12、明智秀頼の作戦失敗
「やぁ、概念さん」
「お前、よく姿現せたな!?」
昼休みに気まずい別れをした日の放課後、部活に出席するが、他のメンバーが来る気配がない。
重苦しく、緊迫した部室だった。
「秀頼のダチ来なさすぎじゃね……?」
「そもそも三島は『エナジードレイン』のせいで中々部活出れてなかったし……。そういや、部活の立ち上げ時の3人目って何してるの?あんたと三島以外でもう1人部活に所属してたんだろ?」
「さぁ?さぼり?」
「さぼりしか居ないじゃねーか……」
「そもそもウチがくつろげる教室が欲しかっただけだし、文芸部なんかどうでも良い……」
「てめぇ、仮にも部長だろ」
部室を私物化してる奴の言葉の重みは凄かった……。
1時間待っても誰も来ず、俺は部室を出ていくのであった。
「…………」
さて、じゃあ目的であった危険人物の深森美鈴に会いに行くか。
美月ルートに突入した以上、なにをやらかすかわからない。
どうにか打てるべき1手を講じて、タケルを守らないと……。
おそらく美月に会いたくなくて、保健室でさぼっているはず。
美鈴のさぼり方はランダムで、夜に散歩してるや、教室にいるなど色々なパターンがあったはずだ。
そして、今日は昼以降から美鈴の姿が見えなかったし、保健室で休んでいるはずだ。
保健室の先生からも顔の紋章に気を掛けているらしいのは原作で語られていたな。
2人っきりになりたいチャンスを部活で調整し、いざ保健室に突入しようとした時だ。
「絵美……?」
栗色のツインテールを揺らした絵美が保健室内に消えていくのを目撃する。
気配を消しながら保健室を覗き見ると、ぎこちないながらも会話をしている絵美と美鈴の姿があった。
「…………本当に絵美は優しいな」
今日の作戦は失敗だ。
ただ、絵美が美鈴を気にかけている姿を見て嬉しくなった。
優しさと元気があるんだから、絵美には誰にも敵わない。
そんな優しい絵美を見て、俺は少しだけドキッとするのであった。
帰り道、絵美と合流して一緒に自宅まで向かっていた。
隣の家だから向かう方向は同じという点ではゆりかみたいに襲ってくる人がいても俺が守ることができるのは安心だ。
「そういえば俺はたまたま保健室前に俺はいたけど絵美は何してたの?」
本当は絵美と美鈴が何かやりとりしていたのを目撃しているわけだが、知らない風を装って探りを入れる。
「保健室で深森さん……美鈴が寝込んでいたから様子を見にね。わたしが保健室連れて行ったんだし気にかけないと!友達にもなったしね!」
「友達……?」
「うん。気難しい人だけど、秀頼君ほどじゃないよ」
「俺、気難しい人!?」
「あははっ」
絵美から笑われて複雑な心境だ。
にしても、絵美と美鈴が友達ね……。
原作プレイヤーからしたらあり得ないと一蹴されそうだ……。
永遠ちゃんの時と良い、絵美は原作と真逆の行動を取るんじゃないか?と疑いたくなる。
それくらい、秀頼に思考も何もかもが操り人形にさせられていたわけだろう。
原作の絵美は悪人でしかなかったからな……。
出番が多い秀頼でもたまーにプレイヤーの好感度を上げる活躍があっても、絵美はそういった好感度を上がるイベントすら皆無だった気がする。
「というか、みんな揃いも揃って欠席なのなんで?タケルもいなかったんだぜ……」
「ぐ、偶然ですねー。十文字君も不在だったんですねー」
いつまでも愚痴っても仕方ないか……。
切り替えていくか。
「そうだ、絵美。アイスでも食べるか?奢るぞ?」
「食べる!」
「じゃあコンビニ行くか」
「ダメだよ秀頼君!スーパーの方が安いし、種類たくさんあるんだよ!こっちこっち」
「ちゃっかりしてるなー」
「秀頼君の財布は握ってあげます」
「なんで!?」
「ギャルゲーとか変な本で散財しないように……」
「余計なお世話だよ!」
こんな冗談を言い合えて、気楽に色々会話できるこの絵美との距離感が俺には最高に居心地が良かった。
この日常を守れるように、俺は原作を抜け出すんだ……。
次回、ゆりかが修行してって言うから……。




