7、深森美月はヨルと出会う
放課後の調査が出来ない以上、昼休みしか調査は出来ない。
今朝、コンビニで買ってきたグミを昼飯にしてあたしは廊下を歩いていた。
是非ともハーフデッドゲームにて奇跡の生還を果たす『生きるレジェンド』であるターザンさんの話を聞いてみたい。
ターザンさんのクラスは遥香と同じだったか。
明智監視の過程で仲良くなった遥香のクラスに近付く。
すると、見計らったように遥香が教室から出てきた。
「あ!ヨルさん!」
「遥香!」
遥香があたしに近付いて来るので、こちらも駆け寄る。
その態度からあたしに用事があるみたいであった。
その遥香のすぐ後ろにゆりかと同じくらいに身長が高めの金髪の女子生徒も近付いて来た。
一体誰だろうか……?
あたしがその女子生徒を注視しているのに気付いた遥香が、彼女を紹介する様な仕草をしてきた。
「か、彼女は深森美月です。ヨルさんに用事があるので探しに行くところでした」
「深森美月です。よろしくお願いいたします」
「……美月」
深森美月……。
顔は見たことないが、知っている名前だ。
そうか、彼女が深森美月なのか。
あたしが握手を求めると、美月が素直に握手をしてくれる。
意味はないが、なんとなく手を握ると信頼できる人かどうか判断できる勘が発動する。
これがギフトかどうとかは一切関係なく、ただ生きるのに必死だったあたしが生き残るために身に付けた感性である。
遥香も美月も信頼できる温かみがある。
とりあえずは信じて良さそうだ。
明智にも、1度握手をしてみるべきかもしれないなと思わされる。
「それで、用事って?」
悉く調査が途切れてしまうが、『ギフトに困ったら頼れ』と言ってしまった以上、約束は守るべきだ。
こういったギフト問題についても触れることで、データも増えていく。
「ヨルさんは秀頼や永遠のクラスと聞いているが間違いないか?」
「ヨル、でいいぜ。クラスはその2人と同じだ」
「よ、呼び捨てなんて烏滸がましいです……」
遥香がペコペコしている。
理沙と同じで遥香も呼び捨てにしないタイプなのに気付いていたのでそこは触れないでおく。
「では単刀直入に……。わたくしの妹、深森美鈴を知っているか?」
「クラスメートの……。あぁ、なるほど姉妹ってわけか」
身長は大分差があるが、顔や髪質がそっくりだ。
名字も一緒だし、疑いようがない。
「彼女の……、妹の呪いを解きたい……」
「の、呪い!?」
「……」
あぁ……。
美鈴の顔に刻印されているのは『ギフト享受の呪縛』か……。
近い未来、禁忌とされる『ギフト享受の呪縛』に手を出していたのか……。
顔に紋章が広がり、死ぬまで身体を蝕むという魔術に簡単に手を出してくれる。
人間の在り方の概念を変えるという非人道的な行いから禁忌とされる。
しかも、ギフトを持たないにも関わらず、『自分はギフト信者です』と言い触らしているようなモノ。
近い未来、彼女はギフト狩りに殺害されるだろうね。
「おい、なぜ『ギフト享受の呪縛』に手を出した?わかっていて、あの魔術に触れたのか?」
「わかっていて、お父様が魔術に触れた……」
「あ、あのー?『ギフト享受の呪縛』ってなんですか?」
遥香が申し訳なさそうに割り込んでくる。
確かに一般に伝わってない魔術の存在だからな……。
あたしは過去に『ギフト享受の呪縛』に苦しんだ人を見たことがあったからその救いのなさをあたしは知っている。
「基本的にギフト陽性ってのは生まれつきの体質によって変わってくる。太りやすい体質、アレルギー体質とかと一緒なわけだ」
「はい」
「逆であるギフト陰性も生まれつきの体質だ」
「まぁ、そうですよね」
「そのギフト陰性から無理矢理ギフト陽性に体質を書き変える魔術が『ギフト享受の呪縛』だ。その呪いが顔に広がる紋章となって死ぬまで身体を焼いた様な痛みとなって襲い続ける……」
「ま、まさか……?そんなのありえるんですか……?」
「ありえる」
あたしと遥香の会話に割り込むように美月が入ってきた。
なんとなくそうなんじゃないかって気がしていたがやっぱりそういうことか……。
「わたくしがそれを体験している。自分は元々、ギフト陰性の身体だった」
「つまり、お前も『ギフトメイド』ということか……。あたしと一緒だな」
それを意味することは、人工的に造られたギフト陽性者。
あたしと同じ『ギフトメイド』であるらしい。
「で、でも!美月さんもヨルさんも顔に紋章なんてないじゃないですか!」
「あたしと美月はギフト陽性に身体が書き変わったからな」
「……つ、つまり……」
「顔に紋章が広がっている人はギフト陰性のまま。力も才能も体質もなくギフトに触れた報いとして、死ぬまで紋章の呪いが発動する」
だから天然のギフト使いである遥香やタケルなんかが『ギフト享受の呪縛』を刻んだところで特に何も起きない。
ギフト陰性者にのみ、毒となって身体を蝕んでいく。
「な、なんでヨルさんや美月さんはギフト陽性に変わったのに美鈴さんはギフト陰性のままなんですか?これもランダムなんですか?」
「いや、実はカラクリがあるんだ」
「え?そうなのか?わたくしもそんなこと知らなかった」
美月が驚いた顔になる。
そうか、まだ解明されていないのか。
あたしは美月らに解説を続ける。
「実はギフト陽性と診断されるには『ギフト因子』が身体にある人なのが前提条件。そこはわかるよな?」
2人が頷いたのでそのまま続ける。
「でも実は『ギフト因子』が入っているだけでギフト陽性と診断されるわけではない」
「え、えぇ!?そうなんですか!?」
「…………」
遥香は驚き、美月は言葉を失ってしまった。
彼女らの常識をひっくり返してしまったらしい。
「例え話になるが、ギフト陽性者と診断されるには体内に『ギフト因子』が100以上が必要だとする。しかし、体内に『ギフト因子』が99以下の場合、ギフト陰性と診断されるんだ」
「え?え?『ギフト因子』持ちなのにギフト陰性とかそんな事なるの!?」
「なるんだよ。あたしと美月が完全にそれ。疑似陽性みたいなモノだったんだ」
因みに『ギフト因子』が99以下の人がギフトを覚醒する可能性はゼロであるからギフト陰性で間違ってはいないのだ。
「その疑似陽性者が『ギフト享受の呪縛』を受けることでシンクロし、『ギフト因子』を増加させて100以上に強制的に持っていくわけだ。
だが、『ギフト因子』が完全にゼロの人だっているわけだ」
「それが……、美鈴だった」
「ああ。そういうことだ。運が無かったとしか言いようがない……」
こればかりは本当に仕方ない。
『ギフト享受の呪縛』の説明は大体こんなもんだ。
「確かにギフト研究家を名乗るだけあって詳しくて驚いたぞ」
「その名で呼ぶのやめて……。遥香に格好良いを否定された今、そんな惨めな名であたしを呼ばないでくれ……」
「えぇ……。ボクのせいですか……?」
「そりゃそうだろ……」
遥香が不本意だと顔で語っている。
「そ、それで!美鈴を呪いから解放する方法を知りませんか!?」
「無いな」
「…………え?」
「残念ながら、そんな方法はない。無闇やたらにギフトなんていう触れてはいけない力に触れたんだからあるわけないだろ」
「そ、そんな……」
「……ごめん。本当にこれだけは無いんだ……」
『ギフト因子』は他人の血に触れると消失する。
ギフト陽性者から輸血をされたところで意味なんかない。
大半の『ギフト享受の呪縛』の最後は、呪いで死ぬか、ギフト狩りに殺害されるか。
大体はどちらかの最後を迎えることになる。
クラスメートの美鈴は、長生き出来ないだろうな……。
空気が重くなる。
美月は放心し、固まっている。
それを見かねたのか遥香が口を開く。
「そういえば、ヨルさんは何しにこちらへ?」
「そ、そうだ!忘れていた!」
このまま帰るノリでいたが、遥香と美月で会話をするのがメインではなかった。
遥香の言葉で思い出す。
「ターザンさん!ターザンさんに会わせてくれ!」
ターザン・スルスル・メータンの存在を完全に忘れていた……。
次回、ターザンさん登場……?