30、連休の爆弾魔
あなたの人生は平和ですか?
あなたの人生は幸せですか?
あなたの人生はいつまで続きますか?
もし、あなたの人生がこの瞬間に終わるなら……。
後悔はありませんか?
ゴールデンウィーク最終日。
連休最後の休日をたくさんの人がファミレスで過ごしていた。
賑やかな喧騒。
そして、そんな賑やかな輪の中心にマスクとサングラスで顔を隠す2人の女性が向かい合わせで会話をしていた。
「学生って今日まで連休だったんだよね?」
「そうですねー、仕事ばかりで連休って感じはしなかったですが……」
金髪の女性はそう言って視線をコップに移す。
氷の溶けたアイスコーヒーの残量が低くなっているのであった。
彼女はそれを見て注ぎに行くのが面倒だなとコーヒーを口に付けようとしたがやめた。
「ゴールデンウィークねぇ……。仕事休んだことないよー」
長い黒髪の女性は身体を伸ばしながら羨ましそうに呟く。
日々の仕事に身体が疲労の悲鳴を上げている。
「キツイ仕事ばかりだ」と恨めしそうな声を上げる。
金髪の女性は「ははっ」とその仕草に軽い笑いを浮かべていた。
「どう?兄と仲良くやってる?」
「そうですね。自分は仲良くしていると思います」
「良かったね」
「はい」
そんな雑談をして、金髪の女性はコーヒーを飲み干した。
それを見届けた黒髪の女性はサングラスをくいっと動かすと、向こう側に座る彼女へ違う話を振る。
「今いくつだっけ?18くらい?」
「いえ……、14です……」
「えっ!?ウソっ!?マジか……、私と10以上離れてるのか……。ずるいなぁ」
「ははっ……、そんなことないですよ……」
「てか見えないって!絶対大学生くらいに見えるもーん」
金髪の女性はたじろぐ。
後ろめたい気持ちは隠す様にサングラスとマスクの裏で渇いた声で誤魔化す。
「そろそろ帰ろうか。今日は楽しかったよ」
「いえ、こちらこそ。今日はありがとうございました」
「いいよ、いいよ。顔上げなー」
黒髪の女性が領収書を手に取る。
そのままレジに歩いていく彼女を金髪の女性が後ろに着いて行く。
レジにたどり着くと合計1580円という表示が出る。
金髪の女性が「払います」と慌てるも「良いから良いから」と制止させる。
「ありがとうございます」と頭を下げると気にしたような態度もなく電子マネーでお金を支払う。
「ありがとうございましたー!」という女性店員の声が2人の耳に届いた時だった。
店の出入口から同じように女性2人組と似た格好をしたサングラスとマスクを付けた男性が不審物を持ってレジに現れる。
「おい、おらぁ!金出せやぁぁぁぁ!」
「ひっ!?」
2人に接客をしていた店員さんが悲鳴を上げる。
その姿を女性2人が黙って眺めていた。
「さぁ、金を出せ!5分以内にこの店にある全部の金を俺に渡さねぇとこの店全部吹き飛ぶぞぉ!」
そう言った男は不審物を女性に見せ付ける。
それは大きくてカチカチと音がする爆弾であった。
時間のタイマーが作動し、4分59秒、4分58秒と時間を刻む。
それに気付いたお客さんも悲鳴を上げると男は大声を出し始めた。
「この店から誰も外に出るなよ!誰か1人でも逃げようとした瞬間全員死ぬ爆発が起きるぞぉ!でも、俺だけは死なねぇ!なぜならこの爆弾はギフトで作った『最強インチキ爆弾』だからなぁ!ひゃははははは!」
男は不愉快な声で笑い始めた。
ギフトで作った爆弾。
それを聞いたお客たちはみんな世間を賑わす爆弾魔の報道を思い出す。
指名手配をされている峰田篤史。
そいつは自由自在な爆弾を操る『最強インチキ爆弾』というギフトで強盗を繰り返す犯罪者であった。
『連休の爆弾魔』として有名であり、ゴールデンウィーク中に3度事件を起こしては逃げおおせる現代のルパンと噂されている男であった。
それに気付くと、みんなその男に従うしか道はなかった。
奥から店長らしき男性がいつの間にか現れておろおろしていた。
「ど、ど、どうやったらこの爆弾を止められますか?」
「金って言ったろうが?ほら、もうすでに4分前だ。止める方法はレジの金を全部俺に手渡すことだけだぁ!この爆弾はな、俺の指紋認証でしか止められない特別性だ。ほら、金寄越しな」
「し、しかしこれは売上金で……」
「んなのわかってんだよぉ!ほら、死んじゃうよぉ?爆弾だよぉ?俺だけ死なない爆弾だよぉ?良いのかなぁ?」
煽る様な赤ちゃん言葉で喋る男を見て、店長は慌てだす。
これまでの3件の峰田の犯行も同じ手口であり、ギフト管理局から逮捕されそうになってもこの手口で逃げていた。
完全お手上げとばかりに慌てて店長はレジを開くかどうか葛藤していた時だった。
「うりゃあああ!」
「っ!?」
同じくマスクとサングラスで顔を隠した黒髪の女性が峰田の足を払い除けるとそのままだらしなく床に倒れ込む。
「な、何しやがっ」
「くたばれっ!」
言い終える直前、顔面に女の足が峰田の顔に食い込む。
その威力でマスクがだらしなく外されて、その中にあった前歯が2本抜け、サングラスが割れて床に落ちていった。
それと同時に男は持っていた爆弾を床に落としてしまう。
側に居た金髪の女性がその爆弾を拾うと、それをおかしそうに男が笑う。
「ざ、残念ながらよぉ、その爆弾は俺が直接指紋認証をしないと爆発すんだよぉ!てめぇが俺の手を取って無理矢理指紋認証をするのも不可能ぉ!爆弾が店の外に出た瞬間爆発ぅぅぅ!詰んでんだよぉ、ばぁぁぁかぁぁ!」
「……そう」
金髪のサングラス女性は無理矢理男の手を取り指紋認証をしようと考えていたが、それが不可能となると別の手段である奥の手しか無さそうだ。
爆弾を手に持ち、自分の人差し指を上げた。
「は、はははははっ!ばぁぁぁかぁぁ!俺以外の指紋以外押すと爆発すっぞぉ!俺の指紋しか認証しねぇよぉ!」
男は勝ち誇った顔を浮かべるが「うぜぇ!」と吐き捨てられ、黒髪女性に蹴られる。
そのままレジのあるテーブルに頭をぶつける。
店長さんもどうしたら良いのかわからずパニックになっている。
「…………」
金髪の女性は自分の人差し指を指紋認証をさせる窪みに指を置く。
2分22秒……。
シュンと音がして爆弾のカウントダウンが終わる。
「はい、解除しました」
「は?……んなわけねーだろ!?」
女性が爆弾を男性のところへ転がすと慌てた様子で男は爆弾に近付く。
「あ……、マジだ」と拍子抜けした峰田の声がする。
そして、黒髪の女性が爆弾をひったくる。
「はい、店長さん。通報して」
「……は、は、は、はいっ!」
店長が慌ててスマホを取り出し、緊張からかぎこちないタップを始めた。
「な、なんで俺の『最強インチキ爆弾』が」
「壊れてたんですよ」
「いや、んなわけ」
「壊れてたんですよっ!」
「ギフト能力で作ったのにそんな不備」
「壊れてたんですよ☆」
男の爆弾が壊れていたとごり押す金髪の女性はマスクとサングラスの裏でスタチャスマイルをしていた。
彼女はギフト『キャラメイク』を使い、自身の右手だけを爆弾魔である峰田篤史の右手をコピーしていた。
その為、爆弾に指紋認証をしていた瞬間だけは彼女の指紋は峰田のものと完全一致をしていたというのが真相である。
当然、『偽りのアイドル』の正体のギフトのために壊れていたをごり押すしかなかった。
一応後から警察らが爆弾の指紋検査をした際に自分の指紋がないと『キャラメイク』の正体がバレる可能性も考慮して、自分の指紋も付けておいた。
自分が座っていた席や、アイスコーヒーが入ったコップから同じ指紋も検出されるだろうし、彼女のギフトに繋がる証拠は何も残らないだろう。
「な、何者なんだよお前ら!?」
峰田は情けなく声を上げると女性は顔を隠していたマスクとサングラスを剥ぎ取る。
「リーフチャイルド」
「ちょ!?何やってんですか!?」
黒髪の長い女性の正体を明かすと、それを遠巻きに見ていたお客からは「えぇ!?」「きゃあああ!」と驚きや、嬉しそうな悲鳴が上がる。
やってしまったと金髪の女性が頭を抱えると、リーフチャイルドが彼女に近付く。
「『連休の爆弾魔』を追い払ったアイドルとして売名行為しよっ」
「え……?」
「おりゃ!」
悪魔の囁きをしたリーフチャイルドが、相方のマスクとサングラスを剥がすと金髪のアイドル・スターチャイルドが姿を現す。
「すげえええ!リーチャとスタチャだぁ!」
「え!?本物!?」
「きゃあああ!スタチャ!スタチャ!」
「リーフチャイルドかっけぇ!」
爆弾魔がファミレスにやって来る前以上に店は大騒ぎになって、リーフチャイルドとスターチャイルドが『連休の爆弾魔』を退治したと大々的に報道された。
自分のギフトが無かったらこの状況をどうにもすることが出来なかったことをスタチャは痛感する。
「ふぅ。怖いなぁ、ギフトって……」
偶然ファミレスに行ったら爆弾魔の事件に巻き込まれるという経験が人生ではじめてだったので、そんなことを呟いていた。
連休の爆弾魔編
──完
「あ!そうだ、星子ちゃん!ユキ兄が通っているっていう喫茶店教えてよ!?」
「た、達裄さんから『俺の知人には絶対教えるな』って口止めされているので私の口からはちょっと……」
「ねー?なんでー?」
「達裄さんがいつも出歩くと知人が居るから誰も居ない空間が欲しいって」
「本人あれでボッチで名乗ってんだよ」
「あはははは」
スターチャイルドの正体の細川星子。
リーフチャイルドの正体の遠野葉子。
2人が共通の男を話題に出しては談笑していた。
ギフトの事件に巻き込まれたことなど一切感じさせない2人の会話が続いていた。
連休の爆弾魔編完結です!
長い間ありがとうございました。
ギフト解説。
A級(上級)
『最強インチキ爆弾』
使用者 峰田篤史
自分の考えた爆弾を生み出せるギフト。
性能などを脳内でイメージしたスペックの爆弾を作成可能。
その脳内イメージで作った爆弾を無から作り出す。
男だけ爆発、女は被害なしなどそういった設定にも可能。
触っている間はいくらでもカスタマイズできる。
例)
制限時間を5分から3分に変更
解除方法を指紋認証からパスワード式に変更
などなど
峰田が星子が解除した爆弾を前にして「あ……、マジだ」と拍子抜けしたシーンの時にカスタマイズが出来たのだが、葉子にひったくられて未遂に終わった。
葉子の察しが悪かったらまた逆転される可能性があった。
作中で峰田が持っていた爆弾のスペック
・制限時間5分
・自分とお金以外は爆発で死ぬor壊れる
・ファミレス全体を壊せる威力
・中に居た人物が誰かが1人でも外に出た瞬間爆発。
・爆弾を解除しないまま外に放り出されると、店と外の境目で爆発が起きる。
・峰田篤史の指紋認証で爆弾が止まる(指はどこでもOK)
・峰田篤史以外の指紋を認証させると爆発する。
・誰かから無理矢理指紋認証させられても解除不可。
・自分の意思で指紋認証をしないと解除できない。
遠野葉子の年齢25歳。
兄である達裄の年齢26歳。
葉子は星子の本名は知っているが、ギフト能力については知らない。
マスターの喫茶店の存在は達裄から秘匿されている。
達裄は知り合いの中で喫茶店の場所を知るのは姉の遠野巫女 (ギャルマスター)のみである。
マスターとギャルマスターは店でたまたま知り合った。
ギャルマスターは年一くらいの頻度でコーヒーを飲みに来る。
葉子も達裄ほどではありませんが、かなり強いです。
アイドルをしているので運動もかなりしている。
達裄をアゴで使う女が弱いわけがなかった。
第9章 連休の爆弾魔
第234部分 27、明智秀頼は失敗する
スタチャとリーチャがトラブルに巻き込まれたというインスタの投稿はこれのことである。
峰田をしばいてすぐの投稿でした。
原作世界において。
原作世界では以下の会話がありませんでした。
「どう?兄と仲良くやってる?」
「そうですね。自分は仲良くしていると思います」
「良かったね」
「はい」
この会話がなかった為に1分早く2人が解散したのが原因で
峰田と帰り際に店の外ですれ違うのみであり、事件には巻き込まれませんでした。
しかし、2人が不在では事件の解決にはならずに5分経過してファミレスは爆発。
店員とお客の37名が犠牲になり、峰田は悠々とお金を抜き取り逃走しました。
しかし、その事件2日後にギフト管理局から逮捕されました。
秀頼君との兄妹仲が良好なクズゲス世界以外、回避不可能。
秀頼と星子の絡みが少ないですが、少ないからこそこの兄妹のやり取りが印象に残るのかなーと個人的には思っていますね。
いつかまたイチャイチャさせたいカップリング。
原作未来のギフト狩りの間では明智秀頼と並ぶくらいに憎悪の対象にされています。
秀頼の方が憎しみがやや大きかった。
犯行数、犠牲者の数など秀頼の方が多い。
そんなわけで連休の爆弾魔編が完全完結しました!
ありがとうございます!
次のページからは谷川家の過去編をお送りしていきたいと思います。
クズゲスSIDEなのでハッピーエンドになります。