22、月【視線】
「じゃあ次は俺のクラスで調査するか。慣れてるクラスで人が見付かれば良いんだけどなー」
タケルが次の調査するクラスを自分の所属するクラスに提案する。
特に否定する理由は皆無なので、タケルの意見に賛同する。
彼はどんなクラスに所属しているかも気になっていたところだ。
こんな機会でないと、タケルや永遠や美鈴のクラスに絡む時もないだろうし興味は大いにある。
「あ……、でもわたくしは美鈴に嫌われていて向こうが顔を合わせたくないだろうから最初に彼女が居ないかだけ見てきてくれないだろうか?」
「あぁ、わかった。……大変だなぁ、妹に嫌われるか。俺が妹に嫌われているとしたらちょっと耐えられそうにないな……」
タケルが苦笑する。
その態度から兄妹仲は良好なのがわかる。
そんな彼の反応を見て、わたくしも呪いを解いて美鈴との仲を取り戻すという気が引き締まるのであった。
「じゃあクラス見てくるね」と消えたタケル。
1分ほどして偵察を終えたタケルが戻ると「今なら行ける」とグッと親指を上げた。
「素早く戻ろう」と彼に釘を刺し、2人でタケルの所属する5組に入って行く。
まず視界に映ったのは、席に置かれた花瓶とそこに置かれた花である。
なんだこれは……?
「おい、タケル?このクラスは虐めでもあるのか?」
「虐め?」
「なんだこの机は?しかも向こうの席にまで花が置かれてあるぞ。イタズラにしても質が悪い。これはあまりに酷であろう。お前、虐めを黙認しているのか?」
タケル、永遠、美鈴が所属するクラスでこんな縁起でもない悪質な虐めが起きているのではないか?と心配するし、見て見ぬ振りをしているのならわたくしが注意しないといけないと気持ちが昂る。
「あぁ……。これはイタズラじゃねーよ。本当にこの席のクラスメートが亡くなったんだよ……」
「な、なに……?あ、あっちの花もか……?」
「あぁ。入学してすぐに2人がこのクラスから死亡者が出ているんだよ……。この席の上松、向こうの席の熊本……。理由はわかんねーけどやりきれねーよな……」
タケルが悲しそうな目で上松さんという人の席に置かれた花を見ている。
そんな話、わたくしは知らなかった……。
知らない自分を恥じてしまう。
「上松なんか顔もよく覚えないまますぐに謎の自殺を遂げたらしくてさ……。もしかしたら俺や他のみんなと友達になれてたかもしれないのに、よくわからないまま死んでしまってさ……。本当にモヤモヤするよ……」
やりきれない、モヤモヤする。
タケルが遠い目をして熊本という人の席を見ていた。
そうか……。
わたくしも上松さんと呼ばれた人の席にお祈りをしておいた。
タケルの『もしかしたら友達になれてたかもしれないのに』という言葉がより悲壮感を加速させる。
そう思うと、わたくしも上松さんや熊本さんが亡くなる前に接点を持っておけば何か変わったのかな?と考えてしまうのであった。
「よし。じゃあ調査に戻るか」
「そうだな」
タケルがわたくしを引っ張る声で立ち直った時であった。
「じゅ、じゅ、じゅ、十文字が女連れだぁぁ!?」
「おい、やめろ津軽」
緑髪でカチューシャを着けた女子生徒がわたくしとタケルの前に現れる。
『それにウチのクラスもああいう奴いるから慣れてる……』というタケルの言葉の意味に察する。
詠美と似ているのはこの津軽と呼ばれた生徒なのを察する。
「か、彼女的なあれですか……?」
「…………違う」
「否定が遅いわね。意外と脈あるわよ十文字」
「うるせー……」
タケルに対し、詠美と重なる悪い顔で弄りだす津軽さん。
何から何まで感性が同じ過ぎる……。
「秀頼がいたら、あんたからかわれてたわよ?」
「むしろ秀頼が原因で、俺が彼女といるんだよ」
「…………がんば」
「今、哀れんだ?」
タケルと津軽さんのやり取りを黙って見ていた。
なんか近すぎる距離感にムカムカしてくる。
…………なんだ、この感情は?
タケルもタケルだ。
『むしろ秀頼が原因で、俺が彼女といるんだよ』
まるで、わたくしといるのが罰ゲームとも取れる発言に身に覚えがない感情が沸き上がる。
なんだ?
なんなんだ、この胸の痛みは……?
「あわわわわ、十文字の狙ってる人がめっちゃタイプ!私、津軽円です!」
「は、はぁ……。深森美月だ」
「美月も円ハーレムに加えたいわね。あなた、即レギュラーよ」
「すまん。遠慮させていただく……」
「くっ……。一向に円ハーレムメンバーが揃わない」
詠美よりクセの強い人だなぁと津軽さんを見ながら考えてしまう。
「円ハーレムなんか揃うわけねーだろ。諦めろよツガマド」
「うざいわね、あんた。絶対十文字ハーレムより巨大帝国作ってみせるんだから!」
「そんな怪しい集団はねーよ!?」
タケルと津軽さんは悪友的な人間関係に思える。
ある意味安心する。
「ちょっと理沙ー?あんたの兄貴が彼女連れてるわよ?」
「兄さん!」
「うわっ、理沙!?」
津軽さんが声を掛けると、タケルにそっくりな顔をした黒髪女性が現れる。
確かにタケルの妹といわれると納得させられる。
「に、兄さんに彼女……?」
「り、理沙……?」
「兄さんの彼女にふさわしいかは私が面接します。こちらへ」
「余計なことしないで!?なんなの、そのテンション!?」
「兄さんはちょっと周りを見渡してみると良いの。私とか永遠さんとか円さんとか私とか私とか」
「ん?何が?」
「…………」
果たしてあれは本当に兄妹のやり取りなのだろうか?
兄妹というより男女の仲に見えるのは、わたくしの気のせいだろうか……?
「に、兄さんの彼女ですか!?」
「……いや、違うが?」
なぜかわたくしにターゲットを変えるタケルの妹さん。
「ほっ、良かった」
そして、安心した様子を見せる妹さん。
なんだ?
これがブラコンというやつなのだろうか……。
「こっちが妹の理沙。こっちが深森美月。なんやかんやあって美月と行動することが多いから理沙もよろしくな」
「ふーん……。美月さんと、行動することが多い」
じっと理沙さんがわたくしに厳しい目で見てくる。
敵意しか感じない……。
「ま、お互い仲良くな」
「よろしくお願いしますね。ただの知り合いの美月さん」
「あ、あぁ……。よろしくな、ただのタケルの妹である理沙さん」
「ぎぎぎ……」
「ぐぐぐ……」
「?」
理沙さんとは明智秀頼とは別のベクトルで合いそうにない。
お互いバチバチに火花を散らせるのであった。
「十文字……。あんたさぁ、恋愛面に対してだけは秀頼リスペクトやめなさいよ?」
「え?」
「鈍感かこいつ……。わかっててやってる秀頼より質悪いわあんた……」
「?」
津軽さんとタケルがコソコソとなんか変な会話をしている素振りが見えていた。
でも多分、津軽さんはタケルに好意はまったく無さそうだけど、理沙さんからは妹以上の好意がひしひしと伝わってくるのであった……。
永遠もなんとなくタケルに気があるようにも思えたが、もしかして結構タケルはモテているのだろうか?
永遠が教室にいないのが幸いだった気がする。
それから話を本題へと変えて、クラスや知人で知っている珍しいギフト所持者についての話題になる。
しかし、津軽さんはギフト所持者ではないらしく、タケルの妹さんも特に人に協力できるギフトではないらしい。
珍しいギフトとかを尋ねても、首を横に振るのであった。
「秀頼とかなんか凄そうなギフト持ってそうだよな」
「わかります。明智君は確かにそんなオーラありますよね」
十文字兄妹で明智秀頼の話題をしていた。
どれだけ君らはあの男が好きなんだ……。
「十文字……。本当あんたって……」
「え?」
「全然秀頼を理解してないのね……」
「どういうこと?」
「さぁね?私に聞かないで、自分で知りなさい」
「あいつ一匹狼だからな」
「はぁ……」
タケルと津軽さんでも明智秀頼トークをしている。
何をそこまであいつに魅力があるのか、理解できなかった。
そんなわけでタケルのクラスでも有力な情報は見付からなかった。
残念だが仕方ない。
わたくしとタケルのクラスにも目当ての情報がない以上、まったく知らないクラスを調べる必要があるようだ。
「しゃーない。まぁ、もっともっと頑張ろうな美月!」
「ああ!ありがとうタケル」
タケルから優しく背中を叩かれてやる気を注入される。
彼から元気を渡されたみたいで嬉しくなった時だった。
「ん?」
なんか視線を感じて辺りを見渡すが誰もわたくしに注目をしていない。
気のせいか……?
「どうした美月?」
「いや、なんでもないぞ」
「そっか。じゃあ美月のクラスまで送って行くよ」
「ありがとうタケル」
「お熱いねー」という津軽に茶化されながらタケルのクラスを出て行く。
カップルに見られているのかな?とか考えると顔が熱くなるのであった……。
「どうして……?どうしてお姉様がタケルさんと一緒に行動しているの……?意味わかんない……、意味わかんない……、意味わかんない……」
その視線に気付かぬまま……。
次回、イチャイチャが止まらねぇぜ!