する。
仕方ないのかタケルは自分の考えをまとめる。
「そ、それはアレじゃないか?」
「アレ?」
「諦めない心が大事じゃないか?」
「諦めない心、か……」
「そして、時には諦める心だ」
「時には諦める心、か……」
(何言ってんだろ俺……)
タケルは自分の発言が数秒で矛盾してしまったことで顔から火が付きそうなくらい恥ずかしくなってきた。
(だって翔がそもそも誰が好きなのかわからんのが仕方ない!そうだよ、俺が知らない女がどんなタイプなのかとか、顔も知らんのに正しいアドバイスなんか出来るわけない!俺と知り合いじゃない翔の思い人が悪いんだ!)
タケルは暴論にたどり着いた。
因みにお前のクラスメートだし、西軍メンバーだから君ともバリバリ面識あるぞ。
「そっか……。諦めない心と諦める心。2つが大事なのか」
「そ、そうだぜ」
「サンキュー、タケル!俺、諦めない心と諦める心を持って頑張ってみるぞ!」
「お、おう」
(何を頑張るのだろう?)、タケルは口に出しそうになるがぐっと飲み込んだ。
その後、グラスごとメロンソーダを飲み干し、お金を置く。
「マスター、タケル。また来るぜ!」
そう言って、猪突猛進とばかりに喫茶店から出て行く関であった。
「なんなのあれ?」
「さ、さぁ?」
マスターとタケルが困惑しながら関翔が出て行くのを見送るのであった……。
「上松、俺は諦めない心と諦める心を持って君に接するぞ!」
「何言ってんだこいつ?」
次の日の朝。
昨日よりもより変な絡み方をされる上松ゆりかは、関に対してより引くのであった……。
(これはないわ……)
忍はドライである。
タケル君は、秀頼君や理沙がいないと無能です。
因みにせきゆりなんか来ません。
ししょゆりが1番です。
詠美の名字がしれっと明かされました。
出番なんかまだまだ先なのに盛られるなぁ……。
美月、遥香、詠美、関、ターザンが在籍するとかどんなクラスだ。
次回、円から見た美鈴とは……?