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29、細川星子は時間がない

今日、俺は駅前で人を待っていた。

久し振りに彼女に会えるかと思うとソワソワしてしまう。

早く待ち人の星子が来ないかなとスマホの時計を見る。


待ち合わせ時間、5分前。

彼女と会ったら何をしようかと考えていると、とんとんと後ろから肩を叩かれた。


「こんにちは、秀頼さん」

「よ、よぉ!待ってたよせい……こ?」


そこにはマスクを付けた高身長の女性である。

変装用であろう帽子からは金髪がはみ出している。

星子は星子ではあるが、なぜかスタチャ姿であった。


「な、なんでその姿……?」


予想外に現れたスターチャイルドに驚愕する。


「す、す、スタ……」

「しーっだよ、秀頼さん」


俺の口に人差し指を置いたスタチャが、マスクと帽子の間から見える目で大人っぽく笑う。

色っぽいアイドルから至近距離でそんなことをされたら俺も困惑してしまう。


「星子って呼んで」

「せ、星子」

「うん。よく出来ました秀頼さん」

「……っ」


ニコニコしたスタチャから頭を撫でられる。

星子かと思ったらスタチャが現れた時点で、俺の脳内の処理能力がオーバーヒートをしていた。


「ふふふふっ、秀頼さんったら赤くなってる」

「う……」


スタチャが妖艶に微笑む。

これは不意打ちとかそういうんじゃねぇよ……。

星子が可愛い過ぎて辛い……。

スタチャが美人過ぎて辛い……。


「ど、ど、ど、どうして星子はそんな姿なんだよ?」

「ごめん、ごめん。さっきまで撮影してたから着替える時間無くて慌ててきたからさ。あっち用の服も持ってなかったし」


星子の身長が150センチそこらと絵美と大差ないくらいに低いが、スタチャになると170センチほどとゆりか並みの長身になる。

そりゃあ服のサイズが合わないよね……。


「あーあ……。身長なんか弄らない方が良かったかなぁ?」

「い、いや……、その姿が似合ってるよ」

「ふふ、ありがとう秀頼さん」


スタチャが左腕に抱き付いてくる。

ちょ、ちょっと……。

星子、距離感ヤバくないか……?

照れくさくなり、右手の人差し指で頬をかいてしまう。

通行人がスタチャの美人っぷりに幾人か振り替えっている。

妹よ、変装しても君は目立つね……。


「秀頼さん、ってくすぐったいなぁ……」

「スタチャに……、間違った。私に兄はいない設定なんです。だから秀頼さんです」


自分が撮影されている時の『スタチャ』という一人称を訂正しながら、自分と星子はあくまで別人という設定にこだわる。

前にスタチャに『お兄ちゃんって呼んで?』といったらドン引きされたことが思い浮かんだ……。

俺はマゾだけど、心が苦しくなった出来事である。


「さ、秀頼さん!デートに行きましょう」

「お、おう」

「いやー、ずっと楽しみでした☆」


俺にしか見えない角度でスタチャスマイルを見せる。

マスクをしているのがとても残念だった。


「じゃあ、喉渇いているからスタヴァで良いよね?」

「ま、任せるよ」

「レッツゴー!」


上機嫌なスタチャに引っ張られて駅前を歩いて行く。

通行人から羨ましそうに向けられる視線に悪い気はしないままスタチャと腕を組んだまま歩くことになる。


「さ、最近学校どうだ?」

「そうですねー。和ちゃんと仲良くしてますよー。最近彼女、ラノベ作家になるんだーって気合い入ってます」

「ラノベ作家目指してんの!?」

「はい。主人公は豊臣光秀で執筆したるーって張り切ってました」

「は、はは……」


どう考えても俺に対しての嫌がらせじゃねーか……。

偶然とはいえ、前世の本名になってるし……。

俺、前世の両親は『秀吉と光秀が混ざった名前で良いじゃん』とかわけわかんないこと言ってたけど、転生して『光秀と秀頼が混ざった名前』になって複雑な気分だったりする。

秀吉と秀頼で絶妙にズレたな……。


偶然買った『悲しみの連鎖を断ち切り』というギャルゲーをプレイしていて、俺の本名を逆さにしたみたいなクズゲス男の明智秀頼を見た時は複雑な気分だったよ……。

よくあるギャルゲーにありがちなクズだけど、やる時はやる親友役ポジション的な奴だったら許せたものの、理沙ルートでNTRし始めた時はPCをぶっ壊しそうになったものだ。

永遠ちゃんが存在しなかったら、理沙ルートクリアしてアンインストールをして、中古屋へ売り払いに行くところだったよ。


「星子はずっと今の仕事を続けるつもりか?将来、他にやりたいこととかある?」

「け、結婚とか」

「け、け、け、け、結婚!?結婚!?結婚!!!?」

「ふふっ、秀頼さんめっちゃ動揺し過ぎだし」


くすくすとからかう笑みを浮かべて、俺の鼻に人差し指を置くスタチャ。

鼻を触られて機械を制止させるみたいに、俺の動きも止まる。


「好きな人と結婚したい気持ちって悪くないし、むしろ当然だよね?」

「た、確かにな……。は、ははっ……」


妹の前で涙は見せられないが、心では大号泣をしている。

こんなに心で泣くのは、叔父さんに泣くなって言われながら壁にガンガンと8回連続で叩き付けられて、変なモノを無理矢理おしゃぶりの代わりにさせられてしまい部屋の隅で小さくなってブルブル震えて正座していた時以来かもしれない……。

あの時は、近い内に叔父をぶっ殺そうと本気で考えて家の台所にあった3本の包丁から品定めとかしていた時だったか。

実行するためには子供の時から鍛えていて懸垂とか出来ていたし、あの子から『すごい、すごい!』なんて言われて気を良くしていたっけ……。


「現在好きな人がいる……とか?」


スタチャは原作でヒロインではないのでタケルと結ばれる展開はない。

しかし、この今の俺が住む世界では、星子がタケルを紹介してくる展開も完全否定は出来ずにビクビクしてしまう。


「いますよ」

「え……?」

「ふふっ」


彼女の2つの目が俺に向けられている。

え?

俺?

いや、でも、まさか……?


「じょ、冗談だよな……?モヤモヤするんだけど!?」

「ふふっ、モヤモヤしててください」

「せ、星子!?」

「さぁ、この話は終わりです!スタヴァ、着きましたよ」

「…………」

「スタヴァ入ったら誰が私の正体に気付くかわからないから恋愛トーク禁止ですよ」


してやられた……。

今現在は妹である星子の姿ではないとはいえ、妹にからかわれた……。

あー、スタチャも星子も好き過ぎてモヤモヤするぅ……。


「じゃあ、行きましょう秀頼さん」

「あ、あぁ」

「私がお兄ちゃんじゃなくて秀頼さんって呼ぶのも異性として意識してるからなんですよ」

「え、え!?そ、それも冗談……?」

「はい、冗談……かもしれませんね」

「否定か肯定をしてくれぇ!」

「…………鈍感」


スタチャが俺を無理矢理スタヴァへ押し入れる。

「ねぇ、本音は!?」と聞いても、「店内で恋愛トークはタブーです」と笑顔で両手の人差し指で✕マークを作って先に店の奥へ消えていってしまった……。


スタチャが好き過ぎて色々と辛い……。

スタチャに兄呼びをさせようとしてドン引きされたエピソードはこちら。

第8章 病弱の代償

第167部分8、十文字理沙は食べさせたい




次回、スタチャがスタヴァへ!

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