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16、月【ギフト享受の呪縛】

【原作SIDE】




「成功したぞ、美月」

「ぐぅ……。熱い……、熱いですお父様……」

「大丈夫だ美月。この『ギフト享受の呪縛』は数日は痛むかもしれんが、これはギフト陰性だった美月を更なる高みへ目指すための試練なんだ」

「は、はい。お父様……」


顔が焼けるように熱い。

灼熱に当てられたことはないが、焼かれるとはこれくらい苦しいのかなと幼いながらにわたくしは考える。


魔術の魔方陣からわたくしはヨロヨロと離れていく。

こんなに呪いとは苦しいのかと苦痛に顔が歪む。

でも、お父様もこの苦痛を味わい、ギフトを覚醒させて、深森家を更なる発展に導いた。


それなら、わたくしもお父様と同じ苦しみを味わいギフトを覚醒させる。


額から汗が止まらない。

しばらく学校には行けそうにない。

永遠と勉強できないのは残念だと楽しい出来事から離れてしまうことを惜しんでしまう。


「う……」


顔がズキズキ痛む。

魔術が成功した時に使用人に見せてもらった時の自分の顔はショックだった。

汚くて、醜い紋章がわたくしの顔に広がっている。

その顔を見た時は自分の顔だと信じたくなくて、顔が熱いのに背中はうすら寒く鳥肌が立つ感覚があった。

まるで小さいぶつぶつの集合体を見た時の恐怖が身体に走る嫌悪感。

その紋章が疼く。

一瞬、これが本当に自分の顔なのかと死にたくなるくらいだった。


でも、お父様から『この紋章は数日で消えるし、体内にギフト因子が発生し、ギフト陽性になることで消える』と説明がされていたのでなんとか持ちこたえる。

すぐに消える、すぐに消える。

念仏のようにわたくしは心で呟いた。


「ぐぅ……。ぅぅ……」


涙が出そうになるのを堪える。

これは、お父様による試練なんだ。

素晴らしいギフトを覚醒させ、深森家の時期当主になるための試練なんだ。

こんなことで、わたくしは負けないんだ。


「…………お姉様」

「み、すずか……?」

「大丈夫ですかお姉様!?」


美鈴が駆け寄ってくる。

本当に優しくて可愛い妹。

双子の姉であるわたくしを慕ってくれるのが嬉しい。


「大丈夫だ、美鈴!すぐにこの紋章も消えるさ!」

「お姉様……」

「気にするな。それに、美鈴は『ギフト享受の呪縛』をする必要はないんだ。全部、わたくしが長女が故の試練なんだ」


深森一家からは、ギフト陽性は現れない。

わたくしも美鈴も生まれつきギフト陰性。

でも、美鈴は妹であり、当主にはならないからこの苦しみを味わうことはない。

わたくしはただ、美鈴が幸せになって自由に生きてくれればそれで満足なのだ。


「はい。お姉様」

「しばらくわたくしは学校を休む。美鈴は健康にな」

「わかりました!お休みなさい、お姉様」


頭を下げた美鈴と別れてわたくしは自室に入る。

夜の闇で染まった部屋を電気を点けずに窓に駆け寄り、カーテンを開き、窓を開ける。

すると風が肌に当たり呪いの熱を冷ましてくれる。

その風の向こう側に輝く美しい月がわたくしの視界に入る。


「月は自由だ。月は縛られない。わたくしも月になりたい……」


月を触りたくて、窓の向こうへ手を伸ばす。

しかし、手の指は月を触ることはなく、風を切るだけに留まる。


「…………まるで『月だけの世界』だな」


わたくしの視界には世界を美しく照らす月だけが輝いていた。

その月の輝きに魅了され、紋章の痛みを忘れさせる。

風が心地良い。

わたくしを『月だけの世界』に連れて行って欲しいな……。

だんだんとわたくしの目が細くなる。


深森家の時期当主、呪いの痛み、身体を蝕む紋章、醜い顔。

すべてのプレッシャーとストレスを癒してくれるように、今日の満月は暖かい光を発していた……。










『クハハッ!お前の強さ気に入ったぞ。ほら、素晴らしいギフトを深森美月へ与えようぞ』









「ウソ……。紋章が消えている」


次の日、開けっ放しになっていた窓から入る風の寒さで目を覚ますともう痛みは引いていた。

お父様が1週間苦しんだ痛みを、わたくしは1夜で終わらせた。

そして、試練が合格とばかりにわたくしの血はギフト陽性になっていた。





それと同時に──、ギフトも覚醒した。

【原作SIDE】と表記されてますが、しばらくクズゲスと共通のエピソードになります。




次回、ギフトを覚醒させた美月は……?

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