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36、上松ゆりかの朝

我の朝は早い。




住む家も無く、第5ギフトアカデミーの学生寮の一部屋を住みかにしているベッドの上にある目覚まし時計が朝方の4時になる。


ジリリリリ!、と激しくなる両親の形見の旧式の目覚まし時計を止める。


「…………ねむ」


6時にセットし直してベッドに潜り込む。


本来は4時に起きて毎朝5キロメートルのジョギングをして、シャワーを浴びて清々しい朝を迎える。

そんな生活を中学時代に送っていた。


しかし、中学時代は不登校だったから成立していた生活であり、高校には真面目に通うようになった我はこの生活が嫌になり、ジョギングも止めていた。

ただ、癖で毎朝4時にセットしていた。


そして2時間後、再びうるさい目覚まし時計が鳴る。


「…………ねむ」


この形見の目覚まし時計、うるさいから捨てようかな?と毎朝のように考える。

スマホの目覚まし機能を使った方がスッキリするんじゃないか?と目覚ましをセットし直す。


7時、再び目覚まし時計が鳴る。


「…………ねむい」


我の朝は早い。


7時に目が覚めて、歯を磨き、寮の食堂に向かう。

重いまぶたのままフラフラと足を進める。


「おっす!気持ちの良い朝だな、ゆりか!」

「……ねむ」


我より一足先にテーブルに座っていたヨルの隣の椅子に我も座り込む。

味のしないコッペパンを口にしながらヨルと雑談をしながら毎朝朝食にありつく。


「おぉ!?今日は元気いっぱいだなゆりか!」

「ねむ……」

「聞いてくれよゆりか!鎌倉時代に実在した口の中に蛇を突っ込むという『蛇責め』ってやつさ、あたしは邪道だと思うんだよ。拷問ってやつは生き物に頼らないで人間が力と刃物だけを使ってやるもんじゃないかとあたしは毎回思うわけよ」

「ねむ」

「なんかさー、生き物使うと残酷なんだよなー」

「………………ねむい」

「なんか、こう、怖くてブルッとする」


ところで、なんでこいつ拷問の話してんの?

和気あいあいとしたヨルの拷問トークに相づちを打ちながら牛乳を飲んでいた。


「よ、ヨルちゃん……。朝から変な話題やめない……?」

「千姫!お前も拷問を知れば新しい世界が開けるぞ!」


同じ寮で暮らす違うクラスの同級生である千姫が我の代弁をしてくれた。

我の感覚がまともで安心する。


「い、嫌ですよそんなのぉ!?美味しいプリンの話とかしようよー!」

「お前、ジャパンの歴史だって教科書に載ってないだけで由緒正しい拷問の歴史があってだな」

「やだ、聞きたくない!パンの味がしなくなるー!」

「元々そんなに味ないパンだろ!さあ、拷問の時間だぁ!」

「ひいいいん!た、助けてぇぇ!」


朝から、騒がしいヨルと千姫であった……。






「学校行くか……」


朝の準備を終えて、徒歩10分の距離にある学校を目指し、我は歩みを進める。

今日はどんな1日になるのかと、入学時よりかは楽しみになっている学校へと向かって行く。


「げ……」

「お?」


学校の校門前に我が見たくない顔を見付ける。

関翔という同い年だが別のクラスの男子が我を待ち伏せていた。

我が学校に入学した次の日に脱退した現ギフト狩りのメンバーである。


「よ、よぉ上松!元気か!?」

「我が元気だと思うならお前の目は節穴だな」

「元気みたいじゃねーか」


今日は我が嫌いな英語の授業があるから元気じゃないのが正解だ。

相変わらず節穴の目をした男である。


「上松のそのキツイ性格、オレは嫌いじゃないぜ」

「はぁ」


そういえば今日のギフト化学の宿題やってなかったな……。

理沙か永遠辺りに宿題写させてもらえないだろうか……。

そうなると早く教室に行って関との会話を打ち切りたいところだ。


「どうだ?ギフトが憎いだろ?ギフト狩りに戻ろうぜ、上松」

「我はそんな不毛なことから足を洗った。我は心を入れ換えて本当の強さを求める忍を目指している。ギフト狩りの正義と我の掲げる正義がズレる限りギフト狩りには戻らん」


師匠の明智みたいにギフトに襲われても肉体だけで追い払える力が欲しい。

ギフトを使って悪さをしている連中をむやみやたらに殺すのは我の正義からかけ離れているのに気付いてしまったのだ。


「う、上松の求める正義ってなんだよ?お、オレならその正義に同調できるぞ」

「ふっ。我の掲げる正義は『世界平和』だ」

「…………は?」

「同調してないだろ」


固まっている関に割り込むと、彼は正気に戻る。


「お、オレの掲げる正義も『世界平和』だ。ぐ、偶然だな上松」

「無理矢理過ぎるだろ」

「あー、良いよなぁ『世界平和』」

「お前目の前で我をバカにしたな?」

「ポンコツな君がオレは好きだぜ」

「我はポンコツじゃないが?」


ポンコツという変なレッテルは剥がしておく。

ポンコツというのは咲夜とかを指すのであって、我はどちらかと言えば真面目系である。


今更ギフト狩りに興味なんかないからどうにか切り抜けられないかと考えていると師匠や絵美たちの集団が見えてきた。


「む?ししょーが来た。さよならだ関」

「お、おい!?ギフト狩りに戻って『世界平和』をやり遂げようぜ!」

「ししょー!」


我は関に背中を向けて立ち去った。

2日に1回のペースでギフト狩りの勧誘をされても、我はもう文芸部に入部をしたのだからキャパオーバーであると何回も伝えてあるというのに面倒な男である。


『クソッ……、何が師匠だ……。くぅ、ししょーめ……』


関がなんかボソッと呟いたが、師匠に勝てるわけがない。











「『ギフト享受の呪縛』か……」


関と別れ、師匠と2人っきりになった時に突然『ギフト享受の呪縛』について質問される。

おそらく、クラスメートの深森美鈴関連だろうか?

彼女とは会話をしたことはないが、紋章が付いている時点でギフト信者と言い触らすようなモノ。

『ギフトリベンジャー』である瀧口雅也にマークされていると見て間違いない。


「元ギフト狩りとして、それの解除方法はないか?」


師匠が我に真面目に相談をしてくる。

そんなことを言われてもあるにはあるが、残酷な真実を告げなければならない。


「『『ギフト享受の呪縛』の呪いを解く』ギフトの持ち主はいた」

「い、いるのか!?だ、誰だかわかるかゆりか!?」

「…………残念ながら、去年に粛清されているんだ」

「な、に……?本当にいたのか……?」


師匠の落胆する声に我は心を鬼にして頷く。


「去年の話だ。呪いを解くっていって商売している男子生徒がいたんだ。学校内や学外でギフトを使って荒稼ぎをしていたんだ」


ギフト狩りのネットワークでは粛清した外部流出不可ではあるがギフトの情報がリアルタイムで更新される。

一応、脱退したとはいえ、現在の我にもギフト狩りのネットワークは持ってはいる。


「しかし、ドンドン法外な金額を要求していったんだ。金持ちには1000万円とか要求してたし、学校の生徒にも1万円と小さい額を要求していながら『値上げしたからやっぱり100万円払え』とか言って暴力をしているクズで消されてしまったらしいよ」

「あちゃー……。バカなんかよ……」


師匠が頭を抱えて、恨めしそうな声を上げる。

そして、目付きが変わる。


「…………そっか。ありがとうなゆりか。このお礼は今度なんかするよ」

「どういたしまして。…………あ」


『ギフト享受の呪縛』の会話をしていて大事なことを思い出し、はっとする。

そ、そうだった……。

完全に忘れてしまっていた。


「ん?」

「お礼というならば今日提出のギフト化学の宿題写させてください!」

「…………」


こうして、今日提出予定だったギフト化学の宿題のプリントを無事終わらせるのであった。

関翔って誰よ?

第9章 連休の爆弾魔

第215部分8、『ギフトリベンジャー』




朝に弱いゆりか。

朝から元気過ぎるヨル。



朝起きてすぐに拷問トークをしてくるメインヒロインのゲームがあるらしいな。




ギフトを使っての金稼ぎ自体は合法です。

スタチャのアイドルや、動画投稿などが良い例。

ただ、法外な金額の要求や暴行や横領は犯罪です。




チラッとだけ現れた千姫ちゃんについて解説。

ゆりかの部屋のお隣さん。

よくヨルとゆりかの奇行を目撃してしまう苦労人。

可愛いモノ好き。

今後関わってくる気もするし、関わらない気もする。

遥香や美月らとも違うクラスに所属している。






次回、イライラする関翔が取った行動は……?

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