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番外編、カプチーノ

明智秀吉のギフトによる殺人。

それは親族や知人の間で広まっていった。

しかし、世間にはこの事件は報道されなかった。


ギフトによる死亡者が出た事件で最初の1件目。

朝伊先輩のみならず、設立されたばかりのギフト管理局からも2人の犠牲者を出した。


国はこの事件を報道しないという手段を取った。

世間では素晴らしい力などと持て囃されていたギフトの力に水を差せなかったのだと推察する。

この事件を知った親族や知人に多額のお金が国から支払われ、箝口令が敷かれた。


そして渦中の人物である明智秀吉は人知れず、即急で死刑という判断が下された。

こうやって、ギフトによる最初の死亡事件は世間から抹消された。


幸いにも、まだ幼い秀頼君と星子ちゃんは犠牲にならなかったことが幸いだった。

しかし、彼らを誰が引き取るのかという問題が勃発した。


彼らの身寄りとして挙がったのは朝伊先輩のお姉さん。

それと明智秀吉の弟、つまり僕の姉貴の旦那であった。


僕と、事件のショックから体調を崩して床に就くことが増えた木葉には口出しの出来ない話になっていた。


僕は彼ら2人のために祈った。


『秀頼と星子の将来が本当に楽しみなの……。この子達にはさ、私みたいに兄妹で離ればなれになって欲しくないのよ』


せめて、この朝伊先輩の願いだけは叶えて欲しかった。



しかし、僕の姉貴から兄妹の結末を聞いた時は本当にショックだった。



朝伊先輩のお姉さんは『結婚もしてないし子供なんか引き取りたくない』。

姉貴の旦那は『兄貴のガキなんかに金なんか使いたくないし、育てたくない』。

お互いに疎まれることになったという。


その折衷案で片方ずつを引き取る。


朝伊先輩のお姉さんは『ウチは女家族だから星子ちゃんなら引き取っても良い』とは言ったらしい。

姉貴の旦那も『女ならまだ引き取って良いが、野郎なんか要らない』とまた口論になった。

姉貴はそもそも気が弱く、亭主関白な旦那には逆らえずに口を挟むことが出来なかったという。

泥沼な口論の末、姉貴の夫婦が不本意ながら秀頼君を引き取るということが決定したらしい。


『ガキなんかに金は払えない。酒の金に使う』。

そんな言い分で子供を作らなかった姉夫婦に秀頼君が引き取られることになったのが心苦しい。


僕は本当に子供が可愛いと思っている。

自分の娘の咲夜も可愛いし、店に来た子供にも優しく努めた。


でも、姉貴の旦那も子供と触れあうことで少しは変わるんじゃないか?そういった期待はあった。












『ウチの旦那が……、ウチの旦那が秀頼に暴力を振るうの』

「っ!?」


姉貴が電話で泣きながら僕に電話を掛けてきた。

働かずに酒を飲む旦那は、姉貴が働きに出て帰ってくるといつも秀頼君が泣いているという。

しかも大声で泣くと近所に聞かれると秀頼君を調教し、部屋の片隅で1人啜り泣いているという。


「警察とか児童相談所とかに相談すれば」

『そんなことしたら私があの人に殺されちゃう……』

「はぁ?あ、姉貴が無理なら俺から通報するかバカ旦那に直接注意しても良いし」

『無理、無理……。やめて流……。話だけ聞いてくれればそれで良いの……』


僕に縋り付き、姉貴は泣き付く。

でも、何も行動には移さないで欲しい。

泣きながら姉貴は僕に残酷なことを突き付ける。


明智なんか本当にロクでもない。

今からでも旦那を殴り殺してやりたいほどに昔の金髪ライダー喧嘩番長の血が騒ぎだす。


朝伊先輩のバカ旦那は人殺し。

姉貴のバカ旦那は虐待。

本当にロクでもない兄弟に怒りが沸いてきた。


「うん……。わかった。とりあえず俺の方でもなんか手はないか調べてみるよ」


僕は弱りきった姉貴にそうやって言葉をかけるしかないほどに無力だった。

姉貴の前だと、どうしても俺って言ってしまうし、昔みたいに短気な面が出てしまう。


もう、人を殴ってやりたいとか何年も考えたことなかったんだけどな……。

怒りって気持ちは嫌だね……。




「パパ!ママ、ママ!」

「うん。終わったよ。ママのところ行こうか」


電話が終わったのを見計らい咲夜に連れられて、ベッドで寝ている木葉の側にあった椅子に座る。

そして、咲夜を抱きながら何か言いたげな木葉に向き合う。


「ママ!ママ!」

「よしよーし」


木葉は咲夜に甘える声を出して頭を撫でる。

この子と同い年で、こんなに可愛がられている裏で泣いている秀頼君を考えると胸が痛くなった。


「パパ?どうだった?お姉さんからの電話だよね。秀頼君、元気にしているみたいだった?」

「…………」


当然木葉は朝伊先輩の子供を心配している。

他所に引き取られた星子ちゃんはどうなったかわからないぶん、確認の取れる秀頼君を気にかけていた。


「……あぁ。秀頼君、元気にしてるってさ!木葉の心配することじゃないよ」


僕は笑顔で嘘を付く自分に、吐き気がするほど嫌気が差した。

先輩が死亡し、参ってしまい尚更咲夜に甘々になった彼女に秀頼君の現状なんか伝えられなかった。

「ならウチも安心した」と儚く笑う木葉を見て、僕のアイデンティティがボロボロに崩れていく様がわかった。


それからはなんとなく、仕事にやりがいが無くなった。

朝伊先輩が亡くなってから、僕は一気に老け込んだと思う。


木葉と咲夜の家族が居て幸せなのに、姉貴から泣きながら相談をされる度に幸せに横槍を入れられた気分になり楽しめなかった。

そんなに僕は頭が良くないから、秀頼君を助ける方法がないかネットや本で調べてもよくわからなかった……。


いつしか、接客で学んだ張り付いた笑顔が家族の前でもしている自分に気付き、自己嫌悪をしていた。

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