19、月【紹介】
「美鈴、高校入学おめでとう」
「……っ!」
美鈴から無言で近くにあった小物を何個か投げられるがわたくしは右手でキャッチしたり、振り払った。
「本当にお姉様は最低ね……。何で美鈴がお姉様なんかと高校まで同じ場所に通わなきゃならないのよ」
「だから美鈴の呪いを解ける人が」
「出るわけないじゃない!あっはははは!どうせ、美鈴を哀れみたいんでしょ!?可哀想だねって下に見る対象が欲しいんでしょ!?あっはははは!あっははははははは!」
美鈴は狂ったように高笑いをする。
違うという否定の言葉は美鈴には届けない。
美鈴への呪いのスタートがわたくしが悪いなら、治すのもわたくしがやるしかない。
ぐっと美鈴への罵倒を受け入れる。
それから3分程度、「クズお姉様」「偽善者女」などと貶し終えた美鈴は自室に引き返した。
やれやれと思いながら美鈴が荒らした箇所を片付けしようとすると違和感があった。
「……?」
ふと、わたくしの右拳が強く握られているのに気付いてしまう。
…………わたくしが美鈴を殴りたくなってしまっているのか?
あり得ないことなのにその右拳は力が強くて数秒開けることが出来なかった……。
『双子の妹を構うお前の気持ちもよくわかる。…………しかし、いつかしっぺ返しをくらうぞ』
『絶対美月も美鈴を切り捨てる日がくる。私が美月より早くそれが来てしまっただけだ……』
お父様の言葉が脳裏に浮かぶ。
違う。
わたくしは美鈴を切り捨てることなんか考えていない……。
開いていく右手を見ながら、自分は悪い予感が止まらなかった。
「久し振りだな、永遠!」
「美月と一緒の学校で嬉しいです」
第5ギフトアカデミーにて、わたくしは永遠と再会した。
スマホで何回かやり取りはしていたとはいえ、直接会う機会はほとんどなかったので親友の再会を喜ぶ。
最後に会ったのは2年前。
宮村永遠の両親死亡の葬式であった。
あれ以来だが、だいぶ永遠の纏う雰囲気が変わっていた。
目に光はなく、おしゃれにもあまり気にしてないようにも見える。
しかし、わたくしの前では変わらぬ永遠で接してくれるのが嬉しかった。
「美鈴と同じクラスみたいだな」
「そうだね……。話はしてみたけど、美月の友達だからか刺があってね。昔の明るさは失くなったかな」
「……」
永遠も十分昔の明るさが失くなっている気はするが……。
「そうだ。クラスメートといえば私のクラスの十文字タケルさんですよ」
「は?十文字タケル?男?」
「あの人はとても不快なんですよ!くふふふふふ」
「怖い、怖いぞ永遠……」
目に光のない永遠が妖しい笑いをするだけで少し寒気がするくらいだ。
よほどなんか永遠にとって許せないなんかがあったようだ。
しかし、永遠の口から男の名前とは……。
実は結構好きなんじゃないか?
「もしかして永遠が気になってたり?」
「は?」
「ちょっと好きになってたりするんじゃないの?このこの」
「あり得ません。あんな不快男に気なんかあるわけないじゃないですか!」
「ムキになってないか?」
「なってません!好みからだって外れてます!」
明らかにムキになっている永遠にほっこりした。
これが新しい高校生活の始まりだった。
クラスでは最初こそボッチ生活を送っていたが、最初に詠美と仲良くなり、それからすぐに遥香とも打ち解けた。
他のクラスメートとは話さないわけではなかったが、主にこの2人とつるむことが多くなった。
詠美とはズバズバ本音で語り合えたり、遥香はわたくしと詠美のブレーキ役になってくれたりと波長が合ったのか、良いトリオになったのかなと思う。
詠美はギフトを所持していないらしく、逆に遥香はギフトを持っているという。
自分は大したギフトは持っていないと慌てる遥香と、クラスメートのギフト持ちを何人か教えてくれた詠美。
車の耐久年数がわかるギフトなんかは個性的で、お金稼ぎに使えそうでお父様に気に入られそうだと考える。
ただ、バラエティー豊富でも協力して欲しいギフトは皆無だなと考えていた時だ。
遥香から耳寄りな情報をもらう。
「明智秀頼さんって人がギフトに詳しいので、ボクが紹介しましょうか?」
「明智秀頼?」
知らない名前であり、考えても顔が出てこない。
しかし、遥香から「絶対に明智さんなら力になってくれます!」と力説されるので頷いておいた。
詠美からは「まぁ、がんばってー」と他人事な反応であった。
その次の日に遥香に案内をされながらその明智という人の元へ出向くと遥香は廊下で会話をしていた2人組に声を掛けた。
「明智さん!それに十文字さん!」
「三島?」
「よぉ、三島」
茶髪の男性と黒髪の男性の両方と知り合いだったのか遥香は慣れた口調で話しかけていた。
クラスでは全然男性慣れしてなさそうなのに、もうギフトアカデミーで仲良しな男子2人と友達になっている遥香に実は肉食系なのか考えてしまっていた。
それから茶髪の男性が明智秀頼というのを教えてもらった。
「俺、十文字タケル。よろしくな、深森」
「あぁ、よろしくな十文字」
黒髪の男性が十文字タケルといった。
思い出した。
親友の永遠から不快と呼ばれながらムキにさせた少年の名前であった。
ようやく主人公とヒロインの出会いシーンです。
秀頼は完全にモブ。
次回、タケルと美月でイチャイチャするよ!




