18月【名前】
「本当に妬ましい……。勉強も得意で運動も得意な文武両道。それに美しい才色兼備。羨ましいわ……。美鈴には何もないのに、なんでこんなに毎日惨めな思いをしなくちゃいけないのっ!?」
美鈴はわたくしに当たるようになった。
自分が呪いに縛られなかったかったら気付きもしなかったとわたくしを罵る。
学校に行くと友達みんなが汚物を見る目で軽蔑したとベッドで泣いている。
もう、美鈴はわたくしに甘えなくなった。
「美鈴はダメだ。才能がない」
「そ、そんなことはありません!ま、まだギフト陽性になるのに時間が掛かっているだけです!」
まだたった1ヶ月しか時間が経ってない。
もう少し美鈴が耐えたら必ず呪いは消える。
……その希望もお父様の一言で粉々になる。
「いや、……2週間経って紋章が消えない場合失敗だ。一生治らない」
「…………え?一生?」
「それに美鈴は頭も悪いしワガママだ。私が悪い、美月が悪いと見苦しい……。正直、切り捨てるしかないな」
「それは……、あんまりじゃないですか?……美鈴だって好きで苦しんでいるわけではないんです……」
元々、両親は美鈴をあまり好意的な目で見ておらず、わたくしに期待をしていた視線は薄々感じていた。
しかし、本当にそれを告げられると美鈴が可哀想で胸が痛くなる。
「双子の妹を構うお前の気持ちもよくわかる。…………しかし、いつかしっぺ返しをくらうぞ」
「しっぺ返し……」
「絶対美月も美鈴を切り捨てる日がくる。私が美月より早くそれが来てしまっただけだ……」
お父様だって美鈴が嫌いなわけじゃないのはわかる。
でも、そんなのあんまりじゃないか……。
わたくしが美鈴を切り捨てるなんてあるわけないじゃないか……。
気落ちしながらわたくしはお父様と別れる。
どうしてこうなったんだ……?
わたくしはただ、お父様の期待に応えてギフトを覚醒させただけなのに、どうして美鈴を苦しめることになる……。
「ははっ。あっはははは!お父様に美鈴は捨てられたんだ!」
わたくしの部屋の机の椅子に美鈴は座り、笑っていた。
何が面白いのか、本気でわからない。
わたくしは冗談が通じないから……。
「だって美鈴知ってるもん。呪いを刻まれる前からお姉様ばかりが愛されていたことに!」
「そんなこと」
「あるのよっ!」
言葉を遮るように美鈴は叫ぶ。
「ずっと誕生日プレゼントのぬいぐるみも大きさが違うもの。こんなに美鈴のは大きくなかった。……そもそも部屋の広さも違う。……全然美鈴は愛されてないんだよ」
紋章の広がる美鈴の顔に涙が滴る。
重力が働き、床に涙が落ちていく。
「そもそも産まれた瞬間の名前からお姉様は美しくて大きな月!それに比べて美鈴はただの鈴。酷い差じゃない……。『月と鈴』を並べるなんてあんまりじゃない……。名前自体が呪いじゃない……」
名前が呪い……?
わたくしは自分の名前が好きだ。
美しくて自由に輝く存在である『月』が名前にある。
わたくしは美鈴の名前が好きだ。
可愛くて美しい音色の『鈴』が名前にあるから。
わたくしが大好きな名前を呪いなんて言わないでくれ……。
「大嫌い……。みんな大嫌い」
美鈴はそのまま走って部屋から逃げていった。
…………わたくしがどうにかする。
絶対に呪いは解けるとわたくしが美鈴に断言した。
何年かかっても必ず美鈴を呪いから解放する!
だからわたくしはもっともっと勉強に励む。
美鈴になんて言われても良い。
絶対に紋章を失くす方法を探しだすんだ。
「永遠……。引っ越しをするのか……?」
「急に決まっちゃったね……」
ずっと一緒だと思っていた親友の宮村永遠は、中学からは別の地で勉学に励むことになる。
「仕方ないね。どうせ私は鳥籠に縛られているから……」
「…………そうか」
わたくしと同じ。
永遠も家族関係に縛られている。
だからこそ、仲が良いのかもしれない。
「わたくし、永遠には黙っていたがギフトを持っているんだ」
「……そうなんだ」
「だから、ギフトアカデミーに入学することになるだろう。わたくしは今からすでに第5ギフトアカデミーを狙っている。永遠も中学を卒業したら同じ学校を目指さないか?」
「……それも良いね!じゃあ、高校でまた会おうか!」
「勉強、やめるなよ」
「やめないよ」
わたくしは永遠と高校で再会する約束をした。
ギフトアカデミーに入れば、美鈴の呪いを解ける人が現れるかもしれない。
だからわたくしは待ち続けた。
美鈴に嫌われて邪険にされようが付きまとったし、無理矢理同じ学校も受験させた。
美鈴との会話があっても素っ気ないけど、それでもめげなかった。
罵倒されてもめげなかった。
少し暴力的にされたこともあったがめげなかった。
気付けば時間は過ぎて、第5ギフトアカデミーに入学していた。
共通部分はここまで。
原作とクズゲス分岐は次のページから。
秀頼に絵美たちの記憶を消された原作永遠が取り憑かれたように勉強をするようになったのは、亡くなった家族に縛られていたことと同時に、美月との『勉強をやめるな』の誓いもあったからなのかもしれません。
そりゃあ、タケル君は永遠ちゃんに「不快です」って言われますよ。
第7章 プロローグ
第158部分 番外編、プロローグ3
次回、主人公登場。